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プロダクションノート

オリヴィエ・マルシャル監督 インタビュー

Q.『あるいは裏切りという名の犬』のアイデアはどのように生まれたのですか?

本作に共同脚本として参加したドミニク・ロワゾーに敬意を表する作品を撮りたいと考えていました。20年ほど前、ドミニクはBRI(探索出動班)の強盗団捜査に関わる刑事で、あるギャング団の壊滅作戦に参加しました。1985年1月14日、パリ16区のドクター・ブランシュ通りにあるパリ国立銀行の支店で、ギャング団が客と従業員全員を人質にとる事件が起き、BRIともう一つの捜査班BRB(強盗鎮圧班)が急行し、両班の警官が銀行を包囲しました。現場での逮捕は危険でしたが、BRBのボスは独断で介入を決めました。手柄を立てるためです。ギャング団の連中が銀行から出てきた時、警告なしに一斉射撃が始まりました。一人の刑事が人質に取られ、二人が死にました。犯人グループのチンピラが一人と、BRIの刑事ジャン・ヴリンツです。結局、強盗団一味の半分が逃走、作戦は失敗でした。この“汚点”の後、パリ警視庁への強い抗議の声が挙がりました。作戦の責任者であるBRBのボス以外、一斉射撃の現場にいた警官は皆、懲戒処分を受けました。


Q.本作のように?

ええ、まさに。もう一つ、当時話題になったショッキングな事件がありました。「汚職刑事事件」です。BRBの夜警団に所属する刑事のチームが、恐喝、強盗、誘拐、不法監禁などを繰り返し、堕落しきっていたことが明らかになりました。深刻な事態です。警察内で部署ごとの抗議行動やストライキが起こる中、知事は介入を決意し、扇動者を厳しい処罰すると脅しました。知事は現職警官で汚職している者が未だいるとも言いました。警察内の混乱は鎮まりましたが、今度はひどい噂が渦巻き始めました。ドクター・ブランシュ通りの事件での一斉射撃で銃弾に倒れた刑事ジャン・ヴリンツも汚職刑事の一人だというのです。彼の経歴は報道で汚され、彼の家族は醜聞に耐え忍ばねばなりませんでした。彼の葬儀は公葬とはならず、これにはBRIの刑事たちは我慢がならなかった。同僚は二度殺されたようなものなのです……。状況は加熱の一途をたどり、家族のもとでヴァカンスを過ごしていたドミニク・ロワゾーは、彼の名があの「汚職刑事リスト」に載っていることを同僚の一人から知らされます。彼は飛んでパリに帰り、検察総局へ出向いて説明を求めました。そして聴聞の結果、彼は裁判官の前に立たされたかと思うと、ボワ・ダルシィ刑務所に投獄されました。何の説明もなく、です。懲役12年を宣告されましたが、6年半の服役のあと、彼は解放されました……。


Q.これらの事件を映画化したのが本作ですね?

当然ながら、物語には反映されています。しかし、実際にドミニク・ロワゾーの身の上に起こった出来事よりも、レオ・ヴリンクス(ダニエル・オートゥイユ演じる刑事)に降りかかることはより強烈でより凶悪なものにしたかった。ドミニクは監獄ですべてを失いました。彼は憎しみの権化となることもできましたが、失われた数年間を抹殺することにしました。
さらに、本作品はドミニクに捧げると同時に、クリスチャン・キャロンにも捧げます。キャロンは強盗団対策にあたっていた主力刑事で、ドミニク・ロワゾーの友人でもあり、研修期間における私の教官でもありましたが、1989年8月31日、急襲作戦のさなかに銃弾に倒れました。彼はずっと最前線で活躍していましたが、結婚して3人の子の父となった時、デスクワーク中心の部署に移動して家族との時間を大切にしようと考えて、急襲作戦班を離れる決意をしました。しかし、転属の一週間前、ある凶暴な犯人によって銃撃されたのです。本当に悲しい思いをしました。偉大な刑事であると同時に、陽気で懐の深い、人間性豊かな、大きな存在でした……。


Q.主役二人(レオとドニ)を描くのに、知己の誰かから着想を得たのですか?

ダニエル・オートゥイユ演じるレオ・ヴリンクスは、その名前をドクター・ブランシュ通りの事件で銃弾に倒れた刑事ジャン・ヴリンツ(響きが同じ)に捧げ、もちろんドミニク・ロワゾーの道程を引用していますが、実際には、司法警察第5管区にいた時の上司の一人から発想しています。BRIのナンバー2まで昇進しながら、密告者を隠蔽したために服役させられた人物。我々は気品ある彼のことを「フィフィ・エレガント」と渾名していました。彼は売春宿やヤクザのたまり場に頻繁に出入りし、そのコネクションによって大きな凶悪犯罪を解決しました。レオのとった手法と同じように。また、いつも自信に満ち溢れており周囲からは好かれていましたが、レオのようにその人間像は複雑で寡黙で、必要な時にしか言葉を発しませんでした。ダニエルと私は、人物の複雑さの表現に力を注ぎました。影があり、閉鎖的で、彼を粉砕しようとするシステムの枠にはまらないという側面。一方、むき出しの乱暴さを見せるという側面。反感を抱かれるというリスクを伴いますが、ダニエルとなら可能だと私は思っていました。


Q.では、ジェラール・ドパルデュー演じるドニ・クランは?

例のBRBのボス、ドクター・ブランシュ通りの事件で汚点を残した彼から着想しました。野心家で、立身出世主義者、行動は乱暴、臆することなく諸事万端に進めるタイプです。同時に、勇敢であり、治安悪化地域を所轄する重要なセクションを指揮するようになってから、警察内での評価は揺るぎないものとなった。しかし、衝動的で先に手が出るタイプですから現場向きではなかった……。とはいえ私は、ドニをより「ロマンチック」な人物に仕立てたかった。ドニは堅実で、仕事に人生を捧げた人間です。妻が「あなたは、ああはならないわ」と評した有能な刑事の影で生きている、ひとりぼっちで不幸な人間。そしてそれを飲み込んでしまう。なぜならどんな絶望の中でも、しがみつけるものが警官という職業しかないから……。観客が彼を嫌うことは避けたかったですね。たとえクランが恐ろしい行為をする人物でも。
Asmik Ace eiga.com