フライト

アル中の飛行士が堕落していく話で、結局最後は悔い改めるようなので救われるが、アル中は自分だけでなく周りの人も不幸にしていくのがよくわかる。

この病を患ったと認識してから、ずっと観たかった作品です。噂に違わず素晴らしい作品でした。
当事者であると認識している患者たちにはこれ以上なく突き刺さる作品だと思います。反面、アルコール依存症のへの意識が低い方達にはつまらないスピリチュアル映画に映ったかもしれません。しかしこれは依存症治療の重要な概念が、キリスト教的価値観と非常に親和性が高いことによるものです。それが社会的にキリスト教が巨大な価値観を占めるアメリカにあると、ほとんど一体化してしまうのでしょう。なので、意図的にキリスト教を啓蒙しようとしている訳ではなく、あれはめちゃくちゃリアルな現実なのです。

これまでの映画で描かれてきた「緊急事態」のその後を描く、非常に意欲的な作品だと思います。どんな出来事も最終的に事務的な処理をして、全てに片をつけなくてはなりません。「さあこれから大変だぞ……fin」これで終われたらどれだけ良いか、そこが現実の厳しさ難しさのキモでありそこで終われるのがフィクションの救いです。そこからウンザリする様な作業へ踏み込んでいかなくてはならない人たちへのリスペクトを感じました。

彼の証言がどう導かれるか、徐々に浮きあがってきます。そして選択される答えは「神よ、お力を」。自ら愛し、幼児を守り死んだ美しい女性を、罪なき彼女の死後の名誉を保身のために穢す証言を要求されます。その絶望たるや…… その瞬間に全てを悟って、ギリギリで自分を取り戻した感動の演技でした。自分の醜さ、罪深さを心から自覚しないと酒は辞められないのです。あそこで嘘をついたとしても、現実的な結末としてはすぐに自殺をしていたと思います。これは嘘はいけないとかそういう話で無く、本当に現実的な結末です。刑務所で自由を得たと語る主人公の姿に全てが集約されていました。辞めた人には刺さるでしょう。まだ辞めてない人には下らなく思えるでしょう。そうこの主人公が、そうだったように。

最後の結末寸前まで、薬中のアル中で、酩酊状態。
それで飛行機操縦、車運転、それで暴れる。
飛行機会社や組合は保身のために活躍。
それで、最後の最後で、正直になり、更生の道へ、めでたしめでたし。
多分、米国は、こんな人が多いのでしょう。
だから、夢みたいな安直な話が評価されてアカデミー賞と、そんなところです。
言わば、アメリカはそこまで病んでいる証なんでしょうね。
今、パイロットは事前に検査してるそうですが。
アメリカでは、ただ、飲酒運転の取り締まりは、無さそうですね。
現実に、これほどコカインとアルコールしてたら、とうに死んでるし、航空機は墜落してます。
非現実的夢想映画です。

「中毒者」に焦点を当てた本作ですが、日本にもアルコール中毒・薬物中毒を患う芸能人は多くいます。中には主人公のウィップのように英雄視されている方もいますが、彼らの内面も常に葛藤や自己嫌悪と闘っているのでしょう。非難よりも先に同情の声を掛けたくなってしまいます。

さて本作は「映画の教科書」のような作品で、無駄のない美しい構成で「葛藤」を表現しています。自分の功績よりも綻びに目をやる事故調査委員会やマスメディアへの葛藤に始まり、恋人や家族への葛藤、酒を断つことのできない自分への葛藤というように、映画が進むにつれて「葛藤」の段階は主人公の内面へと迫っていきます（主人公にとって後半の「葛藤」のほうが深刻です）。

そして映画終盤、主人公の「人間性」と「名誉」は天秤に掛けられます。噓をつき通せばパイロットとしての「名誉」を守れたにも関わらず、子どもを庇って犠牲になった乗務員（かつての恋人）の顔に泥を塗ることを躊躇い、飲酒の事実を告白します。これまで自分のために噓をついてきた主人公は他人のために真実を告げることで、酒で荒んでいた「人間性」を取り戻し、恋人や家族との新たな関係を築くことができました。

これがストーリーの大体の流れです。王道と称されるような脚本ですが、王道に従って映画を作るには最も才能と努力が要ります。まさに、名監督ロバート・ゼメキスのなせる業と言えるでしょう。