劇場公開日 2013年3月1日

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フライト : インタビュー

2013年3月1日更新
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特別対談:ロバート・ゼメキス監督×山崎貴監督
「我々は、生きている限り希望を持っている」(ゼメキス監督)

「キャスト・アウェイ」以来実に12年ぶりとなる“実写による”ヒューマンドラマを撮り上げ、見事にアカデミー賞2部門ノミネート。3月1日公開「フライト」のプロモーションのため来日を果たしたロバート・ゼメキス監督が、同じく人間ドラマを描くことに長けた「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズの山崎貴監督と映像作家談義に花を咲かせた。(取材・文/編集部 写真/梁瀬岳史)

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スティーブン・スピルバーグに見出されたゼメキス監督を“弟子”とするなら、そのスピルバーグの「未知との遭遇」を見て映像作家の道を志し、ゼメキス監督作の影響も大いに受けた山崎監督は、いわば“孫弟子”。「勝手に“孫弟子”だと思っています」と自称する山崎監督を、ゼメキス監督は暖かく見つめる。対談に際して「『ALWAYS』を見ました」と言い、建設中の東京タワーのCGショットの見事さに触れながら「映画のスペクタクルに結び付いた人間味のあるストーリー、登場人物に根付いた物語を感じた」と感想を述べる。

「(ゼメキス監督作は)エンターテインメントだけど、ストーリーとメッセージが秘められていて、“VFXだけの映画を作っちゃいけない”と無意識に刷り込まれてきた」と熱いファン心をぶつける山崎監督に、ゼメキス監督は、フランソワ・トリュフォーの言葉を引用しながら、「“とても良い作品は、真実とスペクタクルが融合しているもの”なんです。その核心には必ず真実がある。現実には起こらないようなことを娯楽として描きながらも、ね」とその創作ポリシーを明かす。

最新作「フライト」もまた、スペクタクルと人間の真実が融合する、ゼメキス監督ならではの作品だ。「実物大のセットや凝ったVFXなど、できるトリックはすべて駆使した」とゼメキス監督が伝える“奇跡の背面飛行シーン”のスペクタクルで幕を開けながらも、単なるエンターテインメントにはとどめず、山崎監督が感じたという「今の時代を捉えた、陰と陽が共存する物語」へと展開していく。

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「現代はウソが許されない時代になってきていると思うんです。そこで、(正直に告白するのかウソを重ねるのか、主人公が)“本当の牢獄”と“心の牢獄”をどう選択するのかが描かれる」(山崎監督)

「もう『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(のようなシンプルな物語)には興味がない」と明かすゼメキス監督にとって、今最も重要なのは「自分の内面を見つめること」。突然の航空機事故から多くの命を救うという英雄的な行為をしながら、同時に数々の問題を抱える主人公ウィトカー機長の物語が、そんなゼメキス監督の関心にズバリとはまった。

「自分自身に問いかけ、モラルのコンパスを眺めながら『フライト』の脚本を読んでいきました。こういう人を自分は好きなんだろうか、許せるんだろうかと。物語に惹かれましたね」(ゼメキス監督)

そのウィトカー機長を、2度のアカデミー賞に輝く名優デンゼル・ワシントンが演じ、主演男優賞のノミネートを受けた。現場では「毎日が驚きの連続」。「とにかく素晴しい。あの演技はいったいどこからくるんでしょうね」と絶賛するゼメキス監督だが、「事前に何時間もキャラクターを掘り下げて話し合った。彼はなぜこういう人になってしまったのか」と、入念だった下準備を明かす。リアリティを突き詰めるために、一切妥協しない姿勢がそこにはある。

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「フライト」の見どころである“背面飛行”シーンについても、画面内のリアリティを増加させるための細かい撮影テクニックの話題で、山崎監督と盛り上がる。山崎監督が「ボディブローのように利くVFX」と称した描写──例えばパイロットが操縦かんに頭をぶつけるシーン──にも、さりげなく特殊撮影テクニックが使われている。ハリウッドの底力、そしてゼメキス監督のこだわりに、最新作「永遠の0」で零戦の特攻隊員を描く山崎監督も大きな刺激を受けたに違いない。

数々のリアリティを積み上げて描写されていくウィトカーの“魂の旅”は、ラストでいかなる着地を見せるのか。

「ウィトカーは心に暗い闇を抱えているキャラクターです。(偉業を成し遂げながら)人をあざむいたりする、許せない一面を持つ人物。でも、作品には“希望”が満ちています。我々は、生きている限り希望を持っているものなんです」

ゼメキス監督が最後に伝えた言葉からは、明らかに、作品のラストに希望が待っていることが感じられた。

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