エドワーズ監督&コープは、日本公開を目前とした7月下旬に来日。映画.comでは、その際に2人のインタビューを敢行している。各描写へのこだわりや、シリーズの根底にあるものなどを語り尽くしてくれた。(取材・文/尾﨑一男)
(C)2025 Universal Studios. All Rights Reserved.熟練の秘密工作員ゾーラ・ベネットは、信頼する傭兵のダンカン・キンケイド、古生物学者のヘンリー・ルーミス博士らとともに、初代「
ジュラシック・パーク」の極秘研究施設が存在した禁断の島へ足を踏み入れる。そこはかつてパークの所有者が極秘の実験を行い、“最悪の種”と言われる20数種の恐竜が生き残った、地球上で最も危険な場所だった。ゾーラたちの任務は、心臓病に奇跡的な治療効果をもたらす新薬の開発に不可欠な、陸・海・空の3大恐竜のDNAを確保すること。ゾーラたちは恐竜の脅威に立ち向かいながら、任務遂行のために歩みを進めていくが……。
(C)2025 Universal Studios. All Rights Reserved.●やりのこした原作シーンの実現
――まずエドワーズ監督にお訊きします。ゴジラとスター・ウォーズ、そしてジュラシックシリーズの三大フランチャイズを演出するという、地球に二人といない存在になられたわけですが、それに対する自身の心境はいかがですか?
エドワーズ監督 そこにいる彼女(と、インタビューに同行した女性スタッフを指し)が見つけたネットミームなんですけど、ゴジラとスター・ウォーズとジュラシックシリーズをすべて手がけるのは、聖書の一節で戒められていた大罪「貪欲」、つまり欲のあらわれだと記されていたそうです。
一同 爆笑
――気を取り直して、コープさんに質問しますね。久々にジュラシックシリーズの脚本を担当されて、その手応えはいかがでしたか?
コープ このシリーズに戻ってこられたのは、本当に素晴らしいことだと感じていますし、再び脚本を手がけられたことを、とても誇りに思っています。でも前回担当した「
ロスト・ワールド ジュラシック・パーク」(1997)から長い歳月が経過しているはずなのに、今回ロンドンの撮影ステージに足を踏み入れたとき、まるでそれが昨日のことのように思えたんです。
エドワーズ監督 何がそのスイッチになったんだろう?
コープ キミにこのことは言っていなかったんだけど、当時とまったく同じ匂いがしたんだよ。スタジオに植えられた植物のものかわからないけど(笑)、そんな奇妙な感覚に陥ったんだ。
ギャレス・エドワーズ(C)2025 Universal Studios. All Rights Reserved.
デビッド・コープ(C)2025 Universal Studios. All Rights Reserved.コープ どの作品も、とても興味深く拝見させてもらいました。「
ジュラシック・パーク」(1993)の仕事は私自身、とても大切で自慢に思っているんですけれど、他のクリエイターたちの解釈を客観的に見るのも、それはそれで楽しいものがありましたね。「自分のやり方だったらこうするけど、なるほど、他の人たちがやるとこうなるのか」という発見があったりしたので。特に私の担当した2本はマイケル(・クライトン)の原作がベースとしてあったので、映画オリジナルで展開していくストーリーは、強く関心が持てたんです。なにより、自分が直接的に関わっていないと、感じるプレッシャーやストレスも少ないですしね(笑)。
――今回のシリーズ最新作「
ジュラシック・ワールド 復活の大地」は、コープさんのオリジナル脚本になりますが、劇中でTレックスがボートを襲撃するシークエンスは、クライトンの原作にあったものですよね。このエキサイティングな描写を、今回の作品で映像化しようと思ったのは?
コープ Tレックスのシーンは、本来ならば1作目の時点で本編に取り入れたかったんです。けれどスケジュールの都合であったり、なにより当時は技術的に達成が難しかったんですよ。TレックスをCGで描くという作業だけでも大変だったのに、水をそれで表現するのはもっと難しかった。でも今なら充分に可能だということで取り組みました。その間はとにかく「おもいっきりクシャミをしたいんだけど、30年以上ずっと我慢している」といった状態でしたね(笑)。なにより、原作であのシーンはTレックスがいかに恐ろしい存在かを示す完璧な描写だったので、マイケルの小説をかたわらに置き、何度も読み返しながら脚本をタイプしていきました。
(C)2025 Universal Studios. All Rights Reserved.――同シーンの前振りで、Tレックスが猫や犬みたいにゴロゴロ転がって、まったりしているのが可愛らしかったんですけど。
コープ あれを可愛いと捉えるのは、ペットの犬や猫と同じしぐさを彼に感じて、身近に思えたからでしょうね。ただ気をつけないといけないのは、犬や猫はあなたを襲ったりしませんけど、Tレックスは劇中でご覧のとおりですからね。
一同 爆笑
(C)2025 Universal Studios. All Rights Reserved.●エドワーズ監督「“スピルバーグ言語”を活用する口実を得た(笑)」
――監督に質問ですけど、今回スピノサウルスが海面から背びれを突き出しながら、
スカーレット・ヨハンソン演じる工作員ゾーラたちが乗る船を襲うシーンは、本作のプロデューサーである
スティーブン・スピルバーグの代表作「
ジョーズ」(1975)のメソッドを反復してますよね。監督は2014年の「
GODZILLA ゴジラ」でも、ゴジラの海中移動を同じような背びれ表現で演出し、あなた自身がそれを「スピルバーグ言語」の復唱と称していたのが印象に残っています。
エドワーズ監督 やはり背びれを出して泳ぐクリーチャーの姿は、スティーブンが広く周知させたアイコンですからね。だから、もし今回のプロジェクトが彼のものでなかったら、僕は「二番煎じだ」と非難されるのを恐れて依頼を受けなかったでしょう。でも他でもない、そのスティーブン本人がオファーをくれたので、「スピルバーグ言語」を活用する口実ができたんです(笑)。
――シェイクスピア本人が横にいて、「
リア王」を舞台演出するようなものですもんね。
エドワーズ監督 尊敬するスティーブンのもとで「
ジョーズ」のスタイルにアプローチできる、それはまさしく、オフィシャルなマスターピースへの挑戦と言えるかもしれませんね。彼は僕にとって、創作におけるグルみたいな存在なんで、このさい、他の「スピルバーグ言語」も、なんとか探り出してモノにしてやろうと思ったんですけどね。
――偉大なジェダイマスターはフォースを伝授してくれたんですか?
エドワーズ監督 彼が持つ華麗なマジックの数々を、さすがに僕はまだ完全には掴めませんでしたね。きっとスティーブンは箱の中にその秘密を入れて、アンブリンのどこかに隠しているんだと思います(笑)。
(C)2025 Universal Studios. All Rights Reserved.●モンスターには恐怖だけでなく、別の描写も必要
――そう謙遜しながらも、監督のクリーチャー映画の恐怖演出はじつに秀逸で、同時に官能的な描写にも目を惹くものがあります。長編監督デビュー作の「
モンスターズ 地球外生命体」(2010)では、巨大モンスターが触手を絡ませながらコミュニケーションをとるシーンがあったり、「
GODZILLA ゴジラ」では夫婦怪獣ムートーの求愛描写がそれに該当します。で、今回は無数のティタノサウルスが巨体をくねらせながら似たような行動をとるんですけど、そういった描写にこだわる理由は?
エドワーズ監督 ティーンエイジャーのときから、そういうのに興味があったんです。あの年頃は巨大なモンスターにも興味があるし、もうひとつはなんだかわかりますよね(笑)。本当はこの仕事を受けたとき、「
ジュラシック・パーク」をもう一度観直し、完全に分析したんです。そこで分かったのは、本作は1分2分おきに毎回いろんなアイディアが出てきて、ちょっとしたコミカルなものが入ってるんです。少し笑いが出るような、または内心でクスッとするような。でも「
ジュラシック・パーク」を喜劇だとは誰も言わないですよね。
そしてもうひとつは、恐怖描写がずば抜けている。僕は世界の映画の中で、最も怖いシーンが同作での、Tレックスの登場場面だと思っているんですけど、だからといってあれをホラー映画だって定義する者は誰もいない。でも、それらのすべての要素が全て入っている映画であることは事実です。だから僕はこの作品の中に、恐怖だけでなく自然の美しさを入れたい。そしてそれを壮大なものにしたいと思ったんです。そこでデビッドが書いた、あのティタノサウルスのシーンを最大限に活かしました。僕が独自に巨大モンスターの官能的な描写を創造するなら、照れ隠しから、ちょっとコミカルになってしまうと思います(笑)。
(C)2025 Universal Studios. All Rights Reserved.
(C)2025 Universal Studios. All Rights Reserved. ●シリーズの根底にある「フランケンシュタイン」の物語
――最後に「
ジュラシック・ワールド 復活の大地」では、遺伝子操作による「変異恐竜」の存在がクローズアップされています。彼らは従来の恐竜たちよりも脅威的ですが、人間の利己主義の犠牲者であり、悲しい存在に映ります。本作のテーマにも通じるので、お二人の考えや思いを訊かせてください。
コープ 今回を含め、すべての「ジュラシック」作品は、いわゆる「フランケンシュタイン」の物語だと思っているんです。人類が生物科学を勝手に操作し、最終的には変異恐竜のような、人為的な存在が生み出されてしまうのです。彼らは強化された攻撃本能によって人々を襲いますが、それは本能というより、痛みを訴えているんです。人間の都合のいいように変えられ、他の生き物のように自由な生息をまっとうできない。そんな彼らの悲痛の咆哮に耳を傾けてくださったことを嬉しく思います。それがまさに本作の、テーマのひとつでもあるので。
エドワーズ監督 僕が子どものとき、父親と一緒に「
マッドマックス サンダードーム」(1985)を観たんです。同作では
メル・ギブソン演じるマックスがブラスターという強敵と格闘場で戦うんですが、マックスは勝って彼にとどめを刺さなかったんですね。その疑問を父にぶつけたところ、「ブラスターは強者のようでいて、無垢な心と怪物性を権力者に利用された弱者だ。マックスはそこに同情したんだよ」と。
――慧眼を持つお父様に恵まれましたね。
エドワーズ監督 だから、たとえモンスターと呼ばれるような敵対者でも、善と悪や、白と黒にはっきりさせるのではなく、そこに孤独や悲哀など、同情できる要素を感じるべきだと同作から学んだ気がします。そういうグレーながらも大切な部分を、この「
ジュラシック・ワールド 復活の大地」には入れたかったんです。デビッドの言う「フランケンシュタイン」の物語といった指摘に、僕も強く思いを重ねるところがありますね。
(C)2025 Universal Studios. All Rights Reserved.