コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第120回

2023年6月29日更新

佐藤久理子 Paris, je t'aime

フランスで初めての森田芳光監督特集開催、快調なスタート切る

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以前、映画.comのニュース欄でご紹介した、パリ日本文化会館の1年にわたる「寅さん映画」全シリーズ上映(https://eiga.com/news/20211213/6/)は、未だパンデミックの影響があった時期にも拘らず大好評となり、2023年もアンコール上映がおこなわれている。

そんな折、今度はフランスで初めてのレトロスペクティブとなる、森田芳光監督特集が始まった。これは同会館が以前から開催している、「知られざる監督」を紹介するシリーズの第16弾にあたる。これまで内田吐夢伊藤大輔、清水宏といった往年の監督から戦後世代の市川準相米慎二まで、日本国内では評価が定まっていても、なかなか海外には浸透していなかった監督たちを取り上げてきた。フランスで劇場公開されたことのない森田作品も、まさにそんなポジションに当てはまる。

まず第1弾として、今年10月までに13本を上映。そして来年春から第2弾として、そのほかの作品も加え、森田監督のフィルモグラフィーの大半を紹介する試みだ。パリ日本文化会館映画主任であるファブリス・アルデュイニ氏によれば、「第1弾は初めて森田作品を観る観客も入り込みやすいような、彼の代表作と呼べる一般向けの作品を紹介し、第2弾では、初期のものを含め、もう少し幅を広げるようなセレクションをしました」とのこと。今回のオープニングには「家族ゲーム」(1983)が選ばれ、他に「それから」(1985)、「キッチン」(1989)、「失楽園」(1997)、ポスター映像にもなった「黒い家」(1999)、「わたし出すわ」(2009)、遺作の「僕達急行 A列車で行こう」(2011)などがある。

あらためて振り返ると、多作であるとともに本当にさまざまなジャンルに富んでいる。だが実際、そんな森田監督作品の特徴が、日本映画に早くから門戸を開いてきたはずのフランスでの認知度を遅らせたことも、また事実ではないかと思う。

これはフランスに限ったことではないだろうが、多彩でさまざまなジャンルを撮りわける監督ほど、レッテルが貼りにくいため、浸透しづらいという事情はある。シネフィルが好きそうな作家主義的な監督としてアピールはできないし、かといってホラーやサスペンスなどのジャンル映画監督と限定してしまうこともできない。日活ロマンポルノもあればコメディやアイドル映画もあり、原作ものとオリジナル・ストーリーが混ざっている。

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さらに森田監督の場合、ほとんど1作毎に制作会社が異なったため、海外に配給する際にまとめて、というわけにも行かず、足並みが揃いづらいという事情もあっただろう。今でこそ、どこの映画会社もふたこと目には国際映画祭への出品を唱えるようになったが、森田監督の時代はまったく異なった。「の・ようなもの」(1981)で商業デビューしてから2年後の「家族ゲーム」がロカルノ国際映画祭のインターナショナル・コンペティション部門で特別賞を受賞し、「それから」はカンヌ国際映画祭の監督週間部門に参加したにも拘らず、その後海外に広まらなかったのは、こうした事情もあったに違いない。

家族ゲーム」上映のオープニング・イベントには、「の・ようなもの」以来、森田作品のプロデュースを手掛けてきた公私にわたるパートナー、三沢和子氏が参加し、舞台挨拶をおこなうと同時に観客からの質問に答えた。

およそ8割以上埋まった観客席からは、題名の意図やキャスティングについて、さらにやや曖昧な形で終わるラストの解釈についての質問が出た。三沢氏は、「ラストに関してはこれまで40年間何度も質問され続けてきましたが、あえて答えは出さないというのが森田の意図でした。主人公の家族だけの話で終わらせるのではなく、世界にもこういう家族はいるだろうという、普遍的な印象にしたいという思いもあったと思います。またいろいろなことが起こってもやはり家のなかは平和であるという見方もできます。本当にさまざまな解釈ができるので、それは観た方それぞれに委ねたいというのが本人の希望でした」と語った。

果たして、これを機にどれだけフランスの映画ファンの心を掴むことができるのか。まずは快調なスタートを切った印象だ。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

Twitter:@KurikoSato

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