レス・ポールの伝説

劇場公開日:

解説

今やエレキ・ギターの代名詞ともなった"レスポール"の生みの親として知られ、ギタリストとしても5度のグラミー賞に輝いた経験を持つレス・ポールの人生に迫ったドキュメンタリー。93歳になった現在もニューヨークのジャズクラブで週1回ライブを行っているレス・ポール本人へのインタビューのほか、BBキング、ポール・マッカートニー、キース・リチャーズら錚々たる顔ぶれのアーティストたちが彼の魅力を語る。

2007年製作/90分/アメリカ
原題または英題:Les Paul: Chasing Sound
配給:ポニーキャニオン、アップリンク
劇場公開日:2008年8月23日

スタッフ・キャスト

監督
ジョン・ポールソン
脚本
ジェームズ・アーンツ
撮影
ジョン・ポールソン
編集
ジョン・ポールソン
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映画レビュー

4.5人生が伝説となった男

2009年3月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ギターで有名なレス・ポールのドキュメンタリー、という興味をそそられる映画だったことがきっかけで、試写を拝見することができたが、見終わったあと、自分の知識の無さを恥じ入るばかりとなった。

 現在は、多重録音、オーバーダビングなど、シンセとパソコンがあれば、バンドをやっている者ならできる簡単なことなのだが、その多重録音を初めてチャレンジし、音楽業界に革命的な発展をもたらした人が、レス・ポール本人だとは、まったく知らなかったことだった。何でも、音楽業界の人なら皆、知っていることらしいのだが、60年代の音楽を今でも愛する私としては、一般常識的なことをようやく知ることができたことだけで、この映画を観た価値は高かった。

 しかし、その当然の知識を知っている人が、この作品を見ても、充分にレス・ポールの実績の数々と人生に驚かされるし、90歳を超えてもいまだにライブ活動をやっている姿には、間違いなく感動すると思う。特に、多重録音を、自宅の庭やお風呂場、台所と、スタジオ録音などではなく、一般家庭の普通の場所でやっていた、なんていう、先人の努力を見られることだけでも、今の音楽業界の人たちには必見の作品と言っていいだろう。

 伝説は伝説だけで終わるものではなく、それを事実と実績で今も証明しているレス・ポールという人の生き方の素晴らしさそのものが、今の世界の音楽業界全体の基礎となっていることを、真摯にとらえているこの作品の監督の腕もまた見事なものだ。現在も、ライブハウスで伝説をつくり続けているレス・ポールに、「あなたは永遠の人」と言いたくなるくらい、この作品は実に見ごたえのある人物ドキュメンタリーだと思う。

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こもねこ

4.0楽しめ!お前自身が・・・そう言われた気がする。

2008年9月25日

知的

幸せ

何かを信じて止まない人というのはこうも強いものか。
強いという意味をも越えてしまい、もう自然に笑ってるじゃないか!

毎週月曜日の夜、ニューヨークにあるライヴスポット「イリジウム・ジャズ・クラブ」のラインナップは定番だ。
1915年アメリカのウィスコンシン州で生まれた一人の老人、レス・ポール:Les Paulによる楽しいお喋りと演奏、観客とのやり取りが三位一体となった時間帯だ。

映画「レス・ポールの伝説」では、そのやり取りの何気ないシーンから入る。
客席との至近距離を保ち笑いが絶えない。
スペシャルとして、キース・リチャーズとのコードAによるブルース・ジャムセッションやポール・マッカートニーも登場し華を添える。
この老人、レス・ポールこそ世界初のソリッドボディによるエレキ・ギターを発案した人だ。
ソリッドボディとは、木材の板を張り合わせて平面にした空洞のないボディのこと(その反対に、アコースティック系の空洞があるものはフォロウボディと呼ばれる)

彼は子供の頃に、電話の受話器に取り付けられたワイヤーと線路の断片を利用し、簡易ギターを作った。
母親からは半ば呆れ顔されつつも、その利用性と開発を追求し色々試行錯誤をした。
それまでのギターというのは、楽器本体の「空間」で鳴っている音をそのまま聴かせたもの。
レス・ポールによるエレキギターは、楽器「全体」に伝わる音を電気的に集音し増幅させるというアイデアだ。
線路に耳をあてると遥か遠くからの列車の滑車音が振動され聴こえてくる・・・それを子供ながらにイメージとして膨らませ、具体的にモノを作ってしまうという発想力と行動には驚かされる。
また、妻のメリー・フォードと一緒に「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」という曲をヒットさせ、それ以降「多重録音」という技法を自ら発案し、画期的な音のマジックを披露した。
1940年代、既に自宅を録音スタジオ化してしまった人だ。
レコード盤のプレスやカットも自前によって可能、レコード会社にサンプル納品出来てしまう設備まであったという。
ギター奏法そのものも、人がやらないことを念頭に入れ実践している。
音をいくつも重ねて録音出来れば、たった一人でもオーケストラのような重厚感のあるレコードが作れる・・・この方法など今では当たり前なことだが、レス・ポールの「思い付き」が無ければ絶対あり得なかったかもしれない。
やがてレスポール製世界初ソリッドボディ・ギターは、まずギブソン社に商品化の為に持ち込まれたが、随分と鼻で笑われたそうだ。
その後、ライバルのフェンダー社により「ブロードキャスター」と呼ばれるソリッドタイプのエレキギターを先に商品化されてしまい、ギブソン社は彼の下へ慌てて受注の電話を掛けたらしい・・・その間、およそ10年は経過していた。

タイミングやすれ違いを含めて、歴史の悪戯、気まぐれを感じずにいられなかった。
早すぎたのか遅すぎたのか?・・・と悩みそうだが、一切翻弄されている様子は伺えない。
今までの人生に於いていつの時代でも楽しむ、自分らしさにこだわった姿勢、それがレス・ポールという人の身上ということだ。
ギター開発や録音方法の終着点など、彼にとって本当はどうでも良かったのではないか?
とにかく暇を持て余すのが嫌で、常に何かを考えて行動に移すことがこの人の「すべて」なのだと思う。

楽しめ!お前自身が・・・この映画の主題は、もうこれに尽きるのだ。

回想を巡らす彼の顔や声、表情は、とても93歳を越えた老人とは思えない力の満ちたものだった。
その細かな足跡を追ったシーンが盛りだくさん。
音楽史上の貴重映像としても十分楽しめる。

毎週月曜日の夜、ニューヨークのライブハウスで彼の元気な姿を観れるそうだ。
大抵の時間は演奏だが、サポート・ミュージシャンの美人ベーシストへのセクハラ的冗談にも費やされているらしい。
あくまでも老人の活力保持という目的だから、上記女性も冗談として受け入れているようだ。

しかし、なんという93歳!
長生きしたくば、最後まで楽しみ、そして工夫を施すべきかな?
しっかり両足で、規則正しく歩いてる姿は「生きた化石」そのものだ。

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jack0001

5.0ハートウォームなポールの人間味に、なんだか元気があふれてくる映画でした。

2008年8月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 レス・ポールはギターの名前と思っている人が多いようですが、実は実在する人物なのです。
エリック・クラプトンやキース・リチャーズ、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、スラッシュ、エドワード・ヴァン・ヘイレン… 名だたるミュージシャンたちに愛用され、エレキ・ギターの代名詞となった「レスポール」の産みの親なのです。、

 彼は元々がギタリストであり、現在までに50枚のシングルと35枚のアルバムを出している。今までに5度グラミー賞を受賞しているほか、1988年には、後世のロックアーティストに影響を与えた人物に贈られる、ロックの殿堂のアーリー・インフルエンス部門に殿堂入りしている。累計すると合計3千万枚以上のレコードセールスを記録している。

 また、ソリッドボディのエレキギターの原型を製作した発明家としても有名です。自宅に録音スタジオを建設し、様々な発明をしています。
 レコードのカッティングマシーンを自作したり、多重録音を可能にしたり、アナログディレイマシンの原型を発明。オーバーダビング(多重録音)は現在のレコーディングには欠かせない方法であり、この近代レコーディングの礎ともいえる技術や方法を発明・開発した先駆者である。8トラック・テープレコーダーやギブソン・レスポールの功労により、ミュージシャンとして唯一「発明家の殿堂」入りを果たしています。

 但し小地蔵は、アメリカンオールディズやポップスに関しては疎いし、レス・ポールを語れば切りがないほどの文字数を必要となります。

 そこで映画に絞って、感想を述べます。

 ジョン・ポールソン監督は、レジェンドと化したポールの映画を作るとき、まず多彩な活動分野と長い音楽活動実績をどうやって90分に納めるのか悩んだそうです。
 そこで思い切って、伝記の部分よりも彼のいまの人間味にポイントを置いています。冒頭から、独自の毒舌や特に下ネタまで使って、スタッフをからかい、オーディエンスを爆笑の渦に巻き込む、お茶目なおじいちゃんとしてのポールの人柄が浮かび上がります。
 そこには決して伝説でなく、93歳を現役として生きる一人の人間の生き様が浮かんできて、とても親しみを感じました。

 ポールは93歳のいまでもニューヨークのJAZZクラブで毎週月曜日にステージにあがっているのです。ラストに感動したポールの言葉に、みんなが喜んでくれるために演奏しているのだと語ります。その喜びのため、JAZZクラブのステージに立つようになったこの25年間は、ほとんどノーギャラに近い条件で演奏し続けてきたそうです。ポールにとってJAZZクラブのステージは、自分のセラピーだというのです。決して人のためとは言わず自分のために演奏しているというところがかっこいいし、素敵だと思いました。

 ポールにとって、このステージに立つ前の1960年代は人生最悪の時期でした。ロックンロールの台頭とともに人気の低迷。デュオパートナーであり、最愛の妻メリー・フォードとの仲も上手くいかなくなり離婚してしまったのもこの頃です。
 一時は引退も表明しました。さらに70年には、友人の悪戯により耳の鼓膜が破れ、治療に3年を要したのです。

 それでもポールを現役復帰させたのは、音楽の喜びを多くの人々と分かち合いたいという彼なりの人間愛があったからでしょう。
 以来、純粋に音楽を楽しむためだけにステージに上がり続けている姿を本作では、生き生きと伝えてくれました。
 音楽のことはよくわからないけれど、画面で見るポールの生き生きとした姿を見て、なんて素敵な93歳なのだろう。自分ももし年老いても、夢も捨てずにポールのように自分が天命と思う仕事に現役として打ち込みたいものだと思いました。ポールが元気なだけに、お手本としてね、まぁ人生まだまだこれから充分に花開かせのだという勇気がわき上がってきますね。なんだか元気があふれてくる映画でした。

 伝記パートでは、ポールの精神力のすごさに触れることが出来ました。
 40年代に売れ出した直後、ホールは交通事故であわや右腕を切断かという大怪我を負います。けれども彼は右腕の不自由さをバネとして世界初のオーバーダビングレコーディングを開発。ギターリード・パートを除いた全てをレコーディングしリリースするという離れ業を見せたのでした。
 天才とは、自分の人生に決して言い訳しないで、創意工夫で道を自力で切り開いていくものなのですね。

 最後に音楽についても触れておきます。ポールの曲は、中には聞き慣れた曲も混じっていましたが、この作品で初めて聴きたのが多かったです。でも全然古さを感じさせず、親しみ安かったです。どの曲も音響的にチューニングされていて、音質が抜群によかったからかもしれません。またこの湿ったの夏のじとじとにポールのリードギターが心地よく響いたのかもしれません。
 でもポールの曲の魅力はポール自身にあるのだろうと思えました。エレキギターも達人が演奏すれば、とても円やかに、漂うような空気感を醸し出すものです。
 彼は、ギターの弦を響かせて、聴衆の鼓膜だけでなく、きっとハートまでウォーミングに振動させているから、気持ちよくなれるのだろうではないでしょうか。

 ぜひ皆さんも、この作品でポール爺さんの演奏に触れてみてください。きっと心地よくなれますよ。

 冒頭キース・リチャーズがポールとセッションします。ローリング・ストーンズのファンの人も必見ですね。

●追伸
 配給は、アップリンク。ここはドキュメンタリーに特化しているだけに、いつも見応えのある作品をよくチョイスしているところです。毎度感心しています。

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流山の小地蔵