コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第233回
2013年8月5日更新
第233回:飽和状態に陥るハリウッド映画 今後の展開に望むこと
アメリカの夏の映画シーズンもそろそろ最終コーナーを回ったところだ。全米興行ではいまのところ4億ドルを突破した「アイアンマン3」が頭ひとつ抜けていて、そのあとを「怪盗グルーのミニオン危機一発」「マン・オブ・スティール」「モンスターズ・ユニバーシティ」「ワイルド・スピード EURO MISSION」が追う展開となっている。ヒットする映画があれば、期待外れの結果となった作品もあるわけだが、この夏は大損をした大作映画が驚くほど多かった。毎年1作ぐらいは興行で大きく失敗する大作が出てくるものだが、2013年は、どの作品とは言わないが、5、6作品がコケてしまっているのだ。
映画が当たらないのは内容が伴わないからだと思うかも知れないけれど、ヒットしている作品と比較して、これらの作品がとくに劣っているわけでもない。むしろ問題は、今夏の公開スケジュールにあると思う。たとえば、超大作の「マン・オブ・スティール」が6月14日に全米公開された1週間後に、「ワールド・ウォー Z」と「モンスターズ・ユニバーシティ」が同日公開となり、6月28日には「ホワイトハウス・ダウン」、7月3日には「怪盗グルーのミニオン危機一発」と「ローン・レンジャー」が同時公開されている。これでは続編以外の作品は知名度の点で不利だし、派手なオープニング成績を残さなければ、翌週には別の新作に飲み込まれてしまう。かくして製作費に1億5000万ドル以上をつぎ込んだ超大作が相次いで潰れてしまっているのだ。
世界金融危機をきっかけに、ハリウッドは製作本数を減らす一方で、巨額の予算を投じたテントポール映画に依存してきた。しかし、短期間にあまりにも多くの大作が投入されたため、マーケットが飽和してしまったのだ。
ここから得られる教訓といえば、公開時期の見直しと、製作費の削減だろうけれど、ひとりの映画ファンとして、ひとつだけ変えないで欲しいことがある。それは、超大作のオリジナル映画をつくり続けることだ。この夏、全米興行で失敗した作品のほとんどが非フランチャイズ映画だったから、今後、スタジオがシリーズもの以外の大作にブレーキをかけるのは目に見えている。しかし、今夏公開された「ワールド・ウォー Z」は、初の映画化作品にもかかわらず、批評・興行ともにアメリカで大成功を収めている。同作が娯楽性と社会性を見事に兼ね備えているためで、超大作であってもいい映画となりえることを証明しているのだ。まだ見ていないけれど、間もなく全米公開となるSF映画「エリジウム」にも、傑作の予感がある。チャレンジ精神に満ちた作品であれば、映画の規模にかかわらず、いつでも大歓迎だ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi