今敏の作画の魅力と思い出をアニメーター安藤雅司、小西賢一、本田雄が語る 「ガンダム」愛した一面も
2025年3月16日 19:00

新潟市で開催中の第3回新潟国際アニメーション映画祭で、2010年に逝去した今敏のレトロスペクティブの1作「千年女優」が3月16日シネ・ウインドで上映され、今監督とともに仕事をしたアニメーターの安藤雅司氏、小西賢一氏、本田雄氏がトークを行い、今監督の作画の魅力、思い出などを語った。
アニメーション業界に入る前の大学在学中に漫画家デビューし、「AKIRA」などで知られる大友克洋のアシスタントを務めていた今さん。スタジオジブリを経て、今監督のテレビアニメ作品「妄想代理人」(04)や「パプリカ」(06)に携わった安藤氏は、まずは漫画作品「海帰線」に圧倒されたという。「すごく絵の上手い漫画家さんというイメージだった。『海帰線』を(ジブリの)近藤喜文さんが若い人たちに紹介していて、そのころ自分は研修生で『おもひでぽろぽろ』の動画などをやっていました」と話し、アニメーション作品では「『パーフェクトブルー』は衝撃的だった。絵としての外連ではなく、カット割りとシーンのつなぎ方で外連を出していく。そういうアニメーションの作り方がショックだった」と語る。

その後、フリーランスとして、今監督と仕事をすることになる。「コンセプトみたいなものを読ませてもらって、ファーストインプレッションで描いた絵を面白がってくださった」と「妄想代理人」のキャラクターデザインを担当。その後、「パプリカ」のキャラクターデザインと作画を担当した。「『パプリカ』に関しては自分の(絵の)比率が高くて、最初のインプレッションで出したものが採用された。今さんは器用なので、こっちに寄せて今さん流の絵を描いてくる。だからだんだん混ざってくるんです」と振り返る。

「千年女優」(01)の作画監督・原画、「東京ゴッドファーザーズ」(03)では今監督と共同でキャラクターデザイン・作画監督を務めた小西氏も安藤氏同様スタジオジブリ出身だ。「ジブリで絵がうまい人がたくさんいて、そして特殊な絵なので、ああいう絵しか描けなくなってしまう」という危機感を持ったこともあり、「今さんから画力で影響を受けて、手に入れようという意識が強かった。いろんな人のお手本になっていく絵コンテの描き方、自分にとってジブリとともに基礎になっている」と、自身のキャリアにおいて大きな影響を受けたと述懐する。
この日「千年女優」の上映があり、「僕は原画でやらせてもらって、女優さんが七変化していく完成した映画を観て、平沢進さんの曲の力もありますが、ものすごく高揚感があった。こんな風に感情移入できて、気持ちを持っていかれるんだ。と思った」と改めて感想を述べ、「東京ゴッドファーザーズ」は、「今さんの明るい面がでている作品」と評し、「今さんのイメージキャラクターが既に色のついているセル調で、僕はそれを基にキャラクターを作った。描いていくうちに僕は僕の描き方になっていきましたが、基本的に今さんの絵」と語る。

今さんの漫画「ワールド・アパートメント・ホラー」が好きだったという本田氏。「千年女優」でキャラクターデザインと作画監督を務め、「東京ゴッドファーザーズ」と「妄想代理人」は原画で参加している。「今さんの仕事の話は、気心知れた人間とやりたい、と大体飲みから入るんです。私に声をかけ、若手(の人材)を広げようとしたのでは」といい、「千年女優」での思い出として、「今さんはレイアウトは6カット出すなど自分への戒めがあって、なんでこんなに早く描けるんだろう……と、同じ土俵でやるのが大変でした」「映画のポスターの案などもどんどん出来上がっていて、今さんはマッドハウスでの作業後、自宅でもやっていたんじゃないかな。デジタルの着彩も始めた頃だったから、すごく楽しかったんだろうなと。今さんの原画を見て意識が上がりましたし、『千年女優』は横のつながりの人たちの絵もめちゃくちゃうまくて」と「千年女優」の仕事から大きな刺激を受けたと振り返る。
「最低限の線の量で、効果的な画面を作る」のが今監督の画の特徴だと言い、「『千年女優』がれきの描き方はうまくて真似できない。がれきの中の、何ががれきになっているか分かるような描き方は、真似したいけどできないんです。さらにレイアウトがまとまっている」とこの日登壇した3名が、業界に与えた影響が大きいと口を揃える、今監督の画力とレイアウトのうまさに言及する。

「今さんが存命で作り続けていたら、違うものを残せていたのかな。あの演出力と画力で何を作れたのか、やってほしかった」と安藤氏。また、今監督の人柄については、自身にはもちろん、スタッフにも厳しい面があったという。「今さんは良くも悪くもお手本になるものを残して逝ってしまった。今さんの作品がなかったら、この業界はもっと緩かったかも」とも本田氏はコメント。
また、安藤氏が「パプリカ」制作時の思い出のひとつとして、スタジオで「ガンダム」劇場版三部作の上映会をしたというエピソードを披露すると、本田氏は「『千年女優』の時も、今さんの家での忘年会で酒を飲みながら(劇場版3作を)ぶっ通しで観ました。ここでこのセリフが来る、っていうのを今さんが先に言っていた(笑)」と、今監督のガンダム愛も明かしていた。
第3回新潟国際アニメーション映画祭は3月20日まで開催、チケットは好評発売中。最新情報は随時公式サイト(https://niaff.net)で告知している。
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