ミュンヘン

ALLTIME BEST

劇場公開日:2006年2月4日

解説・あらすじ

スティーブン・スピルバーグ監督が、1972年ミュンヘンオリンピック開催中に起きたパレスチナ武装組織によるイスラエル選手団殺害事件と、その後のイスラエル諜報機関による報復作戦を実話に基づいて描いたサスペンスドラマ。ジョージ・ジョナスのノンフィクション小説を原作に、「フォレスト・ガンプ 一期一会」のエリック・ロスとドラマ「エンジェルス・イン・アメリカ」のトニー・クシュナーが脚本を手がけた。1972年9月5日、ミュンヘン五輪の選手村にパレスチナの武装組織が侵入し、イスラエル選手11人を殺害する事件が発生。イスラエルの諜報機関モサドはその報復として、首謀者11名の暗殺計画に乗り出す。暗殺チームのリーダーに任命されたアブナーは妊娠中の妻を置いてヨーロッパへ渡り、標的を1人ずつ抹殺していく。「トロイ」のエリック・バナが主演を務め、後に6代目ジェームズ・ボンドとなるダニエル・クレイグ、「シャイン」のジェフリー・ラッシュが共演。

2005年製作/164分/アメリカ
原題または英題:Munich
配給:アスミック・エース
劇場公開日:2006年2月4日

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映画レビュー

3.5 暗殺の裏にある二つの心情。

2024年9月3日
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共感した! 6件)
すっかん

3.5 【75.8】ミュンヘン 映画レビュー

2026年1月25日
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鑑賞方法:VOD

スティーヴン・スピルバーグ監督が2005年に世に問うた「ミュンヘン」は、映画史において極めて野心的、かつ痛切な矛盾を孕んだ一作として位置づけられる。娯楽映画の神として君臨してきたスピルバーグが、自らのルーツに深く関わるパレスチナ問題、そしてテロと報復という出口なき迷路に真っ向から挑んだその姿勢は、キャリアの中でも屈指の誠実さを感じさせる。しかし、本作を冷静に総括するならば、圧倒的な技術と熱量を有しながらも、映画としてのカタルシスを拒絶した代償として、構成の冗長さと終盤の演出の綻びが「傑作」への到達を阻んだ、極めて惜しい一歩手前の作品という評価に落ち着くのではないだろうか。
作品の完成度について深く考察すると、本作の持つ二面性が浮き彫りになる。中盤までの、ターゲットを一人ずつ追い詰めていくプロセスにおける緊張感は、70年代のポリティカル・スリラーを彷彿とさせ、そのざらついた質感と静謐な恐怖はスピルバーグの卓越した演出力の証明である。しかし、164分という長尺の中で、暗殺のサイクルが繰り返される構成は次第に一本調子な印象を与え、物語の推進力を削いでいく。暴力が人間を摩耗させる過程を描くために必要な「時間」であったとしても、その蓄積が観客に届くべき余韻を増幅させるのではなく、むしろ疲弊による無感覚を招いてしまった点は、映画的な構成としての「計算違い」と言わざるを得ない。さらに、後中期のスピルバーグ特有の悪癖ともいえる、終盤における「説明過多な演出」が、それまで築き上げてきたリアリズムの緊張感を台無しにしている。特にラスト近くの性愛と惨劇のフラッシュバックを重ねる演出などは、あまりに直接的なメッセージ性に依拠しており、映像が持つ沈黙の説得力を自ら放棄してしまった、安易な帰結に見えてしまうのが実にもったいない。
キャスティングについては、この重厚なドラマを支えるに相応しい、隙のない布陣が敷かれている。
エリック・バナ(アヴネル・カウフマン役)
主人公アヴネルを演じたエリック・バナは、国家の命を受け、良心と任務の間で引き裂かれる一人の男の変遷を見事に体現した。物語開始直後の、家族への愛と愛国心に満ちた若々しい表情が、暗殺を重ねるごとに影を帯び、やがて疑心暗鬼と恐怖に支配された虚ろな眼差しへと変貌していく過程は圧巻である。バナは過剰な叫びや泣きを封印し、沈黙の中で刻々と壊れていく魂の輪郭を、その強靭かつ繊細な佇まいで表現しきった。特に、自宅の電話に爆弾が仕掛けられていないか怯えるシーンで見せる、日常が戦場に変容してしまった者の孤独な狂気は、観客の心に深く刺さる名演であった。
ダニエル・クレイグ(ステュ役)
チームの武闘派であるステュを演じたダニエル・クレイグは、その硬質な存在感で物語に鋭いエッジを加えている。後にジェームズ・ボンドを演じることになる彼は、本作において、暴力の行使に対して最も確信犯的で、迷いのない「兵士」としての冷酷さを体現した。敵を殺すことに正当性を疑わない彼の硬い表情は、主人公アヴネルの揺らぎをより強調する対比構造として機能しており、暗殺チームの中に潜む野蛮な側面を象徴する重要な役割を果たした。彼の発する一言一言の重みが、報復の連鎖が持つ暴力性の本質を突いている。
キアラン・ハインズ(カール役)
チームの事後処理を担うカール役のキアラン・ハインズは、年長者らしい落ち着きと、知的な風格で作品に安定感をもたらしている。彼が演じるカールは、任務の正当性に静かな疑問を投げかけるチームの良心的存在であり、その憂いを帯びた表情は、国家という大きな歯車の中で翻弄される個人の悲哀を代弁していた。ハインズの抑制された演技は、派手なアクションシーンの合間に、本作が持つ倫理的な問いかけを深く根付かせることに成功している。
マチュー・カソヴィッツ(ロバート役)
爆発物の専門家でありながら、本質的には平和な玩具職人であるロバートを演じたマチュー・カソヴィッツは、本作において最も「観客に近い」感情を表現した。自らの技術が人の命を奪うことへの生理的な拒絶反応や、隠しきれない動揺を見せる彼の繊細な演技は、暗殺という行為がいかに異常なものであるかを浮き彫りにする。カソヴィッツが醸し出す脆さは、チームが徐々に精神的に崩壊していく過程において、非常に効果的なアクセントとなっていた。
ジェフリー・ラッシュ(エフライム役)
クレジットの最後に名を連ねるジェフリー・ラッシュは、モサドの担当官エフライムとして、物語の背後に控える国家の冷徹な論理を体現している。彼はアヴネルに「正義」という名目のもとに非情な命令を下す、いわば影の支配者である。ラッシュは、個人的な情愛を感じさせつつも、一線を越えれば冷酷に突き放すという二面性を、その卓越した演技力で巧みに演じ分けた。彼が画面に登場するだけで空気が凍りつくような緊張感は、本作に欠かせない重みを与えている。
脚本とストーリーにおいて、トニー・クシュナーとエリック・ロスは、暗殺される側のパレスチナ人にもそれぞれの生活や大義があることを描き、単純な復讐劇に陥ることを避けた。しかし、その公平性が物語の焦点を分散させ、結果として「一本調子」な展開を招いた側面は否めない。映像と美術、衣装については、ヤヌス・カミンスキーによる70年代の空気を切り取ったような冷たい色彩設計が完璧であり、当時のヨーロッパの不穏な空気を克明に再現している。
音楽はジョン・ウィリアムズが担当した。本作には特定の主題歌は存在しないが、ウィリアムズは「ミュンヘンへの祈り(Prayer for the Common Good)」をはじめとする、宗教的で悲劇的な旋律を全編に配した。いつもの華やかなオーケストレーションを封印し、独唱や管楽器の寂寥感ある響きを多用したスコアは、失われていく魂への鎮魂歌として機能している。
本作の賞歴としては、第78回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、脚色賞、編集賞、作曲賞の主要5部門にノミネートされるという高い評価を受けた。しかし、結果として無冠に終わった事実は、本作が「カタルシスの拒否」を貫いたことで、映画としての爆発的な感動を損なったこと、そして終盤の演出の綻びが、傑作としての完遂を妨げたことを象徴していると言えるだろう。
総じて「ミュンヘン」は、スピルバーグが巨匠としての地位に甘んじることなく、極めて困難なテーマに挑んだ勇作である。しかし、その高い技術と誠実さが、物語の構成力や演出の洗練さと完全には一致しなかった。カタルシスを拒絶した分、残るべき余韻が説明的な演出に消されてしまったという「惜しさ」こそが、本作の真実の姿ではないか。映画史に残る「惜作」として、今一度、その不完全な輝きを再考する価値はある。

作品[Munich]
主演
評価対象: エリック・バナ
適用評価点: 27
評価点A9
助演
評価対象: ダニエル・クレイグ、キアラン・ハインズ、マチュー・カソヴィッツ、ジェフリー・ラッシュ
適用評価点: 9
評価点A9
脚本・ストーリー
評価対象: トニー・クシュナー、エリック・ロス
適用評価点: 42
評価点B6
撮影・映像
評価対象: ヤヌス・カミンスキー
適用評価点: 10
評価点S10
美術・衣装
評価対象: リック・カーター
適用評価点: 9
評価点A9
音楽
評価対象: ジョン・ウィリアムズ
適用評価点: 9
評価点A9:
編集(加点減点)
評価対象: マイケル・カーン
適用評価点: 0
監督(最終評価)
評価対象: スティーヴン・スピルバーグ
総合スコア:[75.8]

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honey

4.0 ダニエル・クレイグが若い!

2025年9月1日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

何もしらないまま、アマプラでまもなく配信終了だったので鑑賞

もし、今、2025年にこの作品が公開されていたならば、どうなっていたんだろうか?

Home is everything.

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がい

4.0 祖国とは

2025年8月30日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

凄かった。
ずっと心臓に悪い。
誰も信用ができない。
報復なのか正義のための殺人なのか
国の為なのか民族のためなのか誰のためのものなのか、もはやわからん!
追う側が追われる側の恐怖を味わう場面が本当に怖かった涙。
でも今もまだその争いが終わってないことが何より怖い。

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icco