コラム:細野真宏の試写室日記 - 第34回

2019年8月6日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第34回 「ライオン・キング」。“ディズニー女子”が日本の映画業界を再び動かす?

2019年7月16日(字幕版)、26日(吹替版)@ディズニー試写室

今年のディズニーのラインナップを見たときに「公開本数は少ないけれど、今年はディズニーの年になるのかも」という予感がし、2月12日の第18回では、あえて、「各社のラインナップ(特にディズニー?)を考えると、うまくいけば2019年は『過去最高である2016年の2355億円』を超える年になるのかも」と触れておきました。出だしの「メリー・ポピンズ リターンズ」「ダンボ」などはあまりパッとしていませんでしたが、やはり今年のディズニーは強く、世界興行収入では「ディズニーの歴代年間1位」を、何と7月の段階で既に達成してしまいました!

当然、日本でも絶好調で「アラジン」は、「令和初の興行収入100億円を突破した作品」となりました。私は「アラジン」は試写の段階では、別の仕事の関係などでタイミングが合わず「吹替版」しか見られなかったので書きませんでしたが、初速などを見て、「やっと“ディズニー女子”が動き出したか」という印象でした。

「アラジン」
「アラジン」

この“ディズニー女子”というのは、私の中では重要なキーワードで、「この層が日本の映画業界では大きな存在力があるのだな」と特に強く実感するようになったのは2017年の「美女と野獣」の現象を見てからです。

2017年のディズニー版の「美女と野獣」を見たときに、私は正直「すごく面白い」とまでは感じられませんでした。それは多分その2年半前に、GAGA配給のフランス版の「美女と野獣」を見ていたためでしょうか。

美女と野獣」の原作は、フランスのボーモン夫人が書いた童話ですし、ディズニー版を見たときにストーリー展開もほぼ同じだったので、特に大きなインパクトを感じられなかったのです。もちろん「ハリー・ポッター」シリーズのエマ・ワトソンは良かったですが。

ただ、この2つの「美女と野獣」は、日本で大きすぎる差が生まれました。

まず、データを確認しておくと、GAGA配給の「美女と野獣」は全国154スクリーンでの公開ながら興行収入が11億円を記録しました。これは、私の想定より上で、やっぱり「美女と野獣」という作品はネームバリューがあるのだな、と思いました。

そして、その2年半後にディズニー配給の「美女と野獣」が公開されると、興行収入は一気に100億円を突破し、最終的には124億円を記録したのです!

「美女と野獣」
「美女と野獣」

映画業界では「レディースデイ」がある(残っている?)ように、データ的にも女性が経済効果を生んでくれる存在になっていますが、「ディズニー」というブランドにもコアな女性ファン層が多くいて、この“ディズニー女子”が動くと、日本の映画業界で大きな流れができる、という仮説を私は持っています。

ちなみに、私の“ディズニー女子”のイメージは、ディズニーランド・ディズニーシーが大好きで、ディズニー関連であれば消費に旺盛な人たちです。

東京ディズニーリゾートが毎年のように過去最高の入場者数を記録し続けているように、“ディズニー女子”(もちろん“ディズニー男子”も!)はまだまだ増え続ける気がしています。

今から15年くらい前の株価が1500円くらいの頃からオリエンタルランドの株主でありながら、優待券が送られてくるにも関わらず時間がないという理由で一度も行ったことのない私には、それほど接点のない人たちなのかもしれませんが…(笑)。

さて「アラジン」に続き、また“ディズニー女子”が動きだしそうな気配がします。

それは、今週の金曜日(8月9日)から公開される「ライオン・キング」というディズニーの大作映画です。

「ライオン・キング」
「ライオン・キング」

まず、監督はジョン・ファヴローですが、「アイアンマン」の監督と紹介すべきか、「アイアンマン」の主人公トニー・スタークの運転手で「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」などでお馴染みのキャラクター「ハッピー・ホーガン」の人と言ったほうが分かりやすいのか、もはや監督だけではなく俳優としても有名ですね。

そのジョン・ファヴロー監督が、2016年に公開された「ジャングル・ブック」での驚くべきCG技術を進化させ、アニメーションや実写も超える“超実写化”によって「ライオン・キング」という名作を現代の最高の技術で蘇らせました!

今回の「ライオン・キング」は、1994年にディズニーがオリジナル・ストーリーとして作った2Dアニメーション映画「ライオン・キング」のリメイク作品に当たりますが、この名作は1997年にブロードウェイ・ミュージカル化され、日本でも劇団四季など、いまだに世界各国でロングラン上演を続けています。

その背景には、アカデミー賞の最優秀主題歌賞にも輝いた「愛を感じて」のほか、冒頭に流れる「サークル・オブ・ライフ」や、中盤に流れる「ハクナ・マタタ」もアカデミー賞にノミネートされるなど、「名作ミュージカル映画の代表的な作品」でもあったからなのです。

ちなみに、アカデミー賞では、最優秀オリジナル作曲賞も受賞しています。

私は、まず「字幕版」から見ました。確かにビヨンセの歌も良かったですが、おそらく日本では、「ライオン・キング」は「吹替版」の需要が高そうな気がします。

「吹替版」は、歌ではオリジナルの英語の箇所を残したりしながら上手くミックスされていてバランスが良かったと思います。

また、オリジナル版での大事なキャラクターであるプンバァというキャラクターの魅力を最大限に引き出せるのは、日本だと佐藤二朗のほかは考えようがない、と思うくらいにナイスキャスティングをしていました。

画像2

日本では、洋画のパワーがだんだんと落ちてきていますが、「美女と野獣」も「アラジン」も、全米以外では日本が世界1位の興行収入を記録しているのです!

“ディズニー女子”は、知名度の高いミュージカル映画との相性が非常に良いので、「美女と野獣」そして「アラジン」に続き、「ライオン・キング」は興行収入100億円を十分に狙えると思います。これだけの強者が集う中、果たしてどうなるのか、“ディズニー女子”の動きに注目です。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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