劇場公開日 1955年1月15日

浮雲のレビュー・感想・評価

全37件中、1~20件目を表示

3.5【”零落。そして、花の命はみじかくて、苦しきことのみ多かりき。”今作は、戦中戦後の許されぬ男女の関係性の変遷を陰隠滅滅と描いた作品である。只管に男女の不可思議な愛の形を描いた作品でもある。】

2025年9月12日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

知的

ー 昭和の名匠と謳われる成瀬巳喜男監督は、その作品の”遣る瀬無い内容”により、”ヤルセナキオ”と呼ばれたそうであるが、今作を観ると正にその言葉を実感するのである。-

■戦時中、インドシナで妻帯者である富岡(森雅之)と出会い、愛しあった若く美しく才気煥発なゆき子(高峰秀子)。
 終戦したら、妻と別れるという富岡の言葉を信じ、彼のもとを訪れたゆき子だったが、富岡はウジウジとはっきりとした態度を見せなかった。
 途方に暮れたゆき子は外国人の愛人となり、富岡のもとを去る。
 それでも、腐れ縁の二人は、一緒に伊香保温泉に行ったりするのである。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・林芙美子による原作も相当に陰隠滅滅としているが、今作もそれ以上である。と共に、時折、妻には不貞を詰られ、ゆき子にも煮え切らない態度を取り続ける富岡をぶん殴りたくなる映画である。

・今作を観ていると、富岡とゆき子は、いわゆる腐れ縁という関係で、二人は戦中にインドシネであってから、敗戦した日本で零落した姿で会っても、その関係を続けるのである。
 そこには、倫理観というモノは存在しない。

・二人と関係する伊香保温泉の主人も、妻を絞殺したという記事が新聞に載るし、”もう、どんだけ陰隠滅滅としているのだ!”と、夜中に鑑賞中に叫びたくなるのだが、何故か見てしまうのである。

・ゆき子を演じた高峰秀子さんは、ご存じの通り昭和の名女優であるが、今作は零落したパンパンをはすっぱな演技で見せている。
 そして、彼女は富岡に裏切られながらも、只管に彼について行くのである。

<富岡の妻は病死し、そして、ゆき子も胸に病を抱え、二人は旅に出るのだが、雨が月に35日振るという屋久島に宿を取るのである。
 富岡が居ない時に、ゆき子は一人息を引き取り、その亡骸を抱きしめて富岡は号泣するのである。
 ゆき子の死に顔のアップの後に縦書きで出るテロップが、マア凄いのである。
 ”花の命はみじかくて、苦しきことのみ多かりき。”
 今作は、戦中戦後の許されぬ男女の関係性の変遷を陰隠滅滅と描いた作品なのであり、只管に男女の不可思議な愛の形を描いた作品でもある。>

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NOBU

3.5内容はどうでも

2025年9月1日
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悲しい

単純

ストーリーは浮気男の話で何とも言えないが、昭和の建物、服装、舗装されていない道、木製の電柱、電話、電報、店、看板、車、全てが貴重でその佇まいや雰囲気を感じられるだけで観る価値のある映画です。

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まるりん

3.0クズ男と引きずり女のやるせない人生劇場

2025年8月31日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

驚く

複雑な男女の心情を視線と表情、そしてランプやロウソクの薄明かり陰影で表現する見事な俳優陣!主演の二人だけでなく岡田茉莉子さん加東大介さん山形勲さんというキャスティングが抜群に素晴らしく、他の役者さんだったら流石の成瀬監督でも、ただの泥沼恋愛映画になったかもしれません。
公開当時この脚本は相当刺激的だったでしょうねっ。

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映爺

3.0切れない縁

2025年8月31日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

 1943年、日本が進駐していたフランス領インドシナ(仏印)。タイピストのゆき子は、農林省技師富岡と出会い、彼には内地に妻がいたが二人は親密になる。終戦後、ゆき子が東京の富岡を訪ねると、彼は離婚しておらず、失望。別れを決意するも、二人はずるずると。
 お互いに別れようとするも、切れない縁。そして、まるでどこかに転落していくような展開。もし切れていたら、別な明るい未来があったかも、そう思わずにはいられませんでした。その微妙な機微を、二人の役者が絶妙に演じていました。

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sironabe

3.0くされ縁

2025年8月23日
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鑑賞方法:TV地上波

花のいのちは
みじかくて
苦しきことのみ
多かりき

女にだらしない男、強がる女。
素直になれよ。
でも、そんなもんかな。
人生なんて。
斜に構え、すねて、怒っているが、この映画では際立つ高峰秀子の美しさが映像表現されている。

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nyaowan

4.0運命を受け入れる瞳

2025年8月5日
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大大大傑作のバイアスなしに鑑賞することは出来ないが、映画に取り憑かれた人々を何度もキャッチアンドリリースし続け、さらなる評価を獲得する生きもののような映画であることは解る。
またデコちゃんが少女時代のスカーレット・オハラみたいな姿も見せてくれるもんだから、かの大名作との共通点まで見つけたくなったりして。
自分が自分でいられる唯一の相手を憎みながらも求め続ける感じとか。
とはいえ今まで観てきたどんな映画とも比べることは出来ないけど、今まで観てきたどんな女優の演技よりこちらに軍配をあげるな。
それだけは完全に、バイアスなしで。
森雅之は中島葵との関係に本物のクズかなとか思ってしまうし、この映画に限らず高峰秀子の表情は全てにおいて「どうでもいいわ」と言ってるみたいで、自分にはそこが魅力的なんだけど。
しかし微笑む表情は女神かとまごうほど。
強い光を放つ瞳。どうにもならない運命を全て受け入れてきた人の瞳だ。

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こうた

5.0麻薬映画

2025年2月15日
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中毒性のある作品です。
あきれ果てたバカ男とバカ女の腐れ縁のお話ですが、男と女なんて所詮こんなものっていう刹那的な底なし沼感が「俺に撮れないシャシン」と小津親分に言わしめた傑作です。
唯一無比の倦怠感と投げやり感を描き出した剛腕演出と、それに完璧に応えた森、デコ両先輩の圧倒的な演技力、好きな人には麻薬です。
二人のバカっぷりに腹立たしさを感じるような感想も、一方では正常です。

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越後屋

男と言う生き物の狡さ

2025年1月2日
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鑑賞方法:映画館

 僕がこれまで観た高峰さんの映画と云うのは、『二十四の瞳』や『喜びも悲しみも幾年月』、『カルメン故郷へ帰る』、『名もなく貧しく美しく』と云った比較的前向きな映画ばかりです。木下恵介、松山善三と云った監督のカラーなのでしょう。

 でも、高峰さんを支えたもう一人の監督・成瀬巳喜男さんとの組み合わせの作品を観るのは実は今回が初めてでした。デジタル・リマスタリングによって60年前の作品がスクリーンに復活です。林芙美子さんの小説の映画化作品で、僕は原作を読んだことがありませんでしたが、それまで僕が抱いていた高峰さんのイメージと林芙美子さんの『放浪記』のイメージから勝手に「前向きに生きる女の一代記」と思い込んでいました。

 ところが、全く違っていました。前向きな姿勢も未来への明るさも何もない陰々滅々具合に腰を抜かしました。

 戦争前後の混沌とした世相を時代背景に、妻が居ながら次々と女を乗り替える不実な男と、何度も裏切られながらも結局はその男を追ってしまう女のお話です。と書くと甚だしく古臭い話に思えますよね。「妻とは別れるから」なんて言う男の言い訳は、おそらくこの時代でだって使い古された台詞だったに違いありません。

 でも、お話が進んで行くと何だか段々身につまされて来るのです。ここに描かれるているのは「不実な男」なのではなく「男と言う生き物の不実」である事に徐々に気付かされて来るのです。

 「都合の悪いことは暫く見えない振りをして、女にそこを突かれると少し面倒くさそうな視線を向け、更に責められると『どうせ僕は弱くてバカな男です』と言う看板を押し立てて謝るでもなく開き直るでもなくコソコソと逃げて行く」なんて云うのは男女の世界では様々に形を変えながらも常に見られる構図ではないでしょうか。

 作品で描かれるのは浮気だ妊娠だと云った生々しい世界ですが、その奥に黒々と広がる「男としてのいい加減さ」と云う普遍性を責められている気がして僕は段々息苦しくなってしまいました。

 き、きつい、きつい映画だぁ~。60年も前に、ここまでを見据えてフィルムに残されていたのだということに改めて驚きました。

 この日、もう一つまずかったのは、これを妻と観た事でした。映画館を出てから、彼女から

 「もしかして、自分はあの男とは違うと思っている訳ではないでしょうね」

と、メガトン級の一言が放たれました。

 「い、いや、僕は浮気なんてしたことないし・・」

と言いかけて、ここはひとまず黙っておいた方が得策と、またまた「男のずるさ」を発揮して俯いて歩き続けたのでした。

    2017/3/8 鑑賞

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La Strada

4.5高峰秀子が話す知らない日本語…「きぶっせ」、「足だまり」

2024年12月31日
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悲しい

単純

1955(昭和30)年公開、東宝。

【監督】:成瀬巳喜男
【脚本】:水木洋子
【原作】:林芙美子

原作は、放浪の作家、と呼ばれ47歳の若さで急逝した林芙美子が亡くなる直前に上梓した。

水木洋子は、今井正監督の『ひめゆりの塔』、
成瀬巳喜男監督の『おかあさん』、『あにいもうと』
などの脚本も手掛け、菊池寛賞の戦後第1回目を受賞。
本作は、菊池寛賞受賞後の作品。

主な配役
【幸田ゆき子】:高峰秀子
【富岡兼吾】:森雅之
【おせい】:岡田茉莉子
【伊庭杉夫】:山形勲
【富岡の妻・邦子】:中北千枝子
【向井清吉】:加東大介

1.ちょっとだけ?共感共鳴しちゃうオトナの恋の話
◆別れたほうが良いのは分かってるのに、別れられない
◆大キライだけど、やっぱり好き
◆ケンカしても、しばらくすると会いたくなる、

富岡(森雅之)にどんなにひどい扱いをされても、
磁石のように吸い寄せられていくゆき子(高峰秀子)。
そんな男女の絶望的な恋愛?物語。

2.高峰秀子はやはりスゴイ女優さんだ!
Wikipediaによると、
松田優作と吉永小百合による再映画化も企画されたが、
吉永小百合が、「大先輩・高峰秀子の代表作を再演なんてできない」と断ったためお蔵入りになったらしい。

撮影時31歳の高峰秀子は、22歳からのゆき子を演じた。
『張込み』は3年後。
30歳前半で、あの陰影と色気を含んだ演技がなぜできるのかわからない。

すごい、としか言えない。
それくらい、作品と登場人物に感情移入してしまう。

高峰秀子は、突き抜けた美形というわけではない。
顔だけで言えば、私は酒井和歌子さんがタイプだ。
だが、その声、スタイル、風情、全体があわさってひとつの芸術作品だ。

3.戦後間もない昭和の空気感
公開が昭和30年だから、戦後10年しかたっていない。
わたしにすら分からない言葉も出てくる。

◆足だまり…足を止める場所、根拠地
◆きぶっせ…気塞い(きぶさい)、気詰まりなようす
◆エーテル…アリストテレスが提唱した、天体を構成する「第五元素」

4.まとめ
脚本・構成の良し悪しを言う気はない。

高峰秀子、イングリッド・バーグマン、
あの時代の、あの女優だけが醸し出す陰影。
退廃美。

☆4.5

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Haihai

3.5願いかなって

2024年9月27日
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りか

4.5時代と男の犠牲になった薄幸女性の生きた証

2024年9月27日
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泣ける

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難しい

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Gustav

1.0全くハマらず。

2024年3月24日
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えっ、名作と言われてるらしいので観たけど、マジですか?
わたしには良さが全くわからず…。

富岡がなんかする度に、「なんだこいつ。」と口走ってしまった。終始イライラ。
事あるごとに、すぐに死ぬ死ぬとか言う2人にもイライラ。どうぞどうぞ、って感じ。

ダメンズに捕まった女の一生、としか思えなかった。
くっついたり離れたりしてるウダウダがまたやたら長く感じる。

時代的に顔にも流行り廃れがあるんだと思うけど、富岡の見た目もなんか好きになれず。それが大きいのかな。最後の方でリンゴ食べてる時にクチャラーだったのもほんとにヤだった。

当時では、言い方古いけどトレンディドラマ的な扱いだったのかなぁ。とか思った。
濡れ場が無いのに、やたら想像させようとする感じだけ出してたなぁ。

昔の千駄ヶ谷駅とか見られたのは面白かった。
あと、こんな昔から屋久島の事を月に35日雨って揶揄してたんだーって思った。

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きゃな

3.0悲惨な最後だよなあ

2024年3月24日
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高岡もゆき子も、シナリオで読んだ印象と異なる部分があった。高岡は想定よりも腹の立つ言い方でゆき子を言いくるめ、口をすぼめた言い訳のような物言いが多かった。
 二人の関係も、シナリオではもっと緊張感が走っているという印象があった。映画では、二人で居る時は、ある種の安定感みたいなものがあり、むしろゆき子が独りでいる、または、高岡を巡る人物たちと対峙している時の方が、より高い緊張感があり、恐ろしかった。ゆき子は、おせいや邦子の前で冷徹な表情を見せる一方、高岡の前では感情的で、既に考え尽くして疲れ切っているようにも見える。高岡の前であえて「悲劇の女」を演じているようにも見えるのだ。
 このゆき子の性質から高岡の困惑が伝わってきて、割と二人の関係がフェアなようにも思えてしまう。(無論、中絶についてはゆき子が完全に不利であるが)
 また、伊庭の宗教の様子は、動きが加わることで想像以上に、面白く映っていた。ゆき子高岡の悲惨な状況との対比で、物語に抑揚がつけられていた。

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JYARI

3.0駄目な女ね

2024年1月8日
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上岡龍太郎作詞のマヒナスターズの曲が呼び起こされる。
こういう女性像は、男性視点で作られた都合よい虚像なのか、女性固有の情念なるものかはさておき、日陰に身をおかなくてもよい今日においては、描き方は変わるのだろう。言動はどう考えてもダメ男なんだが、それでも引力のある森雅之が好演。

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Kj

0.5戦前からのアプレガール♥

2023年12月16日
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マサシ

5.0ヤルセナキオ‼️

2023年9月29日
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悲しい

興奮

この「浮雲」は成瀬巳喜男監督の最高傑作と言われてますが、成瀬巳喜男監督のフィルモグラフィーの中では極めて異色の作品だと思います‼️成瀬巳喜男監督といえば1951年の「めし」以降、平凡な市井の人々、わびしい夫婦の日常をゆったりとしたタッチで微笑ましく描いた作風をお家芸としていたと思うのですが、この「浮雲」はかなり残酷です‼️容赦ないです‼️どうしようもなく煮え切らないダメ男と、それと知りながら彼を愛し続けていくことで、次第に堕ちていく哀れな女の生態を哀切に冷徹に描いております‼️戦争中の南方で知り合った二人は帰国後もズルズルと関係を続ける。女はアメリカ兵のオンリーとなるし、男は仕事がうまくいかないし、その上温泉宿の女将と同棲したりするし、女も義兄の囲い者になったり、挙句の果ては二人で屋久島に流れていき、病で女は死んでしまう・・・これも人間、これも男と女、これも愛、胸にナイフが突き刺さるような映画ですね‼️スゴいです‼️男の小ずるさを完璧に表現した森雅之さんの至芸、女の哀れさを演じる高峰秀子のつまらなさそうな所在なさそうな表情と演技‼️ウマいです‼️南方に始まり、焼け跡のボロッちーホテルや汚い小屋、長岡温泉、ラストの屋久島と次々と舞台を変え、浮雲のように漂いながら繰り返される二人の会話の悲しさ、切なさ、愚かさ、そのピッタリ合った呼吸が見事ですね‼️しかもコタツに入りながらとか、ローソクの灯の下でだったりとか、そのシチュエーションもミョーに印象に残ってます‼️登場人物全てが不幸のどん底にたたき落とされる悲しい映画なのですが、女たらしのぐうたら男が、女の亡骸を抱き、嗚咽するシーンで締めくくる、成瀬監督の心憎い演出‼️救いがないようなラストですが、逆に観ている者もこのラストで救われたのではないでしょうか⁉️女は命を落とすことで、ようやく男の心を本当に摑むことができたのですから

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活動写真愛好家

4.0望んでも手の届かない理想的な家庭への思いが…

2023年8月19日
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鑑賞方法:DVD/BD

小津安二郎監督の
「俺に出来ないシャシンは溝口の祇園の姉妹と
成瀬の浮雲だ」との有名な言葉を
ある方からこの“映画.com”で教えて頂き、
「めし」「山の音」に続いて
この「浮雲」を再鑑賞した。

内容についてはかなり記憶も薄れていたが、
改めての鑑賞では、
廃退的な主人公の生き様にも関わらず、
何故か作品の世界に引き込まれてしまった。

小津のコメントは、もちろん作品の完成度の
ことはあるのだろうが、
それだけに留まらない「俺に出来ない…」の
意味が少しは分かったような気がした。

この作品にしろ、
溝口の「祇園の姉妹」にしても、
小津が描く主人公達とは、
その置かれている状況自体が
違っているように感じる。

表面的にも、
家庭という形が初めから無いか、
あっても有名無実化している2作品の
主人公達に比べ、
小津の取り上げる主人公達の家庭は、
人間関係の上でも経済的にも安定しており、
その上での、苦悩・葛藤・喪失感への
家族の心のひだを細やかに小津は描く。
一方、溝口と成瀬の
上記の2つの作品の登場人物は、
ギリギリの生活からの
やむを得ない選択の毎日から
安定した家庭を望もうにも手が届かず、
でも、その中で理想の家庭を希求してもがく
人間像という点で
前提そのものが大きく異なることが、
「俺に出来ない…」発言に繋がっている
ようにも想像した。

今回、連続鑑賞した成瀬3作品の主人公達に
共通して感じたことは、
望んでも手の届かない理想的な家庭への
思いだったが、
それを登場人物を通じて繊細に描く演出に
長けた成瀬巳喜男は、
やはり日本映画の代表的な監督の一人
のように感じる。

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KENZO一級建築士事務所

4.0二人の情念のさまよいを、見事に描ききった作品。

2023年8月17日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

小津監督が「俺には撮れん」とおっしゃったことが有名な映画。
 小津監督の映画は『麦秋』『東京物語』『早春』『秋日和』しか鑑賞していないけれど、確かに、この映画は小津監督には撮れないと思う。小津監督の様式美に合わないと思う。『早春』にも不倫は出てきたけれど、グダグダさが違う。
 コメディチックな要素のある小津監督作品。
 この映画では…。描かれていることが廻り回ってブラックコメディだとしても、それは、自分の心を、普段の生活を覗き見て出てくる、シニカルな笑い。

成瀬監督作品初鑑賞。
 評価の高い作品と聞く。だが、初見では、高峰さんを見る映画かと思った。
 高峰さんの映画も『二十四の瞳』『銀座カンカン娘』しか観ていない。『二十四の瞳』の慈愛に満ちた姿、『銀座カンカン娘』のコメディタッチ。だから、その役柄のギャップに驚き、こんな情念を表現なさるんだと食いついてしまった。
 そして、その高峰さん・ゆき子を際立たせる男が二人。
 一人は富岡。世の中を斜めに見ていっぱしのことを言うが、結局、流されるだけで、何も生み出さない。演じる森氏の映画は『羅生門』『雨月物語』しか観ていない。『雨月物語』でも不実な男を演じていらしたが、キャラクターが全く違う。『雨月物語』の源十郎は不実の中にも、源十郎なりの”実”を見せるが、この映画の富岡は陰キャラで厭世観をばらまき、”実”の中に”不実”を匂わせる。
 もう一人はゆき子の姉婿・伊庭。行儀見習いに来た、妻の妹・ゆき子に手を付け、その後も悪びれずに、ちょっかいを出す。戦後の時流に乗って、インチキ宗教の教祖になるという陽キャラで即物的な男。演じる山形氏の映画は『地獄門』しか観ていないが、こちらもキャラクターが全く違う。『地獄門』では清廉潔白で、袈裟がこの人の妻であることを誉と思うような御所侍を演じていらした。『地獄門』の主人公・武者盛遠がどうやっても、武もふるまいも、性格もかなわない人物。なのに、この映画での伊庭は…。このギャップ。
 役者って、すごいなあと身震いさせられる。

情念。
 「おせいに勝った」みたいな、ゆき子の台詞。
 人が必死になると釣られて、バーゲン会場でとにかく何か手に入れなければと争う人々を思い出してしまった。粗悪品か、本当に自分にふさわしいものかを吟味することなく、とにかく手に入れることに価値がある的な。
 ゆき子にとっては、それでも、周りの男の中では富岡と、選んでいるつもりなのだろう。伊庭は論外。逃れて、インドシナに赴任すれば、同僚の加納が部屋に忍んで来る。ならばと、富岡を選ぶ。富岡にはすでに関係を持っているメイドがいるにもかかわらず。略奪アイ?でもまあ、インテリゲンチャに憧れる気持ちはわかる。ところが、帰国すれば、日本の惨状は。富岡が、苦労しそうな妻を見捨てなかったところは評価したいけれど。ゆき子にしてみれば、裏切り。
 見捨てられた口惜しさと、自分の方が女としては上と思いたい気持ち。自分の存在価値を確認したい気持ち。「一人になると日が長うなりますわ」とは、小津監督の『東京物語』の中の台詞だが、恋に破れても同じであろう。自尊心が低い人ほど、一回でも自分を認めてくれた人・ものに縋りつく。
 惰性とその中にちらつく相手への愛おしさと、怒り。富岡にだけでなく、こんな人生になってしまった運命への怒り。ごく平凡な関係をうらやましがる様。愛・恋なんて言葉では説明しきれない様々な気持ち。
 女一人で生きていくことの難しさ。家を借りるのも、”会社”に勤めるのも、まだ”保証人”が必要な時代。姉婿と関係を持ってしまったら、故郷も頼れなかったのかもと思う。”貞操”と言う言葉がどれほど重要視されていたかはわからねど、このような経験をしてしまっては、まともな嫁入りは望めぬ時代。とはいえ、戦後のドタバタの時期。『砂の器』のように、経歴詐称だって、その気になればできた時代? でも、ゆき子はもしかしたらの希望を捨てきれずに、富岡との縁を完全には断ち切れない。
 そんな女の、その時々の心情を表現する高峰さん。馬鹿な女と思いつつも、愛おしくなる。

そんな女に見込まれた富岡。
 初めは拒絶するようなことをいうところが、責任を取りたくないと防御しているようで、今の二股・三股男の手口と同じで腹が立つ。
 思っていたよりもひどい、帰国後の日本の現状で、妻を捨てられなかったように、目の前にいる困っている人を袖にできない。その場しのぎの短絡的な手助けや言葉が結局、その人を苦しめることは考えればわかることなのに。言い訳を連ねて、相手のせいにするかと思えば、自虐。最低男なのに放っておけない。
 そんな色悪を見事に演じて下さる森氏。富岡がメフィストフェレスのように影を体現してくれるから、ゆき子が際立つ。

そして、この二人だけだと底なし沼に沈んでいく様子だけで、見ているのがつらくなるが、程よく、伊庭がかき回してくれる。

メロドラマはそんなに観ていないので、この映画が日本で一番かどうかは何とも言えない。
 反対に、メロドラマをそんなに観ない私だが、気が付けばリピートしている。
 おせいの存在とか、二人に関わっていく登場人物もいるが、ドラマチックに盛り上げるようなエピソードがないにも関わらず、最後まで見せてしまう。

リマスターの映像の質なのか、この映画の高峰さんの、岡田さんの肌のきれいなこと。高峰さんの肌は、きめ細かく柔らかそうだ。岡田さんのは若くてプリプリしている。高峰さんが大事そうに来ている毛糸のカーディガンの手触りのよさそうなこと。光と影の使い方に唸ってしまう。

そして、いろいろな解説でも読んだ”視線”の使い方。
 インドシナでの食事の場面。メイドが後ろを通った時の視線だけで、二人の関係をほのめかす。
 一目ぼれとはこういうことかと、富岡とおせいの出会いで思う。それを横で見ているゆき子の表情・視線にもゾクゾクする。
 富岡が来るまで、旅館の別の客を見ているゆき子。ここも胸を締め付けられるシーンだ。
 ラスト、病床から富岡とお手伝いさんを見ているゆき子。何を思うのか。胸を締め付けられる。
 他にも、他にも。キリがない。
 視線が交わらない小津映画では絶対に表現できない。

不倫というより、グダグダな二人の腐れ縁を描いた話。好き嫌いが分かれそうだ。
 安易なリメイクでは、このような完成度にはならないと思う。
 映画としての見せ方は、たぶん映画通や映画に関わる人々には教科書なのだろう。
 そう考えると、評価が高いのも頷ける。

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とみいじょん

4.5男女の機微

2023年7月5日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

まず二人の出会いのシーンで喰らってしまった。
富岡(森雅之)が退場する時に入れ替わりで侍女が入ってくる。去っていく富岡に視線を送る侍女をカメラが正面で捉え、次に去って行く富岡の方を向くゆき子(高峰秀子)を写し、ゆき子の視線は富岡から彼に熱い視線を送る侍女へと移る。
わずか数秒の流れるような視線の動きを捉えたカメラワークでこうも語ってしまうのか、と感嘆してしまった。

また小道具の使い方が巧妙で、ゆき子の年齢を会話のやり取りで明かした上で、後にゆき子にちょっかいを出す同僚が「香木の研究をしててね」と懐から香木を取り出して嗅いでみたり、宿泊先で富岡の着替えだけが風呂敷で包まれていたり、その他ちょっとした視線の動きなど、演出が絶妙だった。

男は関係を断ち切れずにたまに寂しくなっては女に会いに行くが、女の方がその気になると男の方では引いてしまう。色気と気品のある森雅之だからこそか、どこまでも煮え切らない二人のやり取りに見入ってしまった。

全体を通して暗く重苦しい雰囲気だが、山をバックに二人で歩くシーンや船の出航のシーンなど明るく抜けの良い画面が挟まれたり、家を出入りする時にすれ違う狭い路地で遊ぶ子ども達の姿など二人の関係や生活との対比で一層眩しく映った。また、ゆき子の兄の新興宗教のシーンや、加東大介演じる飲み屋の主人との掛け合いがコミカルでスパイスとして効いていた。
しかし、ラストシーンのあまりの暗さにはズシっと来るものがあった。

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抹茶

5.0とても面白かった

2023年4月24日
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鑑賞方法:映画館

冒頭の引き揚げシーンからラストまで、どのくらいの年月を描いた話なのか、思い返しても判然としない。とにかく最初から最後まで、ひと組の男女がひたすらお互いを行ったり来たりする様子だけ。他には劇中一切、全く何も描かれない。
1955年に公開された映画なので当然ながら、人間の等身大をはるかに超えたバカでかいスクリーンで見られることしか想定されていない。そういう風に設計された映像を現代でも映画館で見られる贅沢。
富岡の、女に対してのみ威力が発揮される超絶クズ仕草。ゆき子(雪子?由希子?)はわかっていながらそれでも食らいついていく。その気持ちの強さを表現する高峰秀子の表情と言葉と佇まいに、見ているこちらの心が全部持っていかれる。

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どんぐり
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