【「カップルズ」評論】喜劇と悲劇が表裏一体の欲望を追い求める現代社会に“愛は存在できるのか”
2025年4月20日 18:30

約30年前に作られた映画とは思えないほど、本作で描かれる内容やテーマはより現代の社会性とリンクし、作品の鮮度が増しているのではないかと改めて驚く。1980年代にホウ・シャオシェン監督らと共に“台湾ニューウェーブ”の代表格のひとりとなったエドワード・ヤン監督が、「エドワード・ヤンの恋愛時代」(1994)に続いて“新台北3部作”の第2部として1996年に撮りあげたのがこの「カップルズ」(原題は「麻將」)だ。
多彩な国籍の人間が割拠する1990年代半ばの台北。誰もが欲望を追い求める街に変貌し、この都市で生きる人々が心と魂を捨てながら、いかにして富と権力を増大させようとするかを描き出そうとする。大人たちが「株も不動産もぱっとしない」などとぼやく一方で、「家族よりも濃い仲だ」と“アジト”に集って生きる青年ギャング団の4人は、お金も自由も、そして愛さえも、思うがままに手にすることができると信じていた。しかしヤン監督は、欲望を追い求めることに夢中となった先に望んでいた成功や希望があるのか、喜劇と悲劇を表裏一体にし、社会への静かな怒りと共に挑発的に描く。
さらに、この物語の根底に据えられているのは、人々が心と魂を捨てなければ生きていけない街で、“愛は存在できるのか?”ということ。それは現代の都市社会においても普遍的なテーマではないだろうか。台北に移り住み、欲望を手にした中年の外国人女性が「ここは望みの叶う街だけど、恋が実る街じゃない」と、恋人を追ってフランスからやって来た若い女性マルト(ヴィルジニー・ルドワイヤン)に吐露する。
人々は成功を追い求めながらも、心の奥底では愛を渇望している。それなのに自分が本当は何を追い求め、手にしたいのか気づけていない。けれども、4人の青年たちの前に愛を追ってやってきたフランス人のマルトが現れたことで、彼らの関係や信じていたものが揺らぎ、変化していく。そして、青年たちのリーダー格“レッドフィッシュ”に、ある程度の富を得たかに見える台湾人の中年男性が「今の時代、人はみんな迷子なんだ」と吐き捨てるように言ったことが、深い余韻を残すことになる。
信じていたものを失ったレッドフィッシュに起こる悲劇で、誰もが抱えることになるかもしれない危うさを提示しつつ、マルトに秘かに思いを寄せていたギャング団の新入りルンルンが街中でマルトと再会することで、ヤン監督はそれでも社会へ出て生きていかなければならい者たちへ希望を残そうとしている。
1961年の夏、14歳の少年が同い年のガールフレンドを殺害するという、台湾で初の未成年による殺人事件を題材に描いたヤン監督の傑作「牯嶺街少年殺人事件」(1991)で、主人公の少年たちを演じていたチャン・チェン、クー・ユールン、ワン・チーザンが成長し、青年ギャング団役で再結集しているので、同作を先に見ておくとより深く本作を味わえる。
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