コラム:編集長コラム 映画は当たってナンボ - 第32回
2009年1月26日更新
第32回:アカデミー賞のノミネートが発表。オバマ政権誕生の影響は?
第81回アカデミー賞のノミネートが発表された。作品賞にノミネートされたのは、次の5本(作品名に続いて、日本での公開時期と配給元)。
「ベンジャミン・バトン/数奇な人生」・・・2月7日(ワーナー・ブラザース)
「フロスト×ニクソン」・・・3月(東宝東和)
「ミルク」・・・GW(ピックス)
「愛を読むひと」・・・初夏(ショウゲート)
「スラムドッグ$ミリオネア」・・・4月(ギャガ)
昨年12月のナショナル・ボード・オブ・レビューから1月11日のゴールデングローブ賞までの結果からすれば、実に順当で、なおかつバラエティに富んだ5作品が残ったと言える。ちなみに、昨年の作品賞候補は以下の5本だった。
「つぐない」
「JUNO/ジュノ」
「フィクサー」
「ノーカントリー」
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」
今思えば、恐ろしく地味だ。それに引き替え、今年のノミネートは豪華に見える。まず、「ベンジャミン・バトン」のようにブラッド・ピットとケイト・ブランシェットというビッグスターが競演するファンタジーがある。「フロスト×ニクソン」のように、舞台の映画化にして、実在した大統領にまつわる政治ものがある。「ミルク」もまた、ハーベイ・ミルクというゲイの活動家で政治家の話だ。また、「スラムドッグ$ミリオネア」のように、インドを舞台に英国人監督(ダニー・ボイル)が撮った小品ながら、トロント映画祭から火がついて今年の賞レースの台風の目になった勢いのある作品もある。「愛を読むひと」は、ドイツのベストセラーを「リトル・ダンサー」のスティーブン・ダルドリー監督が映画化した文芸作品だ。
昨年初頭の、全米脚本家組合のストライキの影響を受けながら、粒そろいの5作品が残ったと思う。
100年に一度という不況の中、初の黒人大統領の誕生に沸くアメリカで行われる映画の祭典は、どんなシナリオが用意されているのだろうか? 一連の大統領選から就任式までの祝祭的な流れで行けば、アカデミー賞も派手なものになろう。作品賞は、スターも出ている「ベンジャミン・バトン」が相応しいかも知れない。だが、初の黒人大統領が誕生したことから考えると、エスニックな「スラムドッグ$ミリオネア」でも面白い。もしもこうした低予算のインディペンデント作品がオスカーを取るようなら、ハリウッドの超大作主義に冷水を浴びせることにもなる。
注目の授賞式は、日本時間で2月23日の午前中に始まる。(eiga.com編集長・駒井尚文)
筆者紹介
駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi