ワールド・オブ・ライズ : インタビュー
実弟トニー・スコットによる「スパイ・ゲーム」に触発されたか、ついにはスパイ映画まで手掛けてしまった巨匠リドリー・スコット監督。あらゆるジャンルの作品を手掛けてきた巨匠が語るスパイ映画の魅力とは? そして4度目のコラボレーションとなる盟友ラッセル・クロウについても話してくれた。(取材・文:森山京子)
リドリー・スコット監督インタビュー
「今の政治情勢に関係ない映画を作ろうと決めたんだ」
――なぜこの映画を作ろうと思ったのですか。今世界で起きていることと通じるところがあるからですか?
「そういう質問にはわざと答えないようにしている(笑)。確かにこの映画で描いていることは中東での戦争のどんな局面にも当てはまる。ということは、特定の出来事、事件じゃないってことだ。それよりも、この映画はとても良いスパイ映画だと僕はいいたいね。今の観客は知らないかもしれないけど、昔は良いスパイ映画がたくさんあった。『国際諜報局』とか『パーマーの危機脱出』は本物だ。何度も見ている。弟(トニー・スコット)の『スパイ・ゲーム』も見たよ(笑)」
――政治的なメッセージを感じましたが……。
「そんなものはないよ。観客はこの映画を楽しんでくれればいい。僕は、今の政治情勢に関係ない映画を作ろうと決めたんだ。キャラクターにポイントを置いて、大物テロリストを追いかけたらどうなるかを描くってね。スパイが仕掛ける誘惑や、有りもしない組織をデッチ上げる手品の様な手腕を描いたんだ。CIAはそうやって敵に不安を与えてミスを引き出す。彼らがミスをすると、最新のテクノロジーでキャッチできるってわけさ」
――この映画に出てくるテクノロジーはどこまでリアルなんですか。
「完全にリアルだよ。僕が知っている限り、イラクには350以上のプレデター(無人偵察機)がある。多分イランにもね。それらは大体4時間から6時間、上空にいてどんなところまでも追跡して生活の中に入り込んでくる。ポケットに入っている小銭の音までキャッチできる。そしてそのレポートをラスベガスの近くにある軍事施設に送ってくるんだ」
――常々、どの映画にも自分の美学を見つけると話していますが、今回ビジュアルでこだわった点を教えてください。
「喋りのシーンだね。この映画はラッセルとレオが電話で話しているシーンが多い。こういうシーンは腹の底にこたえるような感じじゃないと、退屈になってしまう。それをカバーするには勢いがあって常に動いていないといけない。喋りのシーンでビジュアルを面白くする。それが今回のチャレンジだったと言えるよ」
――ラッセルとはこれで4度目ですが、どこがそんなに好きなんですか。
「ラッセルは彼の世代でベストの俳優の1人だ。彼のようにどんなことでも出来るというのは本当に珍しい。コメディさえ一緒にトライしたし、この後2人で『ノッティンガム』をやることになっている。もちろんラッセルがロビン・フッドをやるんだ。彼なら今でも『グラディエーター』が演じられるよ」
――今回は50ポンド(約23キロ)体重を増やせと言ったそうですね。
「うん、そう言ったら、彼は『誰みたいに?』って聞くんだ。だから、『インサイダー』のジェフリー・ワイガンドみたいにと言った。この作品はキャラクター重視でいくからねって。そしたら彼は『OK、OK、何を言いたいか分かるよ』って言ってすぐに仕事に没頭し始めた。俳優はキャラクターに成りきるためにペルソナを作り直すのが好きだけど、ラッセルは人一倍そういう仕事に没頭するみたいだね」
――ホフマンを傲慢な男に描写しているところに、イギリス人としてのあなたのアメリカ批判を感じたのですけど……。
「まったくないよ。僕にそういうことを言わせようとしてもダメだよ(笑)」