鈴木亮平×有村架純、思いを巡らす“忘れられないスピーチ”【「花まんま」インタビュー】
2025年4月25日 18:00

第133回直木賞を受賞した朱川湊人氏の短編集を映画化した「花まんま」が、4月25日から封切られた。「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」「そして、バトンは渡された」「九十歳。何がめでたい」など、精力的に作品を発表し続けている前田哲監督のもと、日本映画界を牽引する鈴木亮平と有村架純が顔を揃えた。初共演のふたりは、ともに兵庫県出身。前田監督を筆頭に関西出身のスタッフが多く集った現場で、どう役を生きたのか話を聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/間庭裕基)
タイトルの「花まんま」は、子どものままごと遊びで作った、大切な人に贈る小さな花のお弁当のこと。主人公は、両親を早くに亡くし、大阪の下町で暮らす2人きりの兄妹・俊樹(鈴木)とフミ子(有村)。死んだ父との約束を胸に、兄としてフミ子を守り続けてきた俊樹は、フミ子の結婚が決まりやっと肩の荷が下りるはずだった。だが、遠い昔に封印したはずのフミ子の“秘密”がよみがえる……。
フミ子の“秘密”とは、幼少期から別の女性の記憶があること。「生まれ変わり」ではなく、フミ子の存在は確固としてある。フミ子が生まれたときに、無差別殺人に巻き込まれて23歳の若さで亡くなったバスガイドの繁田喜代美の心が映っていたのだ。
鈴木と有村、ともに30本以上の映画に出演しており、初共演というアナウンスに意外な印象を覚えた。これまでは「ご挨拶程度」の面識だったそうだが、互いの出演作や芝居を通して、どのような印象を持っていたのか、そして実際に現場で対峙してみて印象に変化があったのか聞いてみると興味深い回答を得られた。

有村「プロなので当たり前だとは思うのですが、職人気質な方なんだろうなと思っていたんです。現場でも寡黙で、役に集中するお方なのかなと想像していたら……、他の現場では分かりませんが今回はそういった印象とはほぼ真逆。とってもかわいらしい(笑)、人間味を感じさせられる姿も多々拝見できましたし、凄くニュートラルな方でした」
鈴木「可憐なイメージがありました。凛とした方だなとも感じていて、お会いしてみてもそこはあまり印象として変わらなかったです。隙がないというのではなくて、自然体なんですが、居方が凛としていて。芯があって、ぶれない。生き方が美しい人なんじゃないかなと思いました」

鈴木の絶賛評を「ははははは」と爽快に笑い飛ばす有村の姿を見るにつけ、きっと撮影現場でも一事が万事、朗らかな空気が流れていたんだろうなと容易に想像することができる。ふたりのほか、鈴鹿央士(岡山)、ファーストサマーウイカ(大阪)、キムラ緑子(兵庫)、六角精児(兵庫)、オール阪神巨人(ともに大阪)と関西出身のキャストが揃ったが、いわゆるネイティブスピーカーが醸し出す会話の“間”が作品に華やぎと和らぎをもたらした。
鈴木「前田監督が、コテコテの関西弁なんですよ。コテコテの関西弁でやってしまうと、『そんな関西人おるかいな!』みたいな映画になってしまうので、誰が見ても『こういう関西の兄妹いるよね』という自然体な姿でいたかったんです。
関西人にも色々なタイプがいますよね。フミ子みたいに普通で特に面白いことも言わないし、テンションが高いわけでもない子だって多くいるわけですし、いろんな関西人像を出せればいいなと思っていました」

有村「現場でも、ずっとボケていましたよね、監督。私たちは何言ってるんですか! って言っていたんですよね」
鈴木「面白くないボケを延々と(笑)。僕は全部拾っていましたよ。監督にツッコミを入れるのは、主演としての義務だと思っていましたから(笑)。『花まんま』のLINEグループがあるのですが、そこでも監督のボケに対していまだに僕が反応しています。有村さんと鈴鹿さんはあまり反応せず、僕とウイカさんだけですかね、ツッコミ入れているのは」
有村「わたしはスタンプだけ送っていました(笑)」

クランクイン直後から「ビックリするくらい兄妹感が得られて、個人的にも相性が良いと思った」と鈴木が完成報告会見で語っていたが、関西弁での芝居がふたりに良いアクセントをもたらしたようだ。
有村「東京で暮らすようになって15~16年になるので、もうすぐ地元で過ごしてきた17年を超えてしまう。関西弁を話す機会って、いまは家族や同級生といるときくらいしかないんです。自分が関西弁のセリフを話すというので、ちょっとギアが入っている感じはあるのですが、周囲の皆さんが関西弁で話してくださることで、どんどん馴染んでいく感じはしました」

鈴木「そういう時期に差し掛かっているんですね。僕は東京で過ごす時間の方が6年くらい長くなっているんです。標準語でのお芝居も苦にならなくなって結構経っているのですが、やっぱり子どもの頃から馴染んできた言葉でしゃべるとやりやすかったです。細かいニュアンスが出しやすいというか、自由自在でやりやすい感じはありました」
今作には、俊樹とフミ子がぶつかり合うシーンも含め、見どころが幾つもあるが、フミ子の結婚披露宴での俊樹のスピーチに心が揺さぶられる人は少なくないだろう。そこで、ふたりに授賞式などの場でスピーチと向き合った際、忘れられない思い出を聞いてみた。
鈴木「有村さんが日本アカデミー賞で司会をされた際、僕はプレゼンターとして登壇していてちらっとお会いしましたよね。僕らは作品の打ち上げのときなど、スピーチをする場面は多い方だと思うんです。いつも感じるのは、演技も一緒で準備をしていった方がうまくいくんですが、準備したことをそのまま言うと『覚えてきました』という感じで、相手の心に伝わりにくいなと。

一番良いと思うのは俊樹スタイルで、準備はしてきたんだけど自分の出番の直前に『違うわ、この場面だったらこれを言いたいかも』と感じたことを優先した方が、結局しどろもどろになったとしても聞いている人には伝わるんじゃないかなあと。その場の空気を感じて、言うべきことを決めるというのを僕は意識しているかもしれません。
あと、香港で記者会見をしたときの話ですが、いろいろ取材を受けて全部終わってから1日ずっとチャックが空いていたことに気づいたというエピソードもあります。『HK 変態仮面』のときだったので、現地では『あいつ本当に変態なんだ』と思われていたかもしれませんね(笑)」
有村「わたしも舞台挨拶などで壇上に立って、自分の言葉でお話しする機会がありますが、作品や役について『こういうことを話そう』とあまり多くは考えていないんです。ただ、自分自身に対する質問ってあるじゃないですか。『春らしいエピソードはなんですか?』みたいな質問は、事前に考えておかないと分からないんです。作品や役については特に考えなくても話せるけど、自分のことは考えないと話せない。それってよく考えると不思議ですよね」

鈴木「これまで見てきたなかで『この人、スピーチ上手いなあ』と思った人はいる?」
有村「日本アカデミー賞の司会をやらせていただいたときの、安藤サクラさんのスピーチはとても印象に残っています。等身大で飾ることもなく、いま思っていることを言葉にしていてすごく素敵でした」
劇中のフミ子のような体験を誰もがするとは言わないが、乳児時代の記憶がある……、子どもの頃からずっと見続ける夢がある……など、説明のつかない「記憶」に心当たりのある人が一定数いることもまた事実。ふたりには、思い当たることがあるだろうか。

有村「わたしも子どもの頃、具合が悪いときに夢に何度も同じ公園が出てきました。行ったことがない公園で、どこかも分からない。高熱が出たときに必ず夢で見ていました。いまはもう見ないけど、不思議ですよね」

鈴木「僕も、あれは現実だったのか、夢だったのか、ということはあります。親父が『いま流行ってるんや!』って僕と兄貴を芦屋のカレー屋へ連れて行ってくれたことがある気がするんです。ただ、一口も食べられないくらい辛いんです。子どもだったからかもしれないけれど、辛すぎて食べられないカレー屋が流行るのかな? そんな店へ子どもを連れていくかな? あの辛いカレーは僕の舌が若かったからなのか、夢だったのか、遠い記憶すぎて夢のような気もしてきた。それを確かめたいと思って、調べたこともあるんです。それらしき店はあったんです。店の前の道も『ああ、なんか夢で見た道もこんなだったかも』って。だから、本当かもしれないですね」
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執筆者紹介

大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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