劇場公開日 1955年1月15日

「男女の機微」浮雲 抹茶さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5男女の機微

2023年7月5日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

まず二人の出会いのシーンで喰らってしまった。
富岡(森雅之)が退場する時に入れ替わりで侍女が入ってくる。去っていく富岡に視線を送る侍女をカメラが正面で捉え、次に去って行く富岡の方を向くゆき子(高峰秀子)を写し、ゆき子の視線は富岡から彼に熱い視線を送る侍女へと移る。
わずか数秒の流れるような視線の動きを捉えたカメラワークでこうも語ってしまうのか、と感嘆してしまった。

また小道具の使い方が巧妙で、ゆき子の年齢を会話のやり取りで明かした上で、後にゆき子にちょっかいを出す同僚が「香木の研究をしててね」と懐から香木を取り出して嗅いでみたり、宿泊先で富岡の着替えだけが風呂敷で包まれていたり、その他ちょっとした視線の動きなど、演出が絶妙だった。

男は関係を断ち切れずにたまに寂しくなっては女に会いに行くが、女の方がその気になると男の方では引いてしまう。色気と気品のある森雅之だからこそか、どこまでも煮え切らない二人のやり取りに見入ってしまった。

全体を通して暗く重苦しい雰囲気だが、山をバックに二人で歩くシーンや船の出航のシーンなど明るく抜けの良い画面が挟まれたり、家を出入りする時にすれ違う狭い路地で遊ぶ子ども達の姿など二人の関係や生活との対比で一層眩しく映った。また、ゆき子の兄の新興宗教のシーンや、加東大介演じる飲み屋の主人との掛け合いがコミカルでスパイスとして効いていた。
しかし、ラストシーンのあまりの暗さにはズシっと来るものがあった。

抹茶