劇場公開日 2025年8月22日

パルテノペ ナポリの宝石 : 映画評論・批評

2025年8月19日更新

2025年8月22日より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかにてロードショー

より多彩な引用が埋め込まれ、笑える遊びも盛り込まれているナポリ映画

パオロ・ソレンティーノ監督の代表作「グレート・ビューティー 追憶のローマ」の対角に位置する映画だ。「グレート・ビューティー」の主人公ジェップが初老の男性であるのに対し、本作の主人公パルテノペ(セレステ・ダッラ・ポルタ)は若い女性。大いなる美を追い求めたジェップに対し、パルテノペは「人類学とは何か」の答えを探し続ける。ジェップが初恋の女性の死をきっかけに過去を模索するのに対し、パルテノペは兄の死をきっかけに未来を模索する。そして、「グレート・ビューティー」がローマの映画であるのに対し、本作はソレンティーノの生まれ故郷であるナポリの映画だ。前者のベクトルは老境から青春へ向かい、後者のベクトルは青春から老境へと向かっていく。

名前の由来であるギリシア神話の人魚のごとく、海からビキニ姿で上がってくる18歳のパルテノペは、若く、美しく、自由だ。のちにカプリ島で出会う作家のジョン・チーバー(ゲイリー・オールドマン)が指摘するように、パルテノペの美しさは、周囲に破壊をもたらすと同時に可能性の扉を開く。他者の視線を意識し始めたパルテノペは、美容整形に失敗した演技コーチから俗にまみれた聖職者まで、クセモノたちとの出会いを重ねながら人生を漂流する。その間、父親的なポジションでパルテノペを見守るのは、彼女の本質を見抜いている人類学の教授だ。

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教授は、ある秘密を抱えている。彼がそれを明かすのは、パルテノペが「見られる人」から「見る人」へと移行するタイミング。教授の秘密を目にしたパルテノペの口からは、「とても美しい」という言葉がごく自然に発せられる。美は自ら見出すものであることを印象付けるこの場面こそ、この映画のハイライトと言っていいだろう。

「グレート・ビューティー」は、フェデリコ・フェリーニ監督の「甘い生活」や「8 1/2」にオマージュを捧げているが、本作にはより多彩な引用が埋め込まれている。パルテノペと兄と幼なじみの三角関係めいた間柄は、ベルナルド・ベルトルッチ監督の「ドリーマーズ」を思わせる。パルテノペとジョン・チーバーの出会いの場面は、ルキノ・ビスコンティ監督の「ベニスに死す」のようだ。もちろん、巨大なものへの愛着など、フェリーニへのオマージュも万全。さらに、ナポリ市民をディスりまくる大女優を、ナポリ育ちのソフィア・ローレンそっくりに仕立てるという、笑える遊びも盛り込まれている。

矢崎由紀子

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