「セレクションなんて横文字は使うな!」と娘あゆみ(北乃きい)を叱る海江田龍兵(長嶋一茂)ではありましたが、これも幼少期から実父であるミスターとこと長嶋茂雄氏のナイスな横文字を聞かされていたことへの反発だったのでしょうか。そんなカズシゲが製作総指揮まで務めたポストマンという郵便局員の物語は終盤にはミスター・ポストマンとまで呼ばれるようになるのです。郵政民営化されてからの映画なので、もしやPR映画なのかと不安だったのですが、そんな内容ではありませんでした。
舞台は架空の千葉県房総町。サーファーのマナーなどの問題を抱える人口8千人ほどの町を支える郵便局。龍兵は人とのコミュニケーションを大事にし、バイクを使う配達員が多い中、バタンコ(配達ようの赤い自転車)を愛用し、局内でもアナログ人間と揶揄されている。2年前に妻(大塚寧々)を亡くしていて、男手ひとつで高校受験をひかえる娘と小学生の息子を育てているという設定。千葉といえば長嶋を思い出すほどイメージが定着しているし、アナログという言葉もやっぱり彼に似合ってるのです。妻の母親が野際陽子。読経を始めたときには怪しげな宗教なんじゃないかとビクビクさせられ、そういえば元夫は千葉真一か・・・と、またもや千葉を思い出してしまう・・・
中盤まではかなりユルい展開。おまけにカズシゲの下手な演技に、単なる筋肉自慢映画かと心配にもなってきます。それでも娘との確執を解くために地味ながらも信念を貫く姿や、映画『結婚しようよ』と同じように「家族揃って食事を摂ること」の大切さを説く彼の父親像に惹かれていくのです。親といえば、龍兵の漁師であった父親は海難事故で亡くしているのですが、もしや船がイージス艦に衝突されたのでしょうか・・・と、余計なことまで考えてしまいました。また、彼の息子が龍火祭で龍の山車に乗るシーンもあったりして、赤と青の龍の対決を見てると朝青龍まで思い出してしまいます(『モンゴル』の予告編を見たせいでもありますが)。
基本的にはポストマンを中心とした人情ドラマ。『幸せの黄色いハンカチ』という言葉も登場するくらい、黄色(手紙、花、電車など)にこだわりを持つものの、山田洋次の域には到底及びません。しかし、終盤の予想外の筋肉自慢による展開には思わず胸が熱くなり、亡き妻への想いを込めた愛情物語にはいつしか涙も・・・。
新人監督にそれほど期待もしていませんでしたが、太平洋や穏やかな田園風景の美しさもあったし、撮影は意外と面白く、ブレの少ないハンディカメラや空撮が見事にキマってる!それに電車を追いかけるポストマン、トラックを追いかけるポストマン、撮影には倍以上の労力があっただろうし、それらのタイミングも素晴らしかった。そして何度も登場する灯台の映像。犬塚弘や谷啓も出演していることから、植木等が名演を見せた『喜びも悲しみも幾歳月』へのオマージュさえも感じられるのです。もちろん谷啓の登場シーンで泣けた・・・