おはん
劇場公開日:1984年10月6日
解説
生活力の乏しい三十男が、一途さとしたたかさをもつ妻と、情熱的で激しい気性の芸者との間で揺れ動く姿を、親子の愛情を絡めて描く。宇野千代の同名小説の映画化で、脚本は「細雪(1983)」の日高真也、監督は脚本も執筆している同作の市川崑。撮影は五十畑幸勇が担当。
1984年製作/112分/日本
原題または英題:Ohan
配給:東宝
劇場公開日:1984年10月6日
ストーリー
幸吉は、おばはんの家の軒を借りて古物商を営みながら、自分の小遣銭を稼いでいるしがない男である。七年前、町の芸者おかよと馴染みになったことから、妻のおはんは身を退いて実家へ戻り、幸吉は鍛冶屋町の小さな家に、二人の抱え妓をおいて芸者家をしているおかよのところに住みついていた。ある夏の日、おはんを見かけた幸吉は、悟という自分の子がいることを聞かされ、一度逢いに来てくれと言ってしまう。秋になり、幸吉の店の前におはんが現れた。幸吉はおばはんに奥の間を借りて、彼女を引き入れる。二人はふと手が触れ合い、愛しさがつのり身を重ねた。その晩、おかよは幸吉に、二階が建増しできるようになったことや、姉の娘お仙を養女にすることを嬉しそうに話す。その後も、おはんと幸吉は、逢瀬を重ねていた。そんなある日、幸吉の店へゴム毬を買いに来た子供がいた。おはんの口からそれが悟と知った幸吉は、次第に悟に近づいていく。お仙がやって来、一人前に育てる子ができたとおかよは有頂天になった。幸吉はそんな様子をみて、おかよへの心の重荷がとれたと考えた。悟のこともある、もう一度おはんと一緒になろうと決心する。おはんと幸吉は、おばはんの力を借りて借家をみつけた。おはんはおかよのことを案じたが、幸吉は納得して貰ったと嘘をつく。おはんは悟に、実の父親が幸吉で、これからは三人一緒に暮らせると打ちあけた。幸吉はおかよに何も言わず家を出て、おはんと共に荷を運んだ。叔父富五郎とおもちゃ市へ出かけた悟とは、午後に借家でおちあうことになっていた。しかし、悟は土砂降りの雨の中を帰る途中、崩れかかった崖に足をとられ、渦巻く淵へ落下した。悟は死んだ。おばはんにそれを知らされた幸吉は、悟の運ばれたおはんの実家へ駆け込んだ。幸吉を見るや、富五郎は打ちのめした。幸吉とおはんのことを知ったおかよが乗り込んできた。おかよは幸吉に対する深い想いを打ちあけ、おはんはわが身愛しの浅い心がひきおこしたことだと詫びるのだった。やがて、おかよは横たわっている幸吉を起こし、出て行った。それ以来、おかよは気が荒れていた。そんな時、おばはんがおはんから幸吉宛の手紙を持って来た。それには恨み言はなく、ただ自分の非を詫び、ひとり旅に出るとあった。おかよと幸吉は涙ぐんで手紙を読み終えた。春になりお仙のお披露目の日。人だかりの中を人力車に乗るおかよとお仙のあとを、屈託なくついていく幸吉の姿があった。