いとはん物語
劇場公開日:1957年1月15日
解説
北条秀司の名古屋おどり“いとはん”より、「あこがれの練習船」の成澤昌茂が脚色、大映決入社第一回の伊藤大輔が久方ぶりに監督する文芸篇。撮影は「午後8時13分」の高橋通夫。アグファカラーの第二作。主な出演者は、「八月十五夜の茶屋」の京マチ子、「眠狂四郎無頼控」の鶴田浩二、「四十八歳の抵抗」の小野道子、「誰かが殺される」の矢島ひろ子、「高校生と殺人犯」の市川和子、「母白雪」の入江洋佑、「リンゴ村から」の梅若正義、「愛の海峡」の鶴見丈二、ほかに東山千栄子、加東大介、浦辺粂子のヴェテラン陣。
1957年製作/83分/日本
配給:大映
劇場公開日:1957年1月15日
ストーリー
大正の中頃、大阪西長堀界隈は老舗の集まり、中でも名うての“扇弥”の三人娘の中、長女のお嘉津は妹お咲、菊子とは似ても似つかぬ不器量だが美しい心の持主であった。稲荷祭へ三人揃って参詣の帰り、町内のドラ息子達にからかわれたお嘉津は、かねて思いをかけていた番頭の友七に救われる。これ以来、お嘉津の娘心はつのるばかり。友七が四国へ扇の地紙買附けに発った後、友達の結婚祝いの下書に、思わず“友七さままいる”と認めてしまうほどである。だが、この反古紙をみつけたおわさは、娘の秘めた恋人を知り、不器量なだけ、お嘉津の心をふびんに思う。早速、友七の兄が国許から呼寄せられ、彼にとっても弟の出世話ゆえ、ことはとんとんと進む。お嘉津にとっては夢のような日々が続く。ところが友七には心に定めた人--同じ扇弥の小間使お八重がいた。だから帰ってきて、おわさに心を問われても即答を避けて引下る。女中仲間お幸の助けで、友七と会ったお八重は、いとはんの心中を思って身を引くというが、彼は「自分の心を偽って迄一緒になることは却っていとはんの美しい心を傷つける」と言いきる。だが、お嘉津の幸福そうな様子に言い出しかねている時、置手紙を残して八重は家出。手紙をお嘉津に手渡し、友七も彼女の後を追う。悲嘆にくれるお嘉津もやがて母親に向い「お八重と友七つぁんのこと、ええように計ろうてあげて……」と言い切り、そのまま物干へと出て行く。慟哭に堪えて立ちつくす彼女の心には、あの束の間の幸せが、しばし、よみがえるのであろう。