映画は「男性のまなざし」に満ち、実生活にも影響をもたらしている 3作品が日本初公開、ニナ・メンケス監督インタビュー
2024年5月11日 10:00
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研ぎ澄まされた映像世界によって、アメリカ映画界の中でも唯一無二の存在として1980年代初頭から現在まで活動を続けてきた女性監督、ニナ・メンケス監督の作品が5月10日から公開される。このほど日本で初めて紹介されるのは、初の長編「マグダレーナ・ヴィラガ」と代表作「クイーン・オブ・ダイヤモンド」の劇映画2本、そしてドキュメンタリー「ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー」の3本だ。メンケス監督が自作を語ったインタビューを映画.comが入手した。
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私の他の作品は内なるプレッシャーのようなものに駆り立てられて作ることが多いのですが、本作は逆でした。私は大学で映画の授業を受け持っており、本作で描かれているようなことを教えていて、それは学生のみに向けたレクチャーのつもりでした。しかし、EEOC(雇用機会均等委員会)での告発や#MeTooムーブメントが広がり、レクチャーをもとに記事を執筆してくれないかとの話がありました。映画の中にも登場する「映画の視覚言語」「性虐待」「雇用差別」のトライアングルについて打ち出したところ、次はこのテーマで映画を作ってほしいとの依頼があったのです。つまり、これまでの劇映画とは違い、本作は外部からの呼びかけで製作したのです。
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実は、アメリカにはフェアユース(公正利用権)というものがあり、文化的、歴史的な目的などといった五つの点をクリアすれば、映画の短いクリップを使用する権利があります。ただ、「どのように使用するか」は重要で、例えばイングマール・ベルイマンの映画のシーンを「格好よくなるから」などの理由で自分の映画の中で使用する際はお金を払わなくてはいけませんが、本作のように引用し、もともとの映画がある種「変換されている」形であれば、費用もかからないのです。クリップに関して、「こんな使い方をしないでくれ」という監督は誰もいませんでした(笑)。
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私と一緒に映画を作る前、若い頃はよく絵を描いていました。確か17歳ぐらいの時にはベルリンのギャラリーで作品が展示されたこともありました。私たちは5本の映画を一緒に作り、他の作品もぜひ日本で上映して頂けたらと思っています。ティンカはとても素晴らしく、ユニークで、映画の中で力強い存在感を放つ人です。「クイーン・オブ・ダイヤモンド」の時は主演女優としてだけでなく、編集作業にも参加していました。ティンカは今残念なことに重病を抱えており、活動はできていません。
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昨今の映画ですと、ジョーダン・ピールの「NOPE ノープ」はとても実験的な作品だと思いました。また、アリス・ディオップの「サントメール ある被告」は素晴らしかったです。少し前だとアニエス・ヴァルダの「冬の旅」なども。10代の頃に見た作品で印象に残っているのはアラン・レネ「去年マリエンバートで」やミケランジェロ・アントニオーニの「赤い砂漠」などです。アントニオーニ監督は、全作品に影響を受けていると思います。フェデリコ・フェリーニの「8 1/2」は何度も何度も鑑賞しました。よく「マグダレーナ・ヴィラガ」はシャンタル・アケルマンの「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」からの影響を指摘されているのですが、実は見たのは「マグダレーナ・ヴィラガ」を作った後のことで、「クイーン・オブ・ダイヤモンド」は確実に影響されていると思います。
映画以外ですと、実存主義の作家、例えばカミュや、シュルレアリストの作家たちが好きです。マックス・エルンストやアンドレ・ブルトンなど男性のシュルレアリストたちを最初に知ったのですが、80年代後半にフリーダ・カーロはじめ女性のシュルレアリストたちの作品を知り、感銘を受けました。また2011年にロサンゼルスのLACMAで、北米では最大級の女性シュルレアリストたちの展覧会「In Wonderland: Surrealist Adventures of Women Artists」が開催され、自分と波長の合うアーティストがこんなにいたのだと感激しました。ちょうどバーバラ・ローデンの「WANDA/ワンダ」の上映があったのも同じ頃です。それまで、どれほどの女性作家たちが知られないまま来ていたのかと思い、深く考えさせられました。
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今まで観客にこういう風に受け取ってほしいと思って映画をつくったことはただの一度もありません。皆さんがそれぞれ、異なったリアクションをしてくれるのが一番嬉しいです。私はこれからも自分の心に従い、内なる情熱に駆り立てられて映画を作っていくだけです。
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