コラム:細野真宏の試写室日記 - 第82回
2020年7月14日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
第82回 試写室日記 「今日から俺は!!劇場版」。いよいよ夏休み映画の勝負作第1弾の登場。緊急事態宣言後初の新作10億円突破なるか?
2020年7月8日@東宝試写室
6月の最終週から「一生に一度は、映画館でジブリを」というキャッチコピーの下、「千と千尋の神隠し」「もののけ姫」「風の谷のナウシカ」が、リバイバル上映で3週にわたって1位から3位を独占する状況が続き、改めて宮崎駿監督作品の名作の力を示す結果になっています。
これは喜ばしいことである一方で、映画業界が活気づくのは「新作映画」がヒットすることなので、ようやく夏休み映画シーズンのここからが本番と言えると思います。
まず、今週末公開の「今日から俺は!!劇場版」は、当初の公開日から動かさずに済んでいる奇跡的な作品でもある、というのが注目点でしょう。
まさに狙っていたタイミングでの公開ができるのです。
そして、この週から、やっと大型の新作映画が公開されていくため、大事な試金石的な作品でもあるのです!
ただ、「今日から俺は!!」という作品自体を知らない、という人もいると思いますが、実は私もその一人でした。
もちろん、2018年の10月期に日本テレビの「日曜ドラマ」でドラマ化していたのは知っていましたが、連続ドラマまではなかなか見る時間がなく、結局、先行試写までほぼ情報を知らないままでした。
そもそも「今日から俺は!!」というタイトル自体が意味不明ですよね…(笑)。
しかも、連続ドラマの映画化のため、当然ドラマの内容は(ある程度)前提となるはずなので、とっさの判断で「GYAO!」で配信中の連ドラ第1話を外で直前に見てから先行試写を鑑賞しました。
この判断は正しかったようで、登場人物などを把握しておかないと面白さが半減する可能性がありました。
そのため、まだ全く見たことがない、という人は、8月末までは「GYAO!」や「TVer」で無料配信されている第1話だけでも見ておくことをおススメします。
まず、タイトルの「今日から俺は!!」というのは、高校2年生の主人公が転校を機に髪を金髪に染めたりして、「今日から俺はツッパる!」という意味でした。
時代設定は1980年代で、リーゼントなどの髪型が流行っていたツッパリ全盛期。もう「ツッパリ」という言葉も死語で、今でいう「ヤンキー」ですかね。
原作は1988年からの「少年サンデー増刊号」で始まり、1990年から「週刊少年サンデー」に格上げされ、1997年まで連載されていた作品です。
当時はこの手のマンガがブームだったようで、同じく1988年から1997年まで「週刊少年ジャンプ」で連載されていた「ろくでなしブルース」も同期間でした。
この2作品の大きな違いは、前者がギャグテイスト、後者がシリアステイストであって、今回、ギャグテイストの分野ではトップランナーを走る福田雄一監督によって「今日から俺は!!」が再び脚光を浴びている状況です。
ただ、連ドラの際は「福田雄一監督作品」という期待がありながらも、今の時代に「1980年代のツッパリ」という唐突さから、視聴率は、やや苦戦をしていました。
第1話は9.8%と「10%割れ」をし、第2話8.3%、第3話8.9%、第4話9.1%、第5話9.8%、第6話9.4%と、数字だけを見ると少し冴えない状況でした。(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)
その一方で、放送する度に(世の中の反応に追随する)ネット記事は増えていき、「視聴熱」はどんどん高まっている様子でした。
そして、第7話で初めて10.6%と「10%超え」を果たし、第8話9.4%、第9話10.8%となり、最終回の第10話では12.6%という自己最高の数字を叩き出し、着実にファンを広げていき成功した連ドラと言えそうです。(全話の平均視聴率9.9%)
そして、盛り上がる度に噂されていた「映画化」が、その後に実際に発表され、いよいよ今週末公開となります!
さらに、連ドラの映画化としては常套手段であるスピンオフ作品も作られ、それが公開日の7月17日に金曜ロードSHOW!で「今日から俺は!!スペシャル」として放送されるので、かなりの援護射撃になりそうです。
それにしても福田雄一監督は本当に運が良いと思います。
「今日から俺は!!劇場版」と「今日から俺は!!スペシャル」は、同時に撮影され、2019年12月1日にクランクインしたそうです。
そして、映画版は2020年1月21日、スペシャル版は1月25日にクランクアップと、見事に新型コロナウイルス騒動をかわしています。
その直後の2020年2月7日(金)には「ヲタクに恋は難しい」が公開されています。
世の中の雰囲気的に、「ヲタクに恋は難しい」の公開時は、ちょっと雲行きが怪しそうだな、とは思いつつ、期待通り「斉木楠雄のΨ難」や「50回目のファーストキス」を抜き去り、「銀魂」シリーズに続き興行収入13億円を突破しました。
このように、運とファン層の広がりから着実に結果を出している福田雄一監督ですが、映画業界的には、本作を皮切りに復活をアピールするという位置付けなので、まずは新型コロナウイルス騒動後の初の興行収入10億円突破作品になってもらいたいところです。
主人公の三橋を演じるのは、賀来賢人です。私が彼の弾けっぷりを最初に目撃したのは「ヲタクに恋は難しい」の時でしたが、すでにドラマ版の「今日から俺は!!」で覚醒していたのですね。
ドラマ版も時間の許す範囲で見てみましたが、確かに連ドラとしてのクオリティーも高かったです。
「今日から俺は!!」の肝になるのは、ギャグの切れ味と(ケンカや乱闘での)アクションシーンですが、前者では福田作品の常連の橋本環奈や仲野太賀らは言うまでもなく、伊藤役の伊藤健太郎が意外とハマっていたのは新鮮でした。
また、後者のアクションシーンでは、「スケバン」の存在も重要になるため、女優のアクションも重要になります。
これは理子役の清野菜名のキャスティングが圧倒的に良かったですね。清野菜名というと、最近は生田斗真との結婚がすぐに思い浮かびますが、初めて見た2014年の「TOKYO TRIBE」でのヒロインの演技は、日本にもいた「本格的なアクションをこなせる女優」でしたから。
「今日から俺は!!」ではアクションと役柄が絶妙にフィットしていて、ようやく清野菜名が本領を発揮できる場が見られました。
本作「今日から俺は!!劇場版」の見どころは、何と言っても映画としての規模を活かしたアクションシーンと、隙あらばつぎ込むギャグシーンでしょう。
連ドラの時よりもアクションシーンが多めだと思います。
個人的には、「ヲタクに恋は難しい」の時は、もう少しミュージカルシーンを削ってでもギャグシーンを、と思いましたが、ここら辺のバランスは人それぞれなので難しいところですね。
ストーリーとしては、基本ドラマの続きですが、第1話で登場人物の位置関係を把握しておけば十分に理解できると思います。
さて、本作の大きな特徴に、コア層に小学生も多い、ということがあります。
これは、まさに「今日から俺は!!」の内容が小学生ウケする要素で一杯のため巻き起こった現象で、そもそも福田雄一監督作品はそういう面があるので、これからはさらにファン層が厚くなりそうな予感がします。
本作は本来であれば「ファミリー映画」としても機能するはずで、8月7日に公開予定のファミリー映画の代表格である「ドラえもん」の最新作「のび太の新恐竜」には、どのくらいのファミリー層が映画館に戻ってくれるのかを知る上でも重要な意味を持っているのです。
この3週間は、宮崎駿監督作品のおかげで徐々にファミリー層も戻りつつありますが、この流れを途切れさせることなく、どれだけ広げていけるのかが大切なのです。
果たして、この流れを加速させることができるかどうか、ジブリ作品のリバイバル上映の成功を導いた「東宝×日本テレビ」というコンビに大いに期待したいと思います。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono