コラム:映画館では見られない傑作・配信中! - 第12回

2020年3月24日更新

映画館では見られない傑作・配信中!

マーク・ウォールバーグ、ピーター・バーグ監督作でNetflixに殴り込み!最強コンビ5度目のタッグはアクションコメディ快作

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3月6日にNetflixで配信開始された「スペンサー・コンフィデンシャル」は、近年息の合った仕事ぶりで快作を立続けに見せてくれているマーク・ウォールバーグとピーター・バーグ監督が、5度目のタッグを組んだ最新作。

ローン・サバイバー」(2013)で組んで以来、「バーニング・オーシャン」(16)、「パトリオット・デイ」(16)と、アメリカの試練ともいうべき実話を基にしたスリリングでエモーショナルなアクション・アドベンチャーの力作を3本連打して、興行的にも、批評的にも成功を収め、国民的スターとして、また愛国的な硬派映画作家として互いのステージをさらに高め、確立したこのふたり。将来的にハリウッドで新型コロナウィルス克服映画が製作されるとしたら、この主演&監督コンビはかなりの有力候補だろう。アジア某国を舞台に、ちょっと捻りを効かせ過ぎたノンストップ・スパイアクション「マイル22」(18)は、正直成功作とはいえなかったものの、7年間で5本、そのどれもが大作で、5本すべてでプロデューサーとしても共闘してきたこの名コンビが、ついに配信動画界に殴りこみをかけたのである。

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仕事に命をかける男たちをかなりハードに描いた前4作と比べ、この最新作では完全に肩の力を抜き、エンタテインメントに徹してチームワークはさらに快調で、ツボを心得た上出来のアクションコメディを仕上げて見せた。

舞台はボストン。ウォールバーグが演じるのは、上司への暴行で逮捕され5年間の刑務所暮らしを終えて出所してきたばかりの元警官スペンサー。正義感が強すぎる彼は、殺人事件の証拠を握りつぶし、家庭では妻に暴力をふるう上司ボイラン警部が許せなかったのだ。出所した彼は、総合格闘技ジムを経営する友人ヘンリー(アラン・アーキン)の家で間借りすることになる。だが、その小さな部屋は格闘家を目指す巨漢の黒人、ホーク(ウィンストン・デューク)と相部屋だった。

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スペンサーが出所した直後、ボイラン警部が惨殺され、さらに元同僚の警官グレアムも遺体で発見された。かつて相棒だった刑事ドリスコルは、当初スペンサーを疑うが、その後グレアムがボイランを殺害し、自殺したということで事件を処理しようとする。グレアムの死が他殺ではないかと睨んだスペンサーは、ヘンリーやホークも巻き込み独自に調査を開始する。やがて、ドッグレース場跡に建設予定の“ワンダーランド”というカジノの利権を巡る、アイリッシュ・マフィアと麻薬カルテル、悪徳政治家と汚職警官グループが手を組んだ巨大な陰謀が明らかになる。そして、その陰謀はかつてスペンサーが、上司を殴ったきっかけでもあったカジノ建設反対運動の女性活動家殺害事件にも関わっていた……。

「私立探偵スペンサー」としてテレビシリーズにもなったローバート・B・パーカーの原作スペンサー・シリーズを、パーカーの死後、引き継いで書き続けているエース・アトキンスの“Robert B. Parker’s WONDERLAND”の映画化で、「アダム 神の使い 悪魔の子」(04)を製作したショーン・オキーフと「L.A.コンフィデンシャル」(97)、「ボーン・スプレマシー」(04)などの大御所ブライアン・ヘルゲランドが脚本を担当。物語の大筋以外はキャラクターも設定も、今回の映画のためにかなり脚色されており、ウォールバーグ演じる主人公スペンサーは私立探偵ではなく、正義感の強すぎる元警官になっている。

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バーグ監督は、「パトリオット・デイ」で知り尽くしたボストンの街を縦横無尽に活用し、空撮、ハンディ、監視カメラにスローモーションと得意のカメラワークを駆使した複眼的視点で小気味良く笑いとアクションを積み重ねていく。同時に、スペンサーのキャラクター作りと脇を固める登場人物たちとの人間関係を描く人情ドラマの部分もおろそかにせず、70~80年代のバディ・ムービーの味わいも出して楽しませる。

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ウォールバーグが猪突猛進型突撃ヒーローをパワフルに演じる一方、「ブラック・パンサー」「アス」のウィンストン・デュークが気は優しくて力持ちのルームメイトを思いのほかソフトに演じ、アラン・アーキンが百洗練磨の老練ぶりで厚みを出す。また、スペンサーのブチ切れたガールフレンドを、女性目線の鋭い笑いで人気のコメディアン、イライザ・シュレシンガーが演じて強烈な印象を残すのも注目のポイント。彼女の作品は、「イライザ・シュレシンガー: フリージング・ホット」(15)、「イライザ・シュレシンガーの一撃必殺」(16)、「イライザ・シュレシンガーの私は長老ミレニアル」(18)、「イライザ・シュレシンガーのベール反対!」(19)という4本のスタンダップ・コメディがNetflixで配信中なのでこちらも要チェックだ。さらに、マイケル・ガストンボキーム・ウッドバインなどの名バイプレーヤーたちが貫禄の芝居を見せるのも見逃せない。

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欲を言えばラスボス的悪役に大物がもうひとり欲しかったところだが、ここまで2時間しっかり楽しませてくれればまずは合格点、シリーズ化にも期待したいところだ。

ウォールバーグはバーグ監督とのアクション系作品の間に、「パパVS新しいパパ2」(17)、「インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました」(18)とショーン・アンダース監督のコメディにも連続出演。日本では劇場未公開DVDスルーとなってしまったが、どちらも本国では大ヒットを記録しており、かなり笑える快作だ。この2本は現在Amazon Prime Videoで見ることができる。特に「インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました」(配信中)は、アンダース監督自身が体験した実話を基に、ウォールバーグとローズ・バーンが里親になる決心をした夫婦を演じ、笑わせ、泣かせてくれる見逃せない1本だ。

「インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました」では3人の里子を迎える父親役を演じた
「インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました」では3人の里子を迎える父親役を演じた

2017年には、“世界で最も稼いだ俳優”ランキングで1位にもなり、アメリカ映画の顔として、まさにキャリアの絶頂を迎えているように見えるウォールバーグ。硬軟取り混ぜ、バラエティに富んだ役柄を毎回、真摯に力演、好感度の高い、いい仕事ぶりを続けている。

アメリカでは新しいストリーミング・サービスHBO Max用に、彼のビジネスへの取り組みを追ったドキュメンタリー・シリーズ「WAHL STREET」の制作がスタートしている。マーク・ウォールバーグ、配信界でも大暴れしそうな気配である。

筆者紹介

江戸木純のコラム

江戸木純(えどき・じゅん)。1962年東京生まれ。映画評論家、プロデューサー。執筆の傍ら「ムトゥ 踊るマハラジャ」「ロッタちゃん はじめてのおつかい」「処刑人」など既存の配給会社が扱わない知られざる映画を配給。「王様の漢方」「丹下左膳・百万両の壺」では製作、脚本を手掛けた。著書に「龍教聖典・世界ブルース・リー宣言」などがある。「週刊現代」「VOGUE JAPAN」に連載中。

Twitter:@EdokiJun/Website:http://www.eden-entertainment.jp/

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