コラム:どうなってるの?中国映画市場 - 第27回

2021年1月20日更新

どうなってるの?中国映画市場
6、ハリウッド大作不在の影響は大きかった
「TENET テネット」
「TENET テネット」

中国における外国映画市場占有率は16.3%。わずかな数値ですが、コロナ禍による影響は非常に大きかったと言えます。多くのハリウッド大作は、2021年以降に上映を延期しましたが、クリストファー・ノーラン監督作「TENET テネット」は、映画業界を救うという意味を込め、全世界での上映に踏み切りました。中国での興収は、4億5000万元(約71億5000万円)。2020年の中国における外国映画のトップに君臨しましたが、19年に「アベンジャーズ エンドゲーム」が記録した興収42億3000万元(約655億7000万円)とは比べ物になりません。

19年の総括でも記しましたが、市場のニーズと若干ズレが生じ始めており、外国映画が中国で簡単にヒットできる時代ではなくなりました。そして、コロナの影響によって、その状況がさらに厳しくなりました。2020年の外国映画を含めた総合興収ランキングのベスト10は、全て中国映画です。ベスト20でも、外国映画は「TENET テネット」「ムーラン」、「クルードさんちのはじめての冒険」の続編「The Croods: A New Age(原題)」の3本だけ。この状況は、中国映画市場にとって、決して良いことではないんです。

中国映画市場には、自国の作品だけで成り立つマーケットはありません。ハリウッド映画がなければ、市場全体が寂しくなってしまう。国慶節の時は、19年の興収8割ほどまで回復することができましたが、11月に入ると、国産の話題作も乏しく、ハリウッドの大作映画もない状況。市場は低迷し、興収は19年同時期の6割程度に落ち込んでしまいました。改めて、ハリウッド映画のパワーを感じざるを得ませんでしたね。

7、日本映画はアニメが健闘、実写は苦戦
「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」
「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」

2020年、中国で公開された日本映画は11本でした。内訳は「アニメ:7本、実写:4本」。外国映画としては、アメリカに次ぎ、2番目の本数となっています。日本映画の興収1位は、1億2500万元(約19億8700万円)の「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆」。この数字は、日本国内の興収を遙かに超えるものです。「デジモン」シリーズが、中国でいまだに根強い支持を集めているということが証明されました。

一方、実写作品は苦戦した作品ばかり。1位の「マスカレード・ホテル」でさえ、興収は約1704万元(約2億7000万円)だったんです。中国の映画関係者によると「日本の実写映画はどの作品も失敗してしまった。今後、中国での劇場上映はさらに難しくなるはず」とのこと。今後は、配信がメインストリームになるのでないかと予想されています。

8、ジャ・ジャンクー、突然の脱退――平遥国際映画祭に起こった衝撃展開
平遥国際映画祭
平遥国際映画祭

映画館の営業再開に合わせ、延期を発表していた上海国際映画祭が、7月25日からのスピード開催を実現させました。営業が再開されたばかりだったため、作品の上映が主となりましたが、それでも無事に“完走”。このことが、中国国内の映画祭開催の道を切り拓きました。

ジャ・ジャンクー
ジャ・ジャンクー

8月の北京国際映画祭を経て、10月中旬にはジャ・ジャンクー監督と、彼のチームが運営する平遥国際映画祭が予定通り開幕。第4回を迎えた同映画祭は、ジャ・ジャンクー監督らの努力が実を結び、中国国内では評価の高い映画祭のひとつに数えられます。同回の運営は、政府の支援がない状態で行われ、中国の映画人や業界人が集まり“映画の時間”を楽しみました。

画像5

しかし、映画祭の閉幕前日、ジャ・ジャンクー監督は、来年以降、自らのチームが映画祭の運営から離れることを発表。運営は、平遥政府へ移管することになりました。あまりにも突然のビッグニュース……中国映画業界に激震が走りました。脱退の理由は、いまだに明かされていませんが、“映画の上映許可”を意味するドラゴンマークなしでの上映が問題となったのではないかと噂されています。映画祭閉幕後、ジャ・ジャンクー監督の精神状態は良好ではなくなり、東京国際映画祭では、黒沢清監督との対談も「体調不良」を理由に欠席してしまいました。

9、劇場が未完成? トラブル続出の海南島国際映画祭
海南島国際映画祭
海南島国際映画祭

海南島国際映画祭をご存知でしょうか? 近年、注目が集まっている中国の国際映画祭です。中国最大のリゾート地として知られる海南島は、もともと人気の観光地で、12月でも平均気温が20度を超えています。当地の政府も、世界トップレベルの映画祭を目指し、大量の資金を投入しているんです。

画像7

第1回開催時には、ジョニー・デップイザベル・ユペールが出席。19年開催時には、黒沢清監督のマスタークラスを実施するなど、“注目すべき映画祭”として、世界各国の媒体で報道されています。20年の第3回開催時には、世界各国の映画祭受賞作、話題作をラインナップ。日本からは、黒沢監督作「スパイの妻」、河瀬直美監督作「朝が来る」などが出品されていました。

画像8

しかし、運営チームが変わったことでトラブルが続出。未完成状態の劇場も存在していたようで「塗料の臭いが酷くて、我慢できない」というコメントも。作品上映時も、直前にスケジュール変わったり、上映中止になったり……。マスコミとのやり取り、イベントの運営も上手くいかなかったため、各方面から不満が噴出していました。幸いなことに、映画祭は無事に終えることができたようです。今後は、運営にさらなる力を入れ、問題を改善していくことが課題となっています。

10、海賊版が流出してもヒット! 配信と劇場の未来とは
「ソウルフル・ワールド」
「ソウルフル・ワールド」

2020年の映画市場は、興収の激減が大きなトピックスとなりましたが、業界全体がさらに不安視しているのが「映画を見る手段の変化」です。この1年、日本も含め、配信プラットフォームが一気に普及。日本では「愛の不時着」などが社会現象になりましたよね。

では、中国はどうでしょうか? 実は、ちょっと特別&複雑です。外国作品の上映本数が制限されているため、見たい作品が上映されなければ、海賊版を見るしかないという状況。つまり、劇場以外の場で作品を見ることに慣れているんです。逆に「劇場で映画を見ること」を、一部の映画ファンはとても重要視しています。2019年、中国で初めて劇場公開された「千と千尋の神隠し」が良い事例でしょう。海賊版で見ることができたとしても、劇場で作品を体験したいという映画ファンは数多く存在していたため、4億8800万元(約77億8000万円)という好成績を残しました。

2020年、新型コロナウイルスの影響によって、「ムーラン」「ソウルフル・ワールド」は多くの国と地域で劇場公開をせず、オンライン配信となりました。しかし、中国ではDisney+が利用できないため、この2作は劇場公開となりました。どちらとも、上映時には海賊版が流出してしまったことで“簡単に、無料で鑑賞できる”となっていました。しかし「ソウルフル・ワールド」は、高評価の口コミが相次ぎ「劇場で体験したい人」が続出。現時点では、興収2億4000万元(約38億2000万円)を超えています。

皮肉なことに、中国では海賊版が氾濫したことによって、他国よりも配信と劇場のバランスがとれてしまっているんです。ただし、劇場公開における成績が上手くいったとしても、同時配信は、映画鑑賞のシステムに必ず影響を及ぼします。映画館が今後どのような道を歩みべきか――各国の映画市場にとっての大きな課題と言えるでしょう。

シネマ映画.comで今すぐ見る

筆者紹介

徐昊辰のコラム

徐昊辰(じょ・こうしん)。1988年中国・上海生まれ。07年来日、立命館大学卒業。08年より中国の映画専門誌「看電影」「電影世界」、ポータルサイト「SINA」「SOHA」で日本映画の批評と産業分析、16年には北京電影学院に論文「ゼロ年代の日本映画~平穏な変革」を発表。11年以降、東京国際映画祭などで是枝裕和、黒沢清、役所広司、川村元気などの日本の映画人を取材。中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数は280万人。日本映画プロフェッショナル大賞選考委員、微博公認・映画ライター&年間大賞選考委員、WEB番組「活弁シネマ倶楽部」の企画・プロデューサーを務める。

Twitter:@xxhhcc

Amazonで今すぐ購入

映画ニュースアクセスランキング

本日

  1. 作間龍斗&山下美月が映画初主演! 人気漫画「山田くんとLv999の恋をする」を実写化

    1

    作間龍斗&山下美月が映画初主演! 人気漫画「山田くんとLv999の恋をする」を実写化

    2024年11月7日 06:00
  2. 長塚京三、東京国際映画祭最優秀男優賞に驚き隠せず「こういう事態になるとは想像もつきませんでした」

    2

    長塚京三、東京国際映画祭最優秀男優賞に驚き隠せず「こういう事態になるとは想像もつきませんでした」

    2024年11月7日 01:00
  3. ポン・ジュノ監督のハリウッド・メジャー大作「ミッキー17」全米公開を4月に延期 IMAX全面展開へ

    3

    ポン・ジュノ監督のハリウッド・メジャー大作「ミッキー17」全米公開を4月に延期 IMAX全面展開へ

    2024年11月7日 13:00
  4. 「踊る」シリーズ累計興行収入500億円突破! 明日から3日間「室井慎次 生き続ける者」先行上映

    4

    「踊る」シリーズ累計興行収入500億円突破! 明日から3日間「室井慎次 生き続ける者」先行上映

    2024年11月7日 22:00
  5. ヒュー・ジャックマンと再タッグ、ライアン・レイノルズが新作映画の脚本執筆へ

    5

    ヒュー・ジャックマンと再タッグ、ライアン・レイノルズが新作映画の脚本執筆へ

    2024年11月7日 11:00

今週