コラム:細野真宏の試写室日記 - 第67回
2020年4月24日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
第67回 試写室日記 【新型コロナ番外編】2019年作品でリアルに儲かった、あのメガヒット映画のお金事情 :第1回
日本の映画では、「個別の作品の利益など、具体的な数字は出さない」という風土が続いています。
その一方で、世界で展開をするハリウッド映画では、制作費などを詳細に公表するのが一般化しています。
昨年2019年作品は、大まかに世界で公開され、まさに今、配信などが行なわれているわけですが、話題作は最終的にどのくらいの利益が出たのでしょうか?
ハリウッドのDeadlineにて、それらのデータが出たので、それを基に今後の動向も合わせて紹介していきます!
そもそも「映画の儲けとは何なのか?」を簡単に解説すると、まず、大きなものに劇場公開で得られる「興行収入」があります。
そして、その後にネットで配信したり、DVD化などをしたり、テレビでの放送権も売ることで「2次使用料」が得られます。
その一方で、映画には制作費がありますし、宣伝やプリント代の「P&A費」もかかりますし、特にハリウッド映画の場合は、ヒットしたらボーナス的に監督や大物キャストに追加で支払われるギャラなどもあったりするので、それらの「プラス」と「マイナス」の結果が、最終的な映画会社の「儲け」となるわけです。
【なお、金額の規模感を分かりやすく示すため、キリの良い「1ドル=100円」として換算します】
●第25位
「ベスト25位」にランクインした作品は、(ジェニファー・ロペスがゴールデングローブ賞と同様に助演女優賞にノミネートされるのでは、と)アカデミー賞でも話題になり、日本でもスマッシュヒットした「ハスラーズ」となっています。
この作品は、STXエンターテインメントというハリウッドの独立系の映画会社の製作であったため、制作費はハリウッドメジャーのように巨額な金額はかけられません。さらには、プロデューサーも務めたジェニファー・ロペスが忙しく、彼女のコンサートツアーのリハーサル前に撮影を一気にやる、という方法がとられました。
結果として、29日間で2000万ドル(20億円規模)の制作費となっています。
撮影期間は、「邦画の平均」ですら1か月半が目途なので、これは相当にコンパクトに撮ったことが分かります。
さらには、制作費が20億円規模というのはハリウッド映画としては格段に安く、これは、ジェニファー・ロペスが通常の高額での出演料をもらわずに「ヒットしたら、その配分を受け取る」といった形の契約にしていたことなども関係しています。
そして、宣伝費などのP&Aに3800万ドル(38億円規模)をかけています。
映画は、アカデミー賞でも話題になるくらいのクオリティーだったので、世界で興行収入は1億5750万ドル(157.5億円規模)を記録したのです!(基本的には、興行収入の半分は、映画館の取り分になります)
その後に配信やDVDなどでの利益も加わり、最終的に残った映画会社の利益は4700万ドル(47億円規模)という大成功な結果になっています。
ちなみに「ハスラーズ」は、日本では5月1日に先行デジタル配信され、DVD発売は7月3日を予定しているので、新型コロナウイルスの影響がいつまで続くのかまだ未知数ですが、注目しておきたい作品ですね。
●第24位
「ベスト24位」にランクインした作品は、こちらもアカデミー賞で「作品賞ノミネート」などで話題になった「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」です。
この作品は、ソニー配給作品ですが、出演者がシアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメ、エマ・ワトソン、ローラ・ダーン、メリル・ストリープなど豪華キャスト共演でも話題となりました。
ただ、制作費は4000万ドル(40億円規模)となっていて、豪華キャストを揃えたハリウッド映画としては意外と安く済んでいます。
そして、世界中で配給する際にP&A(作品のプリントと宣伝費)で7000万ドル(70億円規模)をかけています。
その結果、世界興行収入は、2億0600万ドル(206億円規模)を記録しています。
これらの大きな要素を含め、最終的に残った利益は、現時点で5600万ドル(56億円規模)となっています!
なお、本作は新型コロナウイルスの影響で日本での劇場公開は今週、初夏から再延期しましたが、この先に公開するので、まだ利益は出せますし、さらにはアカデミー賞も受賞したので、この先もDVDやテレビや配信などで儲けは増え続けることになるわけです。
日本では、新型コロナウイルスの影響でまだ見ることはできませんが、映画ファンには「新型コロナ後の楽しみ」になりますね。
●第23位
「ベスト23位」にランクインした作品は、「死霊館」シリーズのスピンオフの「アナベル」シリーズの第3弾「アナベル 死霊博物館」です。
この作品は、ワーナー配給作品ですが、そもそも「ホラー映画」は“アイデア勝負”なので、制作費は安い傾向にあるのです。
例えば、最初の2013年の「死霊館」は世界で大ヒットし、制作費はわずか2000万ドル(20億円規模)で世界興行収入は3億1949万ドル(320億円規模)を記録し、最終的には1億6170万ドル(161億円規模)もの利益を出しています!
ただ、シリーズ作の常なのか、本シリーズも次第に陰りが見えてきていて、制作費は2700万ドル(27億円規模)で、世界興行収入は2億3120万ドル(231億円規模)と下がり、最終的な利益は6400万ドル(64億円規模)となっています。
とは言え、このように人気に陰りが見えても、まだまだ低コストで大きな儲けを出しているので、しばらくはスピンオフも含めて「死霊館」シリーズは続きそうです。
なお、本作「アナベル 死霊博物館」は「ホラー版の“ナイト ミュージアム”」と評されています。
過去作と比べると、やや弱いのかもしれませんが、実際に見てみても決して駄作ではないですし、まだまだポテンシャルはあると思いました。
この一連のシリーズは“怖すぎるホラー映画”というわけでもないので、(すでに配信等がされている)とても出来の良い最初の「死霊館」が特におススメの作品です。
●第22位
「ベスト22位」にランクインした作品は、「シックス・センス」の成功によって、かつてはヒットメーカーと目され大作映画を多く任されるものの、あまり期待に応えることができていなかったM・ナイト・シャマラン監督作です。近年は、“原点回帰”でアイデア勝負の低コスト作品を手掛けるようになり、結果を出してきています。その最新作が本作「ミスター・ガラス」です。
本作は“シャマラン監督では珍しいシリーズ作”です。実は、2000年公開の「アンブレイカブル」の公開時に続編を作ろうと画策していましたが、興行収入が期待外れとなり頓挫していました。
その後、2017年に「スプリット」という多重人格者を描いたジェームズ・マカヴォイ主演作を作り、これがなかなか出来が良く世界的に大ヒットし、最後に「アンブレイカブル」主演のブルース・ウィリスをちょこっと出すことによって、“実は両作品は同じ世界観にある”と、さりげなく17年前の構想を出すことで、“3部作”まで漕ぎ着けられたのが本作「ミスター・ガラス」なのです。
制作費は2000万ドル(20億円規模)で、世界興行収入は2億4700万ドル(247億円規模)を記録しています。
そして、最終的な利益は6800万ドル(68億円規模)となっています!
ただ、映画会社がそれほど喜べなかったのは、前作の「スプリット」の制作費が900万ドル(9億円規模)と圧倒的に少なかったのに、世界興行収入は「ミスター・ガラス」を上回っていたからです。
確かに制作費を倍以上にしたのなら、興行収入もそれくらいに増えることを期待してしまうのも理解できますね。それなのに前作を下回ると厳しいものがあります。
本作は、前作の「スプリット」の出来が良かったですし、“3部作”ということで往年のファンも期待していたようで、やや落胆の声が大きかったように思います。
いずれにしても、シャマラン監督が低コスト作品で息を吹き返してきたというのは映画業界には明るい動きです。
●第21位
「ベスト21位」になって、ようやく予算規模の大きな「アメコミ映画」が登場します。DCコミックのワーナー配給「シャザム!」です。
制作費は1億ドル(100億円規模)で、世界興行収入は3億6600万ドル(366億円規模)を稼ぎ出しています!
そして、最終的に映画会社は7400万ドル(74億円規模)の利益を稼ぐことができています。
これだけの利益をあげたら「シャザム!2(仮)」を作るのは当然で、すでに公開日も決まっています。
ところが、まさに今週に「新型コロナウイルスの影響で撮影が遅れ、当初の公開日2022年4月1日は2022年11月4日に公開延期となった」と報じられました。
「シャザム!」の大きな特徴として、“見た目は大人、でも本当の中身は子供のスーパーヒーロー”という斬新な設定があり、なかなかポテンシャルのある作品だとは思いましたが、日本ではまだまだ浸透しきれていないようです。
ちなみに、吹替版は福田雄一監督が監修をして菅田将暉が主役の声優をやったりしていたので、意外と女性にも受けるのかもしれません。
まだ日本では、アメコミ映画が苦手な女性が多いようですが、この「シャザム!」という作品は、ちょっと系統が違うのです。
ひょっとしたら新型コロナウイルス後の世界で流行る可能性もあるので、今のうちに見て知っておくのもいいのかもしれませんね。
第21位以外の、第22位から第25位までは意外にも低予算映画が並びましたが、やはり出来の良い作品を作ることができれば高い収益性をあげることができるのですね。
次回は、第16位から第20位までを紹介します。
≫第2回(第16位~第20位)はこちら
≫第3回(第11位~第15位)はこちら
≫第4回(第6位~第10位)はこちら
≫第5回(第5位)はこちら
≫第6回(第4位)はこちら
≫第7回(第3位)はこちら
≫第8回(第2位)はこちら
≫第9回(第1位)はこちら
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細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono