喜劇 にっぽんのお婆あちゃん

劇場公開日:

解説

「あれが港の灯だ」の水木洋子のオリジナル・シナリオをコンビの今井正が監督した社会喜劇・撮影もコンビの中尾駿一郎。

1962年製作/94分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1962年1月3日

ストーリー

秋の陽ざしも弱々しい浅草仲見世。レコード屋の前で橋幸夫の「木曽節三度笠」を聴きながら、サトとくみはすっかり意気投合。くみは工員を八十人も使っている製靴工場の御隠居だそうだし、サトの方も息子夫婦がポリエチレンの会社をやっていて、これまた全くの楽隠居だという。それにしてはくみの服装が粗末だし、サトの顔にも生気がない。焼鳥屋の店員昭子が楽しそうな二人に声をかけ、自分の店に案内する。ビールをあおって二人はご機嫌だ。やがて店を出たサトたちは、街角で化粧品のセールスマン田口と知り合う。女房とのノロケ話に二人は過ぎし昔の結婚生活を思いうかべて涙ぐむ。夕ぐれ近く、二人は田口と別れた。その頃、郊外の老人ホーム福寿園では、福田園長たちが蒼くなっていた。このホームのお婆さんがひとり、遺書まで残して失踪したからである。ゆうべ配給になったドラ焼が一個なくなり、無実の罪をきせられた彼女が腹いせに飛び出したのだと、元洋傘直し屋の兼井がいう。園長は警察に電話をかけた。松屋デパートのネオンが隅田川の水面に映りははじめた頃、二人のおばあちゃんは吾妻橋のまん中にしゃがみ込んでいた。サトが、実は息子と嫁に邪魔にされて死場所を探しに家出たと打ち明ければ、くみも「私もそろそろ世の中においとましようと思ってたのさ」と、意外なことをロ走った。老人ホームを飛び出したのは彼女なのだ。川を覗いてはドブ臭いからとあきらめ、都電では車輪が鉄で痛かろうと迷っていると、巡査につかまった。二人は親切な昭子を思い出して孫だといったため、焼鳥屋の寮に送られ「木曽節三度笠」のにわか講習で元気をとり戻す。が、再び巡査に会い、サトは“鬼の夫婦”が住む都営住宅へ、くみは老人ホームへ戻されてしまう。一夜明けて……朝から嫁と口論をはじめたサトはテレビのつまみをひねるうち、きのう別れたくみの大写しを見た。福寿園の中継放送である。その夜「わては友達のとこへ行くわ。あんたのとこには、もう厄介にならんでよろし」と、サトは啖呵をきって横になった。あしたにでも、くみをたずねて行くつもりか、風呂敷包みがひとつ、彼女の枕許においてあった。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

映画レビュー

5.0何時の時代も老いは残酷

2024年4月24日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

喜劇・・・の題名が最高の皮肉
奇しくも放映された年と日付は私の誕生日、気になって観に行ったがこれは久々の掘り出し物、今の老人問題が62年前には始まって何の進歩も無いように感じるのが辛い、劇中若者にからかわれた老人が叫ぶ「お前らだって年をとる」は最近どこかで聴いたセリフ、何も変わってはいないしかし主演した北林谷栄のメイク、動きは老人そののもの夜目が悪く不自由な様子はリアル過ぎて感動してしまった名優此処に有り。

コメントする (0件)
共感した! 1件)
なんてこった

4.0老人ホームを抜け出した沢田くみ(北林)はどら焼きを盗んだと疑われたためだった!?

2019年7月13日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 橋幸夫の“木曽ぶし三度笠”も全編通じて意味を成してくる。なぜこれが「喜劇」なの?とずっと疑問に思いつつ観ていたが、山本伸也氏の解説により理解できた。全然笑えないどころか、高齢化社会の歪みなど、シニカルに描いたところが多いのだ。強烈なブラックユーモアもあった。自殺を考えてるくみとサト(ミヤコ)が道路に飛び出して車にひかれようと考えた直後の出来事で、昼間に仲良く語り合っていた化粧品セールスマンの木村功が車に撥ねられて即死だった場面。人間の命なんてわからないもの・・・当時はまだ“交通戦争”と呼ばれていた時代でもあり、日常茶飯事だったことなのだろう。

 サトの息子(渡辺文雄)夫婦がサトの持っていた金20万円を使い切っていたこともかなり強烈な風刺。今で言えば100万円くらいだろう。

コメントする (0件)
共感した! 1件)
kossy

4.0北林谷栄×ミヤコ蝶々!

2013年6月20日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

悲しい

今井正監督・水木洋子脚本による1962年の作品。
高齢化社会問題を題材にしたブラック・コメディ。

当時は高度経済成長期。戦後から復興し、日本が前向きに明るく輝いていた時代。そんな時代に、将来日本が高齢化社会になると誰が予期しただろう。時代を先見した鋭い視点が素晴らしい。

主人公は二人の老婆。一人は老人ホームを抜け出し、もう一人は家の中に居場所が無い。二人が出会って、町をさまよう。
老いた者は社会の隅っこに追いやられ、のけ者扱い。社会の冷たい仕打ちは昔も今も変わらない。
二人のとぼけた味わいはコミカルだが、二人が置かれる現状は皮肉たっぷり、チクリと風刺する。

主演は北林谷栄とミヤコ蝶々。撮影時まだ初老前。強烈!
老人役の第一任者が多数顔を揃えた他、十朱幸代、市原悦子が若い!寅さん前の渥美清も出演。活気溢れる浅草の描写も出色。

コメントする (0件)
共感した! 2件)
近大