コラム:シネマ映画.comコラム - 第13回
2022年7月28日更新
香港とタイの才能が融合した新アジア映画「プアン 友だちと呼ばせて」
第13回目となる本コラムでは、8月5日の劇場公開前に、7月29日から31日までの3日間、先着100名様限定で“公開直前プレミア上映(配信)”する「プアン 友だちと呼ばせて」をピックアップして、見どころや、あわせて見て欲しい作品を紹介します。
【作品概要】
「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」で注目を集めたタイのバズ・プーンピリヤ監督が、余命宣告を受けた男と親友の旅を描いた青春物語。「恋する惑星」などで知られる香港のウォン・カーウァイ監督がプロデュースを手がけ、タイで年間ランキング1位、アジア各国でタイ映画史上歴代興収第1位を記録。2021年サンダンス映画祭のワールドシネマドラマティック部門で審査員特別賞を受賞した。
2021年製作/128分/PG12/タイ
原題:One for the Road
【物語】
ニューヨークでバーを経営するタイ出身のボスは、バンコクで暮らす友人ウードから数年ぶりに電話を受ける。ウードは白血病で余命宣告を受けており、ボスに最後の願いを聞いて欲しいと話す。バンコクへ駆けつけたボスが頼まれたのは、ウードが元恋人たちを訪ねる旅の運転手だった。カーステレオから流れる思い出の曲が、かつて2人が親友だった頃の記憶をよみがえらせていく。そして旅が終わりに近づいた時、ウードはボスにある秘密を打ち明けるのだった…。
【主な見どころポイント】
・香港映画とタイ映画の新たなる融合
・ウォン・カーウァイが認めた稀有なる才能
・色鮮やかな映像と光る編集センス
・クライマックスからもう一つの物語が始まる展開
・プーンピリヤ監督の半自伝的な物語
タイ映画というと、皆さんはどんな映画を思い浮かべるでしょうか。世代によって異なると思いますが、例えば2000年以降に主に日本のミニシアター系で公開された作品では、「レイン」「アタック・ナンバーハーフ」「マッハ!」「心霊写真」「チョコレート・ファイター」、そして「ブンミおじさんの森」などがあげられます。スタイリッシュな恋愛ドラマから、アクション、ホラー、コメディ、そしてタイ映画として初めてカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した作家性の強い作品まで幅広く、ハリウッドや他の国でリメイクされるほど、レベルの高い作品を生み出しています。
そういった流れを経て登場した、プーンピリヤ監督の「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」は、タイ映画の新たな時代の幕開けを告げる作品となりました。本国タイで年間ランキング1位、アジア各国でタイ映画史上歴代興収1位を記録し、世界中からリメイク権を熱望されたのです。1981年生まれのプーンピリヤ監督は、テレビ広告業界で働いた後にニューヨークに渡って、グラフィックデザインを学び、2011年にタイに戻ってミュージックビデオの監督を務めます。そして2012年に初の長編映画であるホラー・スリラー「COUNTDOWN」(未)を監督。「バッド・ジーニアス」が長編2作目となります。
【「プアン」はタイ語で“友だち”という意味】
そんなプーンピリヤ監督の才能に惚れたのが、今や世界の一流監督となった香港出身のウォン・カーウァイ監督です。1998年に「いますぐ抱きしめたい」で監督デビューし、カンヌ国際映画祭が注目。続く「欲望の翼」でさらに高い評価を得ました。それまでカンフー映画やアクション、コメディが主流だった香港映画において、「欲望の翼」が新時代の到来を告げたと言っても過言ではなく、「恋する惑星」で香港映画のイメージを一変させ、世界各国でヒットを記録しました。カーウァイ監督のプロフィールを振り返ってみると、プーンピリヤ監督の登場の仕方や作品が、カーウァイ監督と重なって見えてきます。カーウァイ監督が自らプーンピリヤ監督に「一緒に映画を作ろう」とオファーしたと言われており、感覚的に共感するものがあったのではないでしょうか。
そんな2人がタッグは組んだ映画は、香港とタイのテイストが融合するとこうなるのか!という驚きとともに、新鮮です。恋する男女、思い出の曲、時間、かつての記憶、車、雨、ノスタルジーといった、カーウァイ作品に見られた記号的な設定やテーマが、「プアン 友だちと呼ばせて」にも数多く散りばめられており、カーウァイ作品の撮影監督クリストファー・ドイルの映像を想起させるカラフルな色彩が印象的で、現在と過去を行き来する展開、リズム感のある編集にも凝っています。
主人公の一人、ニューヨークでバーを経営するボス役のトー・タナポップは、185センチの長身を生かしモデル、俳優、歌手としてマルチに活躍する超人気者。余命宣告を受ける友人のウードを演じたアイス・ナッタラットも180センチ以上の長身を生かしモデルとして活動。本作の役作りで17キロも減量したそうです。カーウァイ作品を見てきた筆者には、ナポップがトニー・レオン、ナッタラットはレスリー・チャンに重なって見えました。
また、「バッド・ジーニアス」にも出演したオークベープ・チュティモンをはじめ、元恋人を演じた女優陣も魅力的な面々が揃っています。ウードが元恋人たちを訪ねる旅は甘くて苦いものですが、その終着点で明かされる秘密、クライマックスからもう一つの物語が始まるという展開に胸が締め付けられることでしょう。
なお、ウォン・カーウァイ監督の代表作「恋する惑星」「天使の涙」「ブエノスアイレス」「花様年華」「2046」を4Kレストア版で上映する特集「WKW 4K」が、8月19日からシネマート新宿、グランドシネマサンシャイン池袋、立川シネマシティほかで全国順次公開されます。
4Kレストアの本プロジェクトは、第53回カンヌ国際映画祭でトニー・レオンが主演男優賞を獲得し、カーウァイ監督の代表作となった「花様年華」の製作20周年を記念して実施されたものです。カーウァイ作品を未見の方はこの機会にあわせてご覧になると、「プアン 友だちと呼ばせて」がより深く味わうことができると思います。(執筆&編集者/和田隆)