コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第9回

2014年4月24日更新

佐藤久理子 Paris, je t'aime

今年のカンヌラインナップは常連ぞろい 「監督週間」に「かぐや姫の物語」

第67回目を迎える今年のカンヌ国際映画際のラインナップが出そろった。4月17日に行われたオフィシャル部門(「監督週間」「批評家週間」以外のセクション)の発表会見によれば、オープニング作品「グレース・オブ・モナコ」をのぞくコンペティション参加作品は計18本、ある視点部門が19本。ただしジェネラル・ディレクターのティエリー・フレモーは、例年通り今後も追加される可能性があることを示唆した。

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コンペには、ケン・ローチ、ダルデンヌ兄弟、デビッド・クローネンバーグ、ヌリ・ビルジュ・セイランといった常連、アメリカからトミー・リー・ジョーンズベネット・ミラー、カナダからアトム・エゴヤングザビエ・ドランの新旧両世代、フランスからオリビエ・アサイヤスベルトラン・ボネロに加え、「アーティスト」のミシェル・アザナビシウスがそろった。また、しばらくご無沙汰していたマイク・リーがカムバック。そしてある視点部門に出品された前作、「ゴダール・ソシアリスム」から4年ぶりのジャン=リュック・ゴダールの長編「Adieu au langage」も、コンペティションに出品される。日本からは、昨年審査員を務めた河瀬直美の新作「2つ目の窓」がコンペに、佐藤雅彦と東京芸術大学の生徒4人による短編「八芳園」が短編部門に入った。

全体的な印象としては、今年も常連が多い。だが「あまり代わり映えしない」という声を予想してか、会見でフレモーは、カンヌは特定の監督をひいきにするわけではなく、若手の才能も積極的に開拓しているとアピールした。とはいえ実際は、常連監督の作品を外せば他の映画祭に回ってしまうため、よほど出来に問題がない限り逃したくないというのが本音だろう。さらに同じ国の作品に関しては、どうしても監督のヒエラルキーがあるのも避けられない。今年はトルコのファティ・アキンがある視点部門に決まっていたものの、「個人的な理由」で辞退した。実際はコンペを狙っていたのに、先輩格のヌリ・ビルジェ・セイランにお株を奪われたのが不服だったのでは、という憶測も流れている。

フレモーによれば、クローネンバーグの「Maps to the Stars」は、ロバート・アルトマンの「ザ・プレイヤー」のようなタイプの映画で、アザナビシウスの「The Search」は、チェチェンの内紛をテーマにこれまでの作品とはまったく趣を異にするという。さらに注目作としては、またしても自作・自演を果たす俊英グザビエ・ドランのコンペデビューとなる「Mommy」、マリオン・コティヤールを起用したダルデンヌ兄弟の「Two days, One night」、デザイナー、イブ・サン=ローランの元パートナー、ピエール・ベルジェが非公認ということで話題となった、ギャスパー・ウリエルが主演するボネロ監督による伝記映画「Saint Laurent」などがある。

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ある視点部門の呼び物は、人気俳優による監督作だろう。ライアン・ゴズリングの監督デビュー作とともに、マチュー・アマルリックアーシア・アルジェントの監督作が並ぶ。併設部門の「監督週間」には日本から高畑勲のアニメーション、「かぐや姫の物語」が入った。もっとも、高畑は宮崎駿とともにスタジオ・ジブリを代表する監督として海外でも大きな知名度があるだけに、オープニングや特別上映作にするなど、もう少し“工夫”があっても良いのではないかと思えた。欲を言えば他に若手の日本映画が1本ぐらい入って欲しかったところ。新人の登竜門である「批評家週間」にも、今年は日本映画が不在だ。「監督週間」全体としては、計19本中、初監督作が3本。傾向としてサスペンスやダークな作品が多いという。

だが今年のゴシップはなんといっても、オリビエ・ダアン監督による「グレース・オブ・モナコ」である。アメリカでハーベイ・ワインスタインの会社での配給が決まっている本作は、完成した作品に不服のワインスタインが自ら勝手に再編集してしまったとか。これを知った監督はもちろん激怒。カンヌではどちらのバージョンが披露されるか注目されていたが、作家を重要視する映画祭らしく監督バージョンが上映されることになった。というより、ダアンにとって「本作は1つしか存在しない」のだとか。

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そんな折、今度はグレース・ケリーの息子でモナコ公国の元首アルベール2世がカンヌ上映のボイコットを呼びかけた。アルベール2世は本作が伝記として正確ではないとし、とくに父レーニエ3世の描かれ方に憤慨していると伝えられる。モナコの王族は社交界や芸能界にもつながりが深いだけに、映画祭への影響を危惧する声もある。5月14日に開幕する今年のカンヌ。果たしてどんなドラマが待ち受けているだろうか。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

Twitter:@KurikoSato

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