25年目の弦楽四重奏 : 特集
ベートーベンの名曲とアカデミー賞キャストの美しすぎる融合──
“本物の俳優陣”と“本物の音楽”が奏でる至高のドラマに浸りきる
オスカー俳優のフィリップ・シーモア・ホフマン、クリストファー・ウォーケン、キャサリン・キーナーほか名演技者が結集し、ベートーベンの隠れた名曲をモチーフに人生の深みを描き出す「25年目の弦楽四重奏」が7月6日に公開される。本物の俳優と音楽が融合を果たす、至高のドラマの見どころとは?
■圧倒的な演技力に引き込まれる──
映画の目利きがうならずにはいられない“アカデミー級の演技の四重奏”!
長年の友情と同じ志が築き上げ、絶妙なバランスによって保たれてきた人間関係が、ふとしたことからみるみるうちに崩壊していく様子をとらえた「25年目の弦楽四重奏」は、派手なアクションも目を見張るVFXも登場しないドラマ作品である。だが、「この波乱は、この先どうなってしまうのか?」というスリルや、思いがけない人物と人物がつながる可笑しさ、別れがもたらす悲しみ、そして“大切なもの”が浮かび上がってくることでわき出す温かな気持ちなど、見る者の感情をスペクタクルな超大作さながらに揺さぶってくる。
一体、その原動力とは何か。それは、フィリップ・シーモア・ホフマン(「カポーティ」)とクリストファー・ウォーケン(「ディア・ハンター」)というアカデミー賞受賞俳優、そしてアカデミー賞ノミネート女優のキャサリン・キーナー(「マルコヴィッチの穴」「カポーティ」)、「シンドラーのリスト」の名優マーク・イバニールの圧倒的な演技の力に他ならない。威厳と父性に満ちたウォーケン扮するチェリストのピーターが突然発した引退宣言によって、それまで鉄壁の絆を誇っていた弦楽四重奏団に思わぬ亀裂が走り、メンバーそれぞれが内に秘めていたエゴが吹き出しはじめる。第2バイオリンのロバートをシーモア・ホフマン、その妻でビオラのジュリエットをキーナー、そして第1バイオリンのダニエルをイバニールが演じ、まさに“アカデミー級”の演技の四重奏を奏でるのだ。
その名演を、デビッド・リンチ、ジム・ジャームッシュ、アン・リーら名監督の作品で知られる撮影監督フレデリック・エルムズのカメラがとらえる。ドキュメンタリー映画で高い評価を受け、今回が監督2作目となるヤーロン・ジルバーマン監督の手腕にも驚かされるはずだ。
■ベートーベンの隠れた名曲が表現する“人生の深み”──
豊かな風味に彩られた“良質の人間ドラマ”が、見る者に人生の答えを与えてくれる
タイトルが表す“弦楽四重奏”として全編を貫いているのが、ベートーベンの名曲「弦楽四重奏曲第14番」。この曲は、楽章の間に休みを入れずに演奏するという画期的な曲で、休みなく40分間も演奏を続けると楽器の音程がバラバラに狂っていき、演奏家たちは演奏を止めてチューニングし直すべきか、調弦が狂ったままで最後まで続けるのかの判断に迫られる。その様子はそのまま人生にも当てはめることができ、「長きに渡って緊張感を伴う人間関係にも、微調整が必要なのではないか?」という比喩にもなっているのである。
「各楽章は形式も長さもテンポも異なっていて、そのパターンをなぞるようにして脚本を書いた」とジルバーマン監督が語る物語は、パーキンソン病の宣告を受けた楽団の父親的存在のピーターの引退宣言をきっかけに、25年目を迎えた弦楽四重奏団メンバーそれぞれの憤りや嫉妬、ライバル意識がむき出しになっていく不協和音を描き出す。「第1のパートを弾きたい」と言い出す第2バイオリン、それを止めようとしたことから不仲に陥ってしまう妻のビオラ奏者、さらには夫婦の不仲が招いてしまう愛娘の思いがけない反抗──果たして、間近に控えた演奏会はどうなってしまうのか。
人生は、休みなく懸命に生きていればいるほど、家族や友人の近しい間にあつれきや迷いを生じさせてしまうもの。だが、そんな経験を持ってこそ、初めて人生に対しての答えが出るということを、本作は改めて教えてくれる。良質の人間ドラマが生み出す温かな感動と人生の答えに、見る者は心を打たれるに違いない。
■映画ファンだけじゃない、クラシック・ファンも納得!
劇中演奏は世界的演奏家が担当!
ベートーベンの名曲をモチーフに弦楽四重奏団を描くという作品だけに、音楽面にも注目だ。
劇中の「弦楽四重奏曲第14番」の実際の演奏を担当しているのは、世界的に知られるブレンターノ弦楽四重奏団。同楽団の現役団員チェリスト、ニナ・リーが実名で出演を果たしているほか、ピーターの亡き妻ミリアム役として世界的人気を誇るメゾソプラノ歌手のアンネ=ゾフィー・フォン・オッターも出演し、幻想的なシーンでその歌声を披露している。本格的なクラシック・ファンも満足できる要素も満載だ。
演奏者を演じた俳優たちは、それぞれ2人のコーチの指導の下に、あらゆる演奏者としての動きをトレーニング。弓の持ち方や弦の押さえ方、楽器を持つときの動きに磨きをかけた。フィリップ・シーモア・ホフマンのコーチはニューヨークを拠点に活躍する岩田ななえと徳永慶子の2人の日本人バイオリニストが務めた。
そしてサウンドトラックは、「ブルーベルベット」「マルホランド・ドライブ」ほか数々のデビッド・リンチ作品を手掛けてきたアンジェロ・バダラメンティが担当。まさに映画ファンはもちろんのこと、本格音楽ファンも納得できる作品となっている。