「劇映画 孤独のグルメ」から考える「俳優出資映画」が増えてきた理由【コラム/細野真宏の試写室日記】
2025年1月11日 09:00
![「劇映画 孤独のグルメ」(公開中)](https://eiga.k-img.com/images/buzz/115053/01e0b9fa0f0b752b/640.jpg)
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
今週末2025年1月10日(金)から松重豊主演の「劇映画 孤独のグルメ」が公開されました。
料理が題材となる「料理映画」はそんなに多くないのですが、12月30日に公開された「グランメソン・パリ」に続いて大規模な「料理映画」の公開となります。
私は薄っすらと存在くらいは知っていた作品ではありましたが、2012年からテレビ東京系列の深夜ドラマとして人気を博して、すでにSeason10まで放送されています。
また、2017年からは「大晦日スペシャル」として12月31日の大晦日の22時〜23時半という時間帯で毎年放送される「テレビ東京の看板ドラマ」になっていて、本作は「テレビ東京開局60周年記念作品」なのです。
![画像2](https://eiga.k-img.com/images/buzz/115053/5556cad3e8a614c3/640.jpg?1736482972)
本作で注目すべきは、主演の松重豊が自身初の監督を手がけたということでしょう。当初は、アカデミー賞で作品賞、監督賞などを受賞した「パラサイト 半地下の家族」(2019年)のポン・ジュノ監督に依頼したりと、本業の映画監督で模索していました。ただ、本命だったポン・ジュノ監督に断られたりしたことで、松重豊が自身で撮ると決断したようです。脚本も共同で松重豊が務めています。
主な舞台はパリ、長崎県・五島列島、韓国で、各地でロケを敢行。それぞれの土地で主人公が美味しい食事を探して食べるというのが本シリーズの基本的な構造です。
また、物語が自然と流れるように、主人公の職業は「輸入雑貨の貿易商」を個人で経営、となっています。そして、仕事の関連で各地を移動するという流れです。
![画像3](https://eiga.k-img.com/images/buzz/115053/465355a8f539160d/640.jpg?1736482972)
私は本シリーズを昨年末の「大晦日スペシャル」で初めて見ました。そこで感じたのは、「仕事でお金周辺の話が一切出てこないのはリアリティーに欠けるのかな」ということでした。
「仕事の関連で移動」が発生するのですが、いくら輸入雑貨の貿易商の個人経営であっても、「現在ではブラック案件すぎて問題が生じるのでは」という展開が多かったのです。
ただ、その後に見た映画で少し意外だったのは、お金に関する表現を一切しない作品なのか、というとそうでもなくて、主人公がお店に無断で使った道具などについては精算するシーンが描かれていた点です。
であれば、メインの主人公の仕事についても自然に流れるように、もう少し踏み込んで表現してもいいのではと思ったりもするのですが、脚本の粗や時間の問題などもあるのか表現されていません。
とは言え、本作の最大のテーマは「美味しい料理」であって、それ以外のリアリティーはそれほど重要ではない、とも言えるのかもしれません。
![画像4](https://eiga.k-img.com/images/buzz/115053/dc99c0be8fd7dab4/640.jpg?1736482972)
![画像5](https://eiga.k-img.com/images/buzz/115053/f67d2cb811fc186e/640.jpg?1736482972)
さて、本作では主演の松重豊が製作の上位に名前を連ねていて、映画にそれなりに大きな出資をしていることが分かります。
このところ「劇場版 ドクターX」主演の米倉涼子など、主演俳優が映画に出資している作品がトレンドになっているように感じます。
いつからこのような状況が生まれてきているのでしょうか?
1つの流れとしてあるのは、「テレビドラマの映画化」というキーワードが重要です。というのも、ヒットが見込みやすい人気の「テレビドラマの映画化」だと主演俳優の存在が作品にとって極めて大事なので、主演俳優の発言権が増すからです。
「テレビドラマの映画化」で最も成功した作品は「踊る大捜査線」シリーズですが、実は第1弾の「踊る大捜査線 THE MOVIE」(1998年)はフジテレビの単独出資作品となっているのです。当時は誰も興行収入101億円もいけるなどとは想像していなかったのです。
第2弾の興行収入173.5億円を記録した「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(2003年)は、製作に、フジテレビに加えて「アイ・エヌ・ピー」という会社が加わりました。この会社は主演の織田裕二の関連会社なのです。
このように、主演俳優の関連会社(所属事務所など)が出資をすることは以前からありましたが、ここ最近では新たな流れが出てきています。それは俳優の個人事務所化の流れです。
![画像6](https://eiga.k-img.com/images/buzz/115053/55e5eef34278ff08/640.jpg?1736482972)
かつて俳優は大きな事務所に所属し続ける傾向がありましたが、個人事務所を設立して独立する潮流ができつつあって、結果的に俳優自身が映画に出資する流れが生まれているわけです。
その結果、「主演俳優のモチベーションは最大限に上がって精力的に頑張る」といった図式ができて、宣伝攻勢は一気に増えるような仕組みができあがるのです。
このように見ていくと、基本的には現在の「俳優出資映画」の増加は製作サイドにとっても観客にもWin-Winの関係なのかもしれません。
本作はフランスのパリでのロケも行われていますが、制作費的にフランスロケは厳しかったようです。そこで、日本航空とタイアップして、少人数であればロケができる状況を作り出し、最小人数でのロケを行なったりすることで実現しているのです。
![画像7](https://eiga.k-img.com/images/buzz/115053/dbfbc1a5f6e6e2a1/640.jpg?1736482972)
制作費は4億円、宣伝費などのP&A費が3億円と想定すると、映画だけでリクープするには興行収入14億円が目処になります。
「料理映画」はそんなに多くないことに加えて成功例も少ないのですが、まさにテレビ東京の深夜ドラマの関連で「劇場版 きのう何食べた?」(2021年)があります。こちらは「男性同士の微笑ましい日常を描く」といった特徴のある作品ではありますが、タイトルのようにキチンとした「料理映画」でもあって、興行収入14.1億円を記録しています。
また「グランメゾン・パリ」の方は想定通り興行収入30億円を狙えるような出だしになっていますが、こちらは「料理映画」でも“料理を作る”作品です。そのため、本作で“料理を食べる”作品のポテンシャルを見極めることができそうです。果たして想定の目標興行収入14億円にどこまで近付けるのか大いに注目したいと思います!
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