「メガロポリス」あらすじ・概要・評論まとめ ~コッポラの原則に忠実な、スーパースケールの「個人映画」~【おすすめの注目映画】
2025年6月19日 09:30

近日公開または上映中の最新作の中から映画.com編集部が選りすぐった作品を、毎週3作品ご紹介!
本記事では、映画「メガロポリス」(2025年6月20日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。

巨匠フランシス・フォード・コッポラが40年をかけて構想したSF叙事詩。アメリカをローマ帝国に見立てた大都市ニューローマを舞台に、理想の新都市メガロポリスを通じて未来への希望を描き出す。
21世紀、アメリカの大都市ニューローマでは、富裕層と貧困層の格差が社会問題化していた。新都市メガロポリスの開発を進めようとする天才建築家カエサル・カティリナは、財政難のなかで利権に固執する新市長フランクリン・キケロと対立する。さらに一族の後継を狙うクローディオ・プルケルの策謀にも巻き込まれ、カエサルは絶体絶命の危機に陥る。
コッポラ監督がH・G・ウェルズ原作の映画「来るべき世界」に着想を得て1980年代より脚本を構想し、2001年には撮影準備を進めていたが9・11同時多発テロの影響で中断。そのまま頓挫の危機に陥ったが、2021年にコッポラ監督が私財1億2000万ドルを投じて製作を再始動させ、2024年についに完成させた。「スター・ウォーズ」シリーズのアダム・ドライバーが天才建築家カエサル役で主演を務め、彼と対立する市長キケロ役でドラマ「ブレイキング・バッド」シリーズのジャンカルロ・エスポジート、キケロの娘ジュリア役でドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのナタリー・エマニュエルが共演。2024年・第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。

前監督作「Virginia ヴァージニア」(2011)から14年もの間、終活のごとく過去作の改変を優先してきたフランシス・フォード・コッポラ。そんな巨匠が、ついに腹をくくって新作を発表。しかも40年くらい前から次作として匂わせていた、帝政ローマの末路を現代アメリカの諸相と照らし合わせていく、都市開発をめぐる権力闘争の未来SFだ。
正直、そんな酔狂に金を出す団体なんかないだろうと諦観していたら、ワイナリー事業で得た経済的成功と、発想を萎縮させることなく具現化できるデジタルシネマ(わけてもLEDウォールを用いたバーチャル・プロダクション)の進化が弾みとなり、積年の企画を自身で実現させたのだ。しかしいざ完成をみるや、ハイコンセプトなプロットを整理できないまま撮影したのでは? と厳しい意見を耳にする。

そんな世評を「ふ〜ん」と流せるほど、こちとらコッポラ作品との付き合いは昨日今日ではない。愛を欠くジャッジを下すなよゴルァ!の心持ちで実作に接してみたら、なんだ平常運転のコッポラ映画じゃないか、とひと安心。自分はこれを「怪作」と人に薦めても「失敗作」と軽んじることはない。いや、とてつもない映画体験をさせてもらった。
確かに物語は観念的で、商業映画としてはオーディエンスにちっとも優しくない。だがそんな不親切さは「地獄の黙示録」(1979)で既知のこと。なにより本作は、コッポラの古典主義者としての性質をむき出しにして迷い知らずだ。マフィア一族のクロニクルにギリシャ悲劇の構造を組み込んだ「ゴッドファーザー」三部作(1972〜1990)や、コンラッドの名作文学「闇の奥」をベースに、哨戒艇による暗殺執行者の行路をホメロスの「オデュッセイア」にたとえた「黙示録」しかり。それらに通ずる古典の現代翻案を、今回の「メガロポリス」は反復している。超近代都市に存在する社会的階層や、都市を維持するためのイデオロギーの対立は、さかのぼってフリッツ・ラングの古典SF「メトロポリス」(1927)に壮大なオマージュを捧げている。単なる語呂合わせではないのだ。

しかも提供されるビジョンは圧倒的で妥協がなく、バーチャル・プロダクションに特有の箱庭感も「ワン・フロム・ザ・ハート」(1982)で発揮したコントロールフリークぶりに通底するものがある。独りよがりを過去作と照合し、恣意的に正当化しているという勿れ。私費による映画は、客観性など二の次にして当然。スタジオの干渉を抑えたことで、この作品はコッポラのショーケースとして、スーパースケールかつ高純度な「個人映画」の成立をモノにした。今後そう簡単に観られるレベルではないほどの。
そもそも旧作のレタッチなんて、新しいものを生み出せなくなったクリエイターの手慰みにすぎない。コッポラがそこから脱却したことを、心から嬉しく思う。ニューバージョンにかこつけて何度も何度も「地獄の黙示録」を観るの、そりゃ嫌いじゃないけどさ。
執筆者紹介

尾﨑一男 (おざき・かずお)
映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「特撮秘宝」、Webメディアに「ザ・シネマ」「cinefil」などがある。併せて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。
Twitter:@dolly_ozaki
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