コラム:シネマ映画.comコラム - 第3回
2021年10月18日更新
韓国版「ジョゼと虎と魚たち」を“日本最速プレミア上映”
本コラムの第3回目は、10月29日からの劇場公開に先駆けて、10月22日から24日までプレミアムスクリーンで“日本最速プレミア上映”(3日間、300人限定)する「ジョゼと虎と魚たち(2020・韓国版)」をピックアップします。
「ジョゼと虎と魚たち」は田辺聖子の同名短編小説を原作に、2003年に妻夫木聡と池脇千鶴の共演、犬童一心監督のメガホンで実写映画化(「ジョゼと虎と魚たち(2003)」)されています。足の不自由な女性ジョゼと平凡な大学生の青年の切ない恋模様の行方を描き、青春恋愛映画の金字塔として高い評価を得ている名作です。2020年にはアニメ映画化(「ジョゼと虎と魚たち(2020・アニメ版)」)もされました。
韓国版の主演は、映画「虐待の証明」「密偵」などの演技派女優ハン・ジミンと、ドラマ「スタートアップ:夢の扉」「保健教師アン・ウニョン」などで人気沸騰中の若手俳優ナム・ジュヒョク。このふたりが見事な化学反応をみせて、単なるリメイクではなく、美しくも儚い、新たな究極の純愛ラブストーリーとして生まれ変わりました。
韓国版の冒頭約10分、ジョゼと青年(ヨンソク)が出会うシーンは秀逸です。少し寂れた趣の住宅街の片隅、ジョゼのものと思われる低い視点から、庭の木や風の舞う路地の風景に小鳥や風の音が聞こえ、雑然とした家の中、本棚や台所の様子がやわらかな光と薄暗い影の中に映し出され、そこに美しい音楽とふたりのナレーションが被ります。この静かな導入は、韓国映画の名作「八月のクリスマス」を思い起こさせました。
そして、タイトルがあけると上からの高い俯瞰ショットに切り替わります。坂の上の交差点の角で車椅子から転げ落ちている女性に男性が気づき、助けに駆け寄る姿が見えます。女性を抱き起して近くにあった椅子に座らせると、カメラは再び低い視点になり、まだ少しあどけなさが残る青年の表情が映し出されます。しかし、フードを被った女性の顔はほんの少ししか見えません。車椅子が壊れていることがわかり、青年は近くでリヤカーを見つけ、それに乗せて女性を家まで送ることになるのです。
日常の中の偶然の出会い。それを劇的に映し出すのではなく、セリフは最小限に抑え、自然音の中で静かに、じっくりとふたりを捉えることによって、それが運命的な出会いであることを滲ませます。そして、青年が家に送り届けて帰ろうとすると、「ご飯食べていって」と彼女が言い、交わるはずのなかったふたりの運命が動き出すのです。
脚本も手掛けたキム・ジョングァン監督は日本のオリジナル版のファンですが、「自分自身の作品を作りたいと思ったんです」と韓国版「Forbes」(2020年12月)のインタビューで語っています。オリジナル版のエッセンスを巧みに取り入れながら、四季が織りなす美しい映像を背景に、官能的でみずみずしい美しさにあふれた物語に仕上げていて、映像で語ろうとするその静かな切なさが全編に貫かれています。
お互いの存在を認め、惹かれ合い、素直に必要とするジョゼと青年ヨンソク。心を閉ざしていたジョゼがヨンソクとの出会いによって次第に笑顔を見せていく美しさをジミンが、ジョゼとの出会いによって人として成長し、人を愛することの痛みを知るヨンソクをジュヒョクが、その心情を痛いほど切なく演じています。そしてふたりの決断は、憐憫や自己犠牲、障がい者と健常者の恋愛という枠を超え、人をいかに愛するのか、いかに生きるのかを見る者に問うてきます。
「シネマ映画.com」では日本のオリジナル版とアニメ版も配信しています。韓国版では日本版と異なるエンディングが用意されていますので、3本を見比べてみると、それぞれの作品の感動をより深く味わうことができるでしょう。「ジョゼと虎と魚たち(2020・韓国版)」はお得な前売りチケットを10月21日まで販売。今回の限定配信は当日チケットも含めて300名様限定です。(執筆者/和田隆)