廃市

劇場公開日:

解説

古びた運河の町のある旧家を舞台に、そこを訪れた青年の一夏の出来事を描く。かつて一度も映画になったことのない福永武彦原作の同名小説の映画化で、脚本は「女猫」の内藤誠と同作の桂千穂の共同執筆、監督は「時をかける少女(1983)」の大林宣彦、撮影も同作の阪本善尚がそれぞれ担当。

1984年製作/105分/日本
配給:ATG
劇場公開日:1984年1月2日

ストーリー

江口は大学生の頃、卒論を書くために、一夏をある古びた運河の町で過ごした。そして、月日が流れ、その町が火事で焼けたことを知った彼は回想をはじめる。江口が親戚から紹介された宿泊先、貝原家を訪れると出迎えたのはまだ少女の面影を残す娘・安子だった。その夜、寝つかれぬまま彼は、波の音、櫓の音、そして女のすすり泣きを耳にする。次の日、江口は安子の祖母・志乃に紹介されるが、一緒に暮らしているはずの安子の姉・郁代は姿を見せない。ある日、貝原家から農業学校に通っている青年・三郎の漕ぐ舟で江口は安子と出かけた。町がすっかり気に入ったという彼に、「この町はもう死んでいるのよ」といつも快活な安子が、暗い微笑を浮かべるのだった。その帰り、江口は郁代の夫・直之を紹介された。安子の母の十三回忌が行なわれた。江口はその席で、直之からもこの町が死んでいるという言葉を聞く。その夜、彼は直之と安子がひっそりと話しているのを見た。次の日、母親の墓参りに出かけるという安子に付き合った江口は、その寺で郁代に出会う。安子の話だと、郁代が寺に移ってから直之も他に家を持ち、秀という女と暮らしているとのことだった。何故、郁代が家を出たのかは安子は話したがらない。水神様のお祭りの日、江口は直之からその理由を知った。郁代は直之が他の女を愛していると思って、自分から逃げて行ってしまった。直之は郁代を今でも愛しているという。そして八月の末、ある事件が起こった。直之が秀と心中をはかったのだ。通夜の席で、郁代は直之が愛していたのは安子だったことを知る。二人を幸福にしてやりたいから、尼寺に入るつもりで寺に入ったと告げる。しかし、安子は兄さんは姉さんを愛していたというのだった。郁代は「あんたが好いとったのは誰やった?」と泣きくずれる。夏も終わりに近づき、卒論を仕上げた江口は、安子と三郎に見送られて列車に乗り込んだ。別れ際、三郎の言葉で江口は安子を愛していたことに気づくが、今ではもうおそかった。そして彼は町が崩れていく音を聴いたように思うのだった。

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映画レビュー

4.0大林宣彦監督の描きたかったこと

2023年2月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1959年に発表された福永武彦の短編小説を
34年後、大林監督が情緒豊かに描いた作品。

低予算、16mmフイルム、2週間弱の撮影、
プロによる自主映画とでもいいますか、
緩やかな映像、耳に残る音の数々、
光の置き方、自身によるナレーション、
監督の描きたい映画なのだとわかる。

水も川も風も草木も美しいところ、
しかし愛ですら動かない町に
ここは死んだ町なのだと
住人の誰もが諦める。

映画は美しい水の町の
ひと夏に起こった
誰も気にもとめない
小さな水紋のような物語
消え去ろうとしている物語を
とても丁寧に綴っている。

大林宣彦監督が何十年も切望し
商業映画ではなく低予算の映画として制作。
丹念に人の心を描いた作品であり
全編を通して映画愛を感じる作品である。

大林宣彦という映画人
その証となる作品。

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星組

3.5根岸季衣と小林聡美

2022年6月29日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

2人の巧演は印象的でした。
夏の柳川へ出掛けてみたくなりました。
とても良かったです。

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tuna

3.0うっとり魅了するような柳川の美しい景色が主人公

2022年4月9日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする (0件)
共感した! 0件)
徒然草枕

3.5廃市に郷愁と愛を込めて

2021年4月18日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

幸せ

大林宣彦監督1983年の作品。

古い歴史を持つ小さな運河の田舎町が火事で焼けたというニュースを聞き、一人の男が思い出す。かつてその町で過ごしたひと夏の事、出会った美しい姉妹の事、抱いた淡い想いの事を…。

劇中では“架空の町”とされているが、撮影は福岡県柳川市で敢行。
スタッフと共に夏休みで訪れたこの町の美しさに魅了され、僅か2週間で撮影したという。
本当にそれも頷ける。劇中でも例えられていたが、日本のベニス。
ロケーションや名カメラマン・阪本善尚による映像に陶酔させられる。
水の町。劇中ほぼ終始流れる水の音が心地よい。
ユニークであったり、独特であったりの印象がある大林演出だが、本作ではシンプルかつ詩情豊かに。
登場人物たちの心情も繊細に綴る。
ナレーションも大林監督自ら務め、何処となく主人公とリンク。
ノスタルジーに浸れる作品こそ、大林監督の真骨頂。

10数年前、卒論執筆の為、この町を訪れた大学生時代の江口。一軒の旧家にお世話になる。
広い家には美しい娘・安子、祖母、お手伝い、若い船渡し、そして姉夫婦が住んでいたが、姉・郁代の姿は見えず…。
ある夜、女性の泣く声が…。

暫くしてやっと会った郁代。夫との関係不和に傷付き、身を隠していた。古風な性格。
郁代の夫・直之は他に女性が。しかし、郁代の事を深く愛している。
明るく魅力的な安子。そんな彼女に江口は次第に…。
が、安子がずっと想いを抱く相手は…。
4人の男女の複雑な感情が交錯。
新人の山下規介を小林聡美、根岸季衣、峰岸徹ら大林作品常連キャストがバックアップ。3人がさすがの名演、体現。
尾身としのりも印象的に好助演。

美しい芸術性の高い作品。
その一方、死や廃れゆく陰も。
日本にはどれほどあるのだろう。死んでいった町が。
ほとんどの人が存在すら知らないだろう。
が、あの町で生き、暮らし、僅かでも過ごした日々やそこで触れた淡い想いは永遠に忘れない。
廃市に郷愁を込めて。

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近大