WOOD JOB!(ウッジョブ) 神去なあなあ日常 : 映画評論・批評
2014年5月7日更新
2014年5月10日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
バランス策士の矢口監督が山と向き合い、狂気の挑戦を見せるグッジョブ
なにかと新発見が多い映画だ。都会のちゃらんぽらんな18歳が、気まぐれから林業の研修生になる。すぐに逃げ出すつもりだったが、個性的な村のひとたちと暮らす中でいっぱしの山の男に成長していく。
適度な笑いを交えて綴られる成長物語。都会育ちの視点を通すことで“林業”という仕事をわかりやすく知ることができるし、気持ちのいい青春映画としても標準以上。まったくもってバランスがいい。
ただ「標準以上」「バランスがいい」は「飛び抜けていない」と裏読みもできる。実際、矢口史靖監督は“バランスがいい巧者”の印象が強い。若き日の矢口監督の伝説に、過去のPFF受賞作の傾向と対策を練り、最初から受賞狙いで応募してグランプリを獲ったというエピソードがある。その後も「ウォーターボーイズ」や姉妹編の「スウィングガールズ」など企画意図が明確な作品をウェルメイドに仕上げてきた。その策士っぷりが魅力であり、また批判の糸口でもあった。
で、最新作の「WOOD JOB!」だ。これまたウェルメイドな青春コメディだが、山奥に分け入り、自然の息吹と同調し、バカバカしいほど巨大なセットを建造するなど木村大作系、いや、ベルナー・ヘルツォークばりの狂気じみた領域に踏み込もうとしている。“山”というテーマを向き合った結果、計算やバランスで割り切れないナニカに挑戦しようと腹を据えたのではないか。
“山と生きる”というモチーフは役者の殻も突き破った。伊藤英明が粗暴で単細胞な木こりを好演し、「海猿」より荒々しく人懐っこいユーモアを振りまいたのは予想外だったし、長澤まさみが化粧っ気のない山育ちのヒロインで“雑”な魅力を開花させたことも注目だろう。
笑ったのは、染谷将太扮する主人公をバイクの後ろに乗せた長澤まさみの「背中になにか当たってるんですけど!」というセリフ。彼女は出世作「世界の中心で、愛をさけぶ」で、主人公の原チャリの後ろで「胸、当たる?」と言ってのけ、全男子のモヤモヤをアツくさせた張本人である。「モテキ」も男子側の妄想を満足させるキャラだ。それを本作では逆シチュエーションに置くことで、「男が求めるヒロイン像」を足蹴にしてみせたのだ。アイコンとしての“長澤まさみ”を反転させようという野心と頼もしさにもニンマリしてしまった。
(村山章)