俺もお前も

劇場公開日:

解説

「浦島太郎の後裔」に次ぐ成瀬巳喜男演出作品。

1946年製作/70分/日本
配給:東宝
劇場公開日:1946年6月13日

ストーリー

青野と大木は商事会社に勤める一介の会社員である。二人は常に社長に重宝がられ毎晩のように社長が主催する宴会に二人の姿が見られる。そのため二人は銘々が社長の気に入りであると信じ込んでいた。社長が二人を重要視するのは、座の取り持ちが巧く二人の間に交わされる洒落や、軽口が漫才のように面白かったからに過ぎない。そんな境遇の二人も家庭に於いては立派な父であり夫である。青野は三人の娘と一人の息子を男手一つで育て上げて来たし、大木は大学に通う一人息子がいる。辛い勤めも、この子供達の成長を思えば楽しかった。青野と大木は社長から命ぜられて社長の宅へ行った。彼等の仕事は庭の掃除であったが、こんな仕事も社長大事と小心翼々たる二人は汗だくで片づけた、その骨休みに伊豆の温泉に行くようにと社長の言に喜び勇んで出掛けるが、帰りには大きな荷物を背負わされる。社長に欺されて闇物資の運搬を引き受けさせられた訳である。その翌日、又、社長の私用で呼び出される。社長令嬢の誕生日の祝いの余興係になれと言うのだ。それだけでなく初子と安子の娘も給仕として狩り出される。父親の勤めを大事とその役を引き受けたが、招かれた客の中に安子の恋人菊池の姿を発見して驚く。恋人の前で下僕のように使われる自分達の父娘の姿を見られるのを、妹の初子は悲しむ。そして珍妙な踊りの出を待つ父親にこのことを告げる。青野の苦衷を察した大木は自分一人で社長の要求に応じようと決心する。社長は大木一人の姿を見て気嫌悪くどなる。「君達は一人では下駄の片っぽのように役にたたんのだ。帰り給え」大木は社長の真意を始めて知って憤慨する。青野も道化扱いにされていたことを知って怒った。「お父さん達は意気地がないなア、そんなにまで侮辱されて黙ってるなんて……」二人は新しい時代に生きようとする息子や、娘達の言葉を聞いて今更の如く自分達の卑屈な生き方の誤りを悟った。翌日、二人は社長の前で平素思っている社長の不正をなじった。「我々は首だと言っておどかされ、おだてられて働いた。しかしこれからは違いますぞ。不当な待遇に対しては我々の団結心がある」社長室の外で聞いている同僚達の間に心から共鳴した拍手が起こった。彼等の誰もが心に抱いていたことを青野と大木は大胆に言ってくれたのである。堂々と胸を張って社長室を出た。彼にとってもう恐ろしいものはなかった。明日からは働くものの団結と、正義の戦いがあるのだ。青野と大木とは晴々した顔で明るい空を見上げた。

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映画レビュー

4.0二人で一人

2023年8月1日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1946年。成瀬巳喜男監督。社長に気に入られて宴会の場を盛り上げる二人の中堅社員。それぞれに家族があるが、社長は彼らをいいように利用して私用に呼び出し続ける。最初は意気に感じていた二人だったが「二人で一人前、下駄と同じ」と言われたことに腹を立てて、、、という話。
いろいろと奥が深い。まず、戦前からついたり離れたりの漫才コンビ「エンタツアチャコ」をコンビの枠組みで描くこと。しかも「二人で一人」が社長に反旗を翻すきっかけになる失礼な物言いであることから、つかず離れずのアドホックな関係が理想とされていることがわかる。その関係を「下駄」で言表化、可視化している。
次に、敗戦後の日本社会の表象。酒は配給だし、学生は社会運動に熱心、企業は戦時中の活動を問われている。そして「東条」の名前が突っ込みの中に出てくる。社会の描写を忘れない成瀬監督らしい。

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