■1980年代ニューヨーク市のファイブ・ポイント地区。
アイルランド移民集団”デッド・ラッツ”のリーダー・ヴァロン神父(リーアム・ニーソン)が、対立するアメリカ生まれの集団”ネイティブ・アメリカンズ”のリーダー・ビル・カッティング(ダニエル・デイ=ルイス)に抗争の中、ナイフで殺害された。
それを目撃していたヴァロンの幼い息子アムステルダム・ヴァロン(レオナルド・ディカプリオ)は、15年後、復讐のために素性を隠してビルの組織に潜入する。
◆感想・<Caution!内容に触れています。>
・物凄い熱量で描かれた、近代アメリカ、ニューヨーク市での抗争を描いた作品である。現代、これほどの有名俳優多数を含めた登場人数と、近代のセット、意匠、衣装を要した映画を作る事が出来るのは、一体何人いるのだろうか。
流石、マーティン・スコセッシ監督であると素直に思う。
・物語の構成は意外にシンプルで、アイルランド移民集団”デッド・ラッツ”のリーダーであった父を殺された男と、父を殺した男との愛憎を描いた作品であるが、そこに様々な思惑を持った男達が絡んできたり、二人と接点を持つ魅力的な女スリ、ジェニー・エヴァディーン
(キャメロン・ディアス)が登場する事で、物語に華が添えられるのである。
■この作品が凄いのは、アイルランド移民集団”デッド・ラッツ”とアメリカ生まれの集団”ネイティブ・アメリカンズ”の抗争を描きつつ、それを率いるアムステルダムとビル・カッティングの関係性が、特にビルを演じた名優ダニエル・デイ=ルイスの、凄い演技もあり二人の人間の愛憎が、キチンと描かれている所である。
ビルが、ヴァロン博士を殺した時も彼は博士に敬意し表しつつも、別の場では実に残忍な男になるのだが、それをダニエル・デイ=ルイスが見事に演じているために、レオナルド・ディカプリオも頑張っているのだが、差が出てしまっているかなあと思ってしまったかな。
あとは、ジェニー・エヴァディーンを演じたキャメロン・ディアスの立ち位置が、後半やや薄れた事かなあ。
■この作品が観ていて切ない気持ちになるのは、”デッド・ラッツ”と”ネイティブ・アメリカンズ”の争いの中、新しきアメリカを率いるリンカーンによる南北戦争のための徴兵制により、二つのグループが瓦解していく様であろう。
圧倒的なアメリカ陸海軍の一斉射撃、砲撃によりニューヨーク市の人達の多くは亡くなる。それを象徴しているのが後半の多くの死者の胸に立てられた蝋燭のシーンである。
<そして、ラスト。ニューヨーク市が時間を経る中で、摩天楼が立って行く様を映し出すシーンは、ニューヨーク市が近代化していく様を如実に表しているのである。
今作は、近代アメリカ、ニューヨーク市の二つの集団を描きながら、結局は彼らも近代化の波に呑み込まれて行く様を、痛切に描いた近代アメリカ史を語る逸品なのである。>