誰も知らない

ALLTIME BEST

劇場公開日:

解説

「ワンダフルライフ」「DISTANCE ディスタンス」の是枝裕和監督が、母親に置き去りにされた4人の兄妹が子どもたちだけで生活する姿を、1988年に実際に起きた事件をモチーフに描いたヒューマンドラマ。

都内のアパートで大好きな母親と暮らす、それぞれ父親の異なる4人の兄妹。12歳の長男以外の妹弟の存在は大家にすら知らせておらず、学校にも通ったことがない。やがて新しい恋人ができた母親は、わずかな現金と短いメモだけを残し、長男に妹弟の世話を託していなくなってしまう。この日から、誰にも知られることのない、子どもたちだけの生活が始まるが……。

オーディションで抜てきされた柳楽優弥が長男役を演じ、2004年・第57回カンヌ国際映画祭にて史上最年少かつ日本人初となる最優秀男優賞を受賞。YOUが母親役を独特の存在感で演じ、加瀬亮、寺島進、遠藤憲一、平泉成が共演。

2004年製作/141分/日本
配給:シネカノン
劇場公開日:2004年8月7日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第28回 日本アカデミー賞(2005年)

ノミネート

助演女優賞 YOU

第57回 カンヌ国際映画祭(2004年)

受賞

コンペティション部門
男優賞 柳楽優弥

出品

コンペティション部門
出品作品 是枝裕和
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映画レビュー

5.0子どもたちのパラダイスと過酷な現実

2018年7月29日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

世間的には悲惨な事件として認識された巣鴨の子ども置き去り事件。実際にそれは悲惨なものであるのだが、そのレッテルが覆い隠したものにこそ是枝監督は焦点を当てる。

子どもを置き去りにする母親の無責任さを断罪すべきという声が、欧米の観客からもあったという。子どもの人権を考えれば断罪すべきかもしれないが、監督にとって映画は誰かを裁くためのものではない。ここで描かれるのは、子どもたちの幸せだった時間。人間の生活は新聞記事ほどシンプルに切り取れるものではない。残酷な事件だが、されだけで彼らの人生は残酷なものばかりだったわけでもない。

断罪にこだわれば別の真実を見落とすだろう。努めて観察的な監督の視点は社会を見つめる上で重要だ。怒りも忘れてはならないのだが、多面的な視点はもっと重要だ。それが残酷な現実であればなおさらそうだろう。是枝監督の視線のあり方は本当に誠実で貴重なものだと思う。

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杉本穂高

4.0氷山の一角

2024年12月18日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

アマプラで鑑賞。
柳楽優弥君の功績(カンヌ最年少男優賞)は、当時話題になったので知ってはいたが未見だった。
目力が強く自然な演技だった。

衝撃作である。
この作品が2004年公開だが、虐待のニュースが未だ絶える事がない。
昔からこういう母親はいたわけで、悔しい思いがする。本当に、どんな事情があるにせよ、育てられないなら子供産むなと言いたい。たまに帰ってきた時だけかわいがり、お土産でごまかす。子供達はペットのようだった。
上の2人は大体わかっていて、ほしいのはそんな物じゃないというのが伝わってくる。
そして周りの少しでも関わりのある大人が、どうにかできなかったか。

誰かが通報するまでの日々を描いてると思うが、スーツケースに幼い妹…大変ショックで悲しい話だ。

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ふわり

5.0何も言えない

2024年12月12日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

2004年の作品だが、「普遍的概念」に満ちている。
当時は賞を取ったことで有名になった作品だが、今回初めて見た。
物語は実際の事件をモチーフにしているが、製作者はその根底に感じたものを我々に提示している。
冒頭 アキラが大きなキャリーケースを持ってモノレールに乗っているシーンがある。
これは最後のシーンとなっているが、アキラの衣服のほころびと、キャリーケースを撫でるシーンが彼らの結末を表現しているものと気づいた。
そしてタイトルが現れるが、その右半分の余白は大きく空けられている。
この後この手法を取り入れた作品が登場しているが、つまりこの作品そのものが視聴者へ向けられたメッセージとなっていることが伺える。
私が見終えた後に感じたその余白は、
誰も知らない「誰も知ろうとはしないから」だった。
さて、
この物語に見られる「変化」
母親の存在と仲睦まじい兄弟たち。
それなりの訳アリだとわかるものの、彼らに暗さはない。
それが次第に変化していくのがこの作品の見どころだろう。
長男のアキラの明晰さにかこつけて、母親はすべてを彼に任せてしまっている。
これが母親のだらしなさの元凶になっているのだろうか?
アキラを見て、母親は「もう彼らだけで生きていける」と判断したのだろうか?
また、
大家はあの状況から無理に家賃を取り立てないことにしたと思われるが、それは、やさしさだったのだろうか?
毎日毎日公園で水を汲み、トイレをそこでして、洗濯もする。
誰もが使っている公園での彼らの日常に気づかないはずはない。
実際に事件ということが明確化されなければ、当時の東京は、かなり他人に無関心な場所だったのかもしれない。
この現状が、製作者の心を動かしたのだろうか?
「お葬式ごっこ」という当時流行った新しいじめ。
そのターゲットにされたサキ
近所に住んでいた彼女と、この家族らの距離が次第に縮まっていく伏線の貼り方はよかった。
そしてアキラはとても気丈だ。
彼が憧れた「普通の生活」
普通に学校に行って、普通に友達と遊びたい。
それでも彼には善悪の区別がはっきりと付き、だからそそのかされても万引きには手を出さなかった。
だから、サキが「大丈夫、一緒にカラオケしただけ」というお金をもらおうとはしなかった。
アキラには何が人をダメにするのかよくわかっていたのだろう。
ここが事件と一線を画す場所であり、人間としての誇りを失わない砦になるのだろう。
おそらく監督は、誰にも助けられなくても、人間としての誇りだけは失うなと言いたかったのだと思う。
ここに仕掛けたフィクションこそが、実際の事件のもう一つあったであろう道を描いている。
しかし、
物語の現実も残酷さを突き付ける。
アキラはユキの具合の悪さからドラッグストアに行き、ついに万引きをした。
サキにもお金の相談をした。
アキラには万引きに至るまでの決心があり、その決行は正しかった。
頼みの綱である母に電話をかけたが、手持ちのお金が無くなってしまう。
ダメな母親もアキラに連絡手段を残しているのは、この作品における監督の趣旨が、「誰が悪いのか」というところにないからだろう。
彼の判断基準と葛藤がいくつものシーンで描かれている。
今ある彼の知識と今までの判断
そばが食べたいという弟が遊びに行ってしまったこと。
公園でトイレに行かなかったユキがトイレに行きたいと言ったこと。
家計のやりくり
妹たちの鬱憤 そして眼
もうこれ以上支えられなくなってしまったアキラの判断 万引き
誰にも責めることはできない彼の万引きで、
彼は、自分の中の誇りを失ってしまったのだろうか?
さて、
冒頭のシーンが最後のシーンに繋がっている。
キャリーケース アキラとサキ
ユキが大事に食べていたアポロチョコを大量に買ってケースの中に入れたのだろう。
何も知らない「何も知ろうとしない」コンビニ店主の能天気な言葉
あれは城南島あたりだろうか?
穴を掘って墓標を立てる二人
大都会東京で精一杯生きている子供たち
一晩かけてユキを弔う。
「何かすごく… 何かすごく…」
自分の気持ちを言葉にできないアキラ。
泥だらけになった服で早朝の電車に乗る二人。
流れる歌の歌詞「誰も寄せ付けられない異臭を放った宝石」
そして
やっぱりそれでも同じ生活が続く。
空を飛ぶ飛行機
アキラはそれでも上を向いて生きていく。
さてさて、、
酔った母が、「昔アキラがひとりでモノレールに乗って、羽田空港で働いている父に会いに行ったことがある」という話があり、アキラは「覚えてない」という。
アキラは二人の父に会いに行ってお金をもらう。
アキラは何故本当の父親を訪ねなかったのだろう?
アキラがモノレールに乗って父に会いに行ったのは、おそらく母がお金をもらって来いと言ったからだと思われる。
だから二人の父に、そうしたのだろう。
アキラは、羽田空港で働く実の父の姿に感銘を受けたのではないだろうか?
シゲルもユキも憧れる飛行機
この飛行機が飛んでいるシーンがいくつか登場するのは、子供たちに向け「はばたけ」と言っているのではないだろうか?
その言葉そのものがアキラを突き動かす原動力となっていると思った。
「決してくじけない」
その姿を見たアキラは、いつか父の様な男になりたいと強く思ったのではないだろうか?
だから、絶対父にだけはお金をせびるような姿は見せられないのだ。
やがて、
ユキが死に絶え、ユキも憧れていた羽田に埋葬する。
飛び交う飛行機の轟音は、この世界に対する嘆きだろう。
父と同じ羽田の地にいて、この違い。
これがアキラの口から漏れ出た「何かすごく… 何かすごく…」という言葉に込められている。
「普遍的概念」とは、時代が変わってもなお解決されない弱者と貧困に対するもので、これを普遍的とするならば、政治など不要で、これが人類つまりホモ=サピエンスであるならば、本当は人類を表現する言葉は「ホモ=インサピエンス」と呼ぶべきだろう。
私は、この作品を見て何も言えないが、この現実に対してできる精一杯を心がけたい。
普通であれる幸せのありがたさを感じた。

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R41

4.0誰にも知られない命

2024年12月5日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

怖い

当時、すごく話題になったのに何だか怖くて観ることができなかった作品。

世の中に“無戸籍の子どもたち”がたくさんいることを知らしめるキッカケともなった。
無戸籍の子どもはやがて大人になり、戸籍がないが故に様々な社会の仕組みから取り残され、もしかしたらまたこのような家族を生み出すのかもしれない。

モデルとなった巣鴨の子ども置き去り事件の母親は、どんな生育環境でこのような無責任な大人になったのか。そしてまた父親たち男性も同じく、女性性に快楽の後始末をさせ、素知らぬ顔で生きていくこと。

誰にも知られず、気にも留められず、周りにたくさん大人はいたのに、手を差し伸べる人、本気でこの異常さに向き合う人のいなかった不幸。

にも関わらず、悲惨さを感じない淡々とした、優しい光と静かな作風が、逆にものすごく恐ろしい。

段々と薄汚れていく姿、明らかに栄養の足りない粗末な食事、不衛生な部屋、全てが悲しくて、大人の1人として私には何ができるのか、しかと考えよと言われているような気持ちになりました。

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ke_yo