コラム:細野真宏の試写室日記 - 第22回
2019年3月14日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第22回 「キャプテン・マーベル」。映画史を変えたシリーズ作品でありながら「一見さんお断り」でない斬新な作品!
2019年3月5日@(字幕版)六本木ヒルズ、3月7日(吹替版)@ディズニー試写室
やはり今年の映画業界は好調のようで、出来の良い作品がキチンと評価され、興行収入にも反映されているようです。
3月1日(金)に映画.comの駒井編集長と営業のKさんらと会食をし、数時間多岐にわたる話をした際に、最後にKさんから不意に「最近見た試写で良かったものはなんですか?」という簡単そうに見え、実はかなりいろんなセンス等を要求されている問いが飛び出し、珍しく一瞬言葉を失いましたが、意外と早く「『翔んで埼玉』ですかねぇ」と答えている自分がいました。
ただ、その場のメンバーの反応は明らか過ぎたので、「いや、あれは本当によく出来ていて『カメラを止めるな!』とどっちが良く出来ているのかと言えば、『翔んで埼玉』だと思いますよ」と力説してしまいました。
ハリウッド大作、アカデミー賞話題作などが次から次へと公開される中、「翔んで埼玉」は「ボヘミアン・ラプソディ」のように「落ちない興行」を続けていて、早くも興行収入が15億円を突破しました。時期的に不利だったはずなのですが、作品力でこのまま行ってくれると「春休み興行」まで生き残り、当初のライバルだと思っていたGW公開作の「帝一の國」の19.3億円を余裕で超えてくれそうです。次なる希望は「カメラを止めるな!」の31.2億円超えですが、もはや「サイタマラリア」の“感染力”を信じるしかなさそうです。
さて、まさに「春休み興行」に向け、毎週のように強敵が現れる中、今週の15日から公開される「キャプテン・マーベル」もその本命でしょう。
本作は、世界興行収入で「歴代トップ10ランキング」のうち、すでに4本を占めている「アベンジャーズ」シリーズの1作です。
「アベンジャーズ」シリーズと言えば、来月の4月26日に日米同時公開される「アベンジャーズ エンドゲーム」も控えています。
来月末の「アベンジャーズ エンドゲーム」については、「アメリカの週末オープニング興収が、2億5000万~2億9000万ドル規模になるだろう」と予測されています。(ちなみに前作「アベンジャーズ インフィニティ・ウォー」の週末オープニング興収は史上最高の約2億5800万ドルを記録!)
これはどのくらいの規模感なのかというと、今も世界中でメガヒットを記録し続けている「ボヘミアン・ラプソディ」のアメリカでの「トータル興行収入は約2億1500万ドル」なので、来月末公開の「アベンジャーズ エンドゲーム」はこれを“公開からわずか3日間で一気に抜き去る”ということを意味していて、もはや「異次元級の作品」だとわかるでしょう。
つまり、もうすぐ世界興行収入の「歴代トップ10ランキング」のうち半分を「アベンジャーズ」シリーズが占めることも現実になりそうな、文字通り「映画史を変えたシリーズ」なわけです。
ただ、この映画史を変えたコンテンツに唯一の弱点があるとしたら、「シリーズもの」であるために登場人物が増えてしまい、「一見さん」が入りにくくなっていることでしょう。
また「ヒーローもの」は圧倒的に男性に支持される傾向があって、「女性層」に浸透しきれない面もあります。
そこで、一連の映画史を変えてきた歴史に一区切りをつける「アベンジャーズ エンドゲーム」という”最大のイベント”の前に、ディズニーが満を持して公開するのが本作「キャプテン・マーベル」なのです!
この作品の見事なところは、「アベンジャーズ」の知識が一切要らない、文字通り「一見さん大歓迎」な作品として作られていることです。
まず、「アベンジャーズのそもそもの原点」である1990年台半ばを舞台に描いています。
それでいて、過去作を見てきた人にも納得できる作品で、「アベンジャーズ」のキーパーソンであるサミュエル・L・ジャクソンが扮する「ニック・フューリー」の20年以上前の若い頃を、サミュエル・L・ジャクソン本人が演じています。
「ニック・フューリー」は最初に登場した「アイアンマン」からずっとアイパッチを付けていましたが、その意味もわかり、さらには「一見さん」でも最後は「アベンジャーズ エンドゲーム」という世界に自然と入り込めるような仕掛けをしているのです。
さらに、そもそも「アベンジャーズ」という存在の原点には「キャプテン・マーベル」と呼ばれるようになった「女性」がいて、すべての始まりを知る意味でも非常に重要な作品になっています!
現時点では「アベンジャーズ エンドゲーム」を見ていないため何とも言えないのですが、この「キャプテン・マーベル」が「最強」のようなので、徐々に覚醒を始めた彼女が、「アベンジャーズ エンドゲーム」ではどこまでの存在になっているのか非常に興味深いです。
「キャプテン・マーベル」を演じるのは、「ルーム」でアカデミー賞の主演女優賞を受賞したブリー・ラーソンなので「女性層」も自然に入り込みやすいと思いますし、何より本作は「アクション映画」だけではなく、予備知識ゼロでも大丈夫であることを前提に制作され“記憶”をテーマにした謎解き的な「サスペンス映画」にもなっているため、この作品は単独でも楽しめるようになっているのです。
もしこの作品で日本でも多くの「女性層」を獲得できると、「アベンジャーズ エンドゲーム」という世界的な「壮大なイベント」が最高潮に盛り上がるので、その意味でも日本における「キャプテン・マーベル」には期待したいです。
とは言え、これまで馴染みのない単体のキャラクターの作品は日本では苦戦をしていたのも事実なので、どこまでの興行収入が見込めるのかは未知数ではありますが、ベネディクト・カンバーバッチ主演の「ドクター・ストレンジ」が18.7億円を記録できたので、「キャプテン・マーベル」には興行収入20億円規模を目指してほしいところです。
なお、これまで作品を見続けていた人は字幕版で問題ないと思いますが、吹替版の出来もなかなか良かったので、特に、この作品から見る人は「吹替版」のほうが入り込みやすいかと思います。
ちなみに、当時アメリカにあったビデオレンタルチェーン店“ブロックバスター”が出てきますが、そのビデオレンタル店にはアメリカで1994年に公開された「トゥルーライズ」の(イチオシ商品的な)パネルがあるので、ジェームズ・キャメロン監督関連で推測すると、「タイタニック」は1997年公開のため、おそらく設定の舞台は1995年か1996年あたりかと思われます。
わずか20年くらい前の世界のはずですが、驚くほど「今」と異なり、それを本作では「ユーモア」に変えています。
日本のメディアは相変わらず「失われた何十年」とか壊れたレコードのように言い続けていますが、こうした比較でも、いかに私たちが便利で快適な世界にたどり着くことができているのかが実感できますね。
なお「トゥルーライズ」の日本公開時の宣伝では、製作費が1.2億ドルと当時は断トツの金額だったため、宣伝のコピーが「史上№1 常識破壊の製作費$120,000,000!」となっていたようです。
ちなみに「キャプテン・マーベル」の製作費は、約「$152,000,000!」となっています。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono