劇場公開日 2008年8月23日

「ハートウォームなポールの人間味に、なんだか元気があふれてくる映画でした。」レス・ポールの伝説 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ハートウォームなポールの人間味に、なんだか元気があふれてくる映画でした。

2008年8月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 レス・ポールはギターの名前と思っている人が多いようですが、実は実在する人物なのです。
エリック・クラプトンやキース・リチャーズ、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、スラッシュ、エドワード・ヴァン・ヘイレン… 名だたるミュージシャンたちに愛用され、エレキ・ギターの代名詞となった「レスポール」の産みの親なのです。、

 彼は元々がギタリストであり、現在までに50枚のシングルと35枚のアルバムを出している。今までに5度グラミー賞を受賞しているほか、1988年には、後世のロックアーティストに影響を与えた人物に贈られる、ロックの殿堂のアーリー・インフルエンス部門に殿堂入りしている。累計すると合計3千万枚以上のレコードセールスを記録している。

 また、ソリッドボディのエレキギターの原型を製作した発明家としても有名です。自宅に録音スタジオを建設し、様々な発明をしています。
 レコードのカッティングマシーンを自作したり、多重録音を可能にしたり、アナログディレイマシンの原型を発明。オーバーダビング(多重録音)は現在のレコーディングには欠かせない方法であり、この近代レコーディングの礎ともいえる技術や方法を発明・開発した先駆者である。8トラック・テープレコーダーやギブソン・レスポールの功労により、ミュージシャンとして唯一「発明家の殿堂」入りを果たしています。

 但し小地蔵は、アメリカンオールディズやポップスに関しては疎いし、レス・ポールを語れば切りがないほどの文字数を必要となります。

 そこで映画に絞って、感想を述べます。

 ジョン・ポールソン監督は、レジェンドと化したポールの映画を作るとき、まず多彩な活動分野と長い音楽活動実績をどうやって90分に納めるのか悩んだそうです。
 そこで思い切って、伝記の部分よりも彼のいまの人間味にポイントを置いています。冒頭から、独自の毒舌や特に下ネタまで使って、スタッフをからかい、オーディエンスを爆笑の渦に巻き込む、お茶目なおじいちゃんとしてのポールの人柄が浮かび上がります。
 そこには決して伝説でなく、93歳を現役として生きる一人の人間の生き様が浮かんできて、とても親しみを感じました。

 ポールは93歳のいまでもニューヨークのJAZZクラブで毎週月曜日にステージにあがっているのです。ラストに感動したポールの言葉に、みんなが喜んでくれるために演奏しているのだと語ります。その喜びのため、JAZZクラブのステージに立つようになったこの25年間は、ほとんどノーギャラに近い条件で演奏し続けてきたそうです。ポールにとってJAZZクラブのステージは、自分のセラピーだというのです。決して人のためとは言わず自分のために演奏しているというところがかっこいいし、素敵だと思いました。

 ポールにとって、このステージに立つ前の1960年代は人生最悪の時期でした。ロックンロールの台頭とともに人気の低迷。デュオパートナーであり、最愛の妻メリー・フォードとの仲も上手くいかなくなり離婚してしまったのもこの頃です。
 一時は引退も表明しました。さらに70年には、友人の悪戯により耳の鼓膜が破れ、治療に3年を要したのです。

 それでもポールを現役復帰させたのは、音楽の喜びを多くの人々と分かち合いたいという彼なりの人間愛があったからでしょう。
 以来、純粋に音楽を楽しむためだけにステージに上がり続けている姿を本作では、生き生きと伝えてくれました。
 音楽のことはよくわからないけれど、画面で見るポールの生き生きとした姿を見て、なんて素敵な93歳なのだろう。自分ももし年老いても、夢も捨てずにポールのように自分が天命と思う仕事に現役として打ち込みたいものだと思いました。ポールが元気なだけに、お手本としてね、まぁ人生まだまだこれから充分に花開かせのだという勇気がわき上がってきますね。なんだか元気があふれてくる映画でした。

 伝記パートでは、ポールの精神力のすごさに触れることが出来ました。
 40年代に売れ出した直後、ホールは交通事故であわや右腕を切断かという大怪我を負います。けれども彼は右腕の不自由さをバネとして世界初のオーバーダビングレコーディングを開発。ギターリード・パートを除いた全てをレコーディングしリリースするという離れ業を見せたのでした。
 天才とは、自分の人生に決して言い訳しないで、創意工夫で道を自力で切り開いていくものなのですね。

 最後に音楽についても触れておきます。ポールの曲は、中には聞き慣れた曲も混じっていましたが、この作品で初めて聴きたのが多かったです。でも全然古さを感じさせず、親しみ安かったです。どの曲も音響的にチューニングされていて、音質が抜群によかったからかもしれません。またこの湿ったの夏のじとじとにポールのリードギターが心地よく響いたのかもしれません。
 でもポールの曲の魅力はポール自身にあるのだろうと思えました。エレキギターも達人が演奏すれば、とても円やかに、漂うような空気感を醸し出すものです。
 彼は、ギターの弦を響かせて、聴衆の鼓膜だけでなく、きっとハートまでウォーミングに振動させているから、気持ちよくなれるのだろうではないでしょうか。

 ぜひ皆さんも、この作品でポール爺さんの演奏に触れてみてください。きっと心地よくなれますよ。

 冒頭キース・リチャーズがポールとセッションします。ローリング・ストーンズのファンの人も必見ですね。

●追伸
 配給は、アップリンク。ここはドキュメンタリーに特化しているだけに、いつも見応えのある作品をよくチョイスしているところです。毎度感心しています。

流山の小地蔵