しとやかな獣

劇場公開日:1962年12月26日

解説

「人間」を監督した新藤兼人の原作・脚色から、「雁の寺」の川島雄三が監督した社会ドラマ。撮影は「瘋癲老人日記」の宗川信夫。

1962年製作/96分/日本
原題または英題:Elegant Beast
配給:大映
劇場公開日:1962年12月26日

あらすじ

アパートが立ち並ぶ郊外の団地、前田家はその四階の一角を占めている。前田時造は元海軍中佐、戦後どん底の生活を経験した彼は自分の殻にとじこもり、子供たちを踊らせるあやつり師になった。息子の実には芸能プロの使い込みをやらせ、娘の友子は小説家吉沢の二号である。その友子が別れ話をもって帰って来た。友子を追って現れた吉沢にまだ友子への未練があるとみると、極力恐縮したふりをする時造夫婦だった。実は会社の会計係三谷幸枝と関係があった。その幸枝が、念願の旅館が開業の運びになったからこの辺で別れたいと言うのである。子供を抱え夫に死なれた彼女にとって唯一の道は思いきり体を使って生きるほかなかった。男の誘惑に巧みに乗り、大いに貢がせる。実との取引は既に終っていると幸枝は言い放つのであった。芸能プロにも辞表を出した。恩を仇で返したと社長の香取が怒っても、幸枝は香取の尻っぽを握っている。彼は幸枝のために使い込んだ金のことで税務署の神谷を抱き込んでいるのだ。神谷に払われた金がそっくり幸枝に戻ってくるのは、ホテルへ行って愛情の代償として貰うものであるから関係ないとうそぶく幸枝の見事さに、さすがの時造一家も感嘆するばかりだった。しかし幸枝にはまり込んでいた実は嫉妬に歯をくいしばるのだ。税金未納の責任で神谷が馘になったと聞いて、幸枝は一瞬驚いた。香取や実は当然罪に問われるだろう。それでも私は傷つくことはない……。幸枝はキッパリと実たちに絶縁の言葉を残して去って行った。前田家の団らんの中に神谷が幸枝を探しに来て空しく帰った。友子と実がステレオで踊り時造とよしのがビールを飲んでいる頃、アパートの屋上から神谷の体が落下して行った。

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映画レビュー

5.0 何より若尾文子氏の才色兼備で清楚な女性と男を誘惑する計算高い悪女を見事演じ分け、出演時間は10分足らずにも関わらず強烈に印象付けています。

2025年9月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

斬新

国立映画アーカイブにて開催中の「第47回ぴあフィルムフェスティバル2025」にて「私が憧れた女優たち~梶芽衣子デビュー60周年企画」と題した特集企画開催。

梶芽衣子氏がいまこそ若者に観てほしいという憧れの女優たち出演作4作を選定。

本日はルキノ・ヴィスコンティ監督、アラン・ドロン、アニー・ジラルド出演『若者のすべて 4Kレストア完全版』(1960年/179分)と川島雄三監督、原作・脚本新藤兼人氏、若尾文子氏、伊藤雄之助氏、山岡久乃氏主演『しとやかな獣』(1962年/96分)を上映。

『しとやかな獣(けだもの)』(1962年/96分)
新藤兼人氏の原作・脚本を『幕末太陽傳』(1957)の川島雄三監督が演出する豪華布陣。

あらすじは、元海軍中佐の前田時造(演:伊藤雄之助氏)は狭い団地の一室で妻(演:山岡久乃氏)と暮らしているが、商才はなく次々と事業に失敗。
自分の子どもたちをあやつって他人の金を巻き上げている。
息子の実は勤め先の芸能プロで所属タレントのギャラを横領。
姉の友子は時造に仲介された小説家(演:山茶花究氏)の妾・二号となり、小説家が借り与えた団地にはちゃっかりと前田家全員が住み込んでしまう始末。
そこへ横領された芸能プロ社長(演:高松英郎氏)と会計係・幸枝(演:若尾文子)が団地にやってくるが、幸枝は社長や息子・実から合法的に多額の金を貢がせ旅館開業の資金を貯めていた…というようなお話。

ほぼほぼ狭い団地の一室内で撮影されたワンシチュエーションの密室劇にも関わらず、変幻自在、縦横無尽のようできちんと計算されたカメラワークが秀逸で観ていて飽きさせません。

キャストは芸達者な伊藤雄之助氏と山岡久乃氏の夫婦が本作ではメイン。
伊藤雄之助氏の面目躍如な怪演もさることながら、常に夫と子どもたちを甲斐甲斐しく世話を焼きながらも、実は一番貪欲で腹黒い悪妻を演じた山岡久乃氏が秀逸ですね。

そして何より若尾文子氏の才色兼備で清楚な女性と男を誘惑する計算高い悪女を見事演じ分け、出演時間は10分足らずにも関わらず強烈に印象付けています。
彼女の主演作のなかでも人気投票第1位獲得も納得です。

ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』にも通じた社会風刺の効いたブラック・コメディですね。

上映後は貴重な梶芽衣子氏のトーク。

日活出身の梶氏が憧れの女優として大映の若尾文子氏を選ぶとは意外でしたが、大女優が大女優を慎み深く語ることからはじまり、梶氏の演技の師匠・山岡久乃氏や高品格氏とのエピソードや台本を徹底的に読み込んで自分に合わない役はきちんと断る、また受けた仕事はきちんとやり遂げる。
現場に台本は丸暗記で持ち込まず一切揉めたことがない話や、映画とドラマの演技の違いなど1時間近く貴重で濃厚なトークで大満足、生・梶芽衣子氏の眼差しに完全にやられました。

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矢萩久登

4.0 一番恐ろしいのは母親役の山岡久乃さん

2025年6月21日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

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ねこたま

4.0 【人間の皮を着た不労の金に執着した獣達の騙し合いを、エレベーターのない団地の一室をメイン舞台に描いたブラックシュールな作品。優れたる脚本による今作の後半はコメディではなくホラーだと私は思います。】

2024年4月1日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

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NOBU

5.0 脚本の妙

2023年7月29日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

楽しい

知的

団塊のころ。
狭い団地の一室でほとんど進んでいく。
たまに階段や屋上?がでるくらいだが
これがまったく観ていて飽きない。

なぜかというと
出てくる人がどいつもこいつも
一癖も二癖もあって、
倫理にもとることをしていようとも
持論の正義を展開されると
はあ、そういう考え方も無きにしも非ずといえますかも。
なんて思ってしまいそうになる。

こんなにぶっ飛んでる人物像たちを
よくも描き出したものだと驚きます。
これは何よりも脚本の妙ではないかなあ。
才能とセンスがないと
こういったキャラクターを表現できないと思う。
そういった意味でもお見事。

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ひよこまめぞう