「ダム・マネー ウォール街を狙え!」は経済や投資のニュースがより分かるようになる映画だった! オススメしたい3つの理由とは?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2024年2月3日 07:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末の2月2日(金)から、「実話」を描いた経済系の映画「ダム・マネー ウォール街を狙え!」が公開されました。
この作品は、できれば見ておいた方が良いと、素直におススメできます!
大きな理由は、以下の3点になります。
1つ目の理由は、「経済系映画“なのに”わかりやすい」ということ。
まず、「経済系の映画」というと、正直なところ「難易度が高い作品」がこれまで多くありました。
例えば、2008年の「リーマン・ショック」へとつながる、2007年のアメリカ発の金融危機の構造を投資の視点から見事に描き出した実話「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年)が象徴的なのかもしれません。
この作品は、第88回アカデミー賞で、作品賞、監督賞など主要5部門でノミネートを果たし、「脚色賞」を受賞した名作です。
ただ、悲しい事に、せっかくの「名作」かつ「面白い作品」なのに、経済の知識がないと「難解すぎる」となってしまう面がありました。
その点、本作「ダム・マネー ウォール街を狙え!」は、経済知識がほとんどなくても十分に分かりやすいのです!
2つ目の理由は、「物語として面白い」ということ。
本作「ダム・マネー ウォール街を狙え!」は、「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年)と同様に「実話」です。
しかも、2020年以降のコロナ禍を舞台とする“つい最近のアメリカ経済の話”なのです!
とはいえ、「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のように「主人公が難しい投資をするんでしょう?」といった冷めた声も聞こえてきそうですが、本作の主人公・キースは「等身大」なのです!
実店舗によるコンピュータゲームの世界最大の小売店「ゲームストップ」の株価が安すぎて、“もっと評価されるべき”と考えていたキース。そんな彼が大好きな「ゲームストップ」の株を購入するということが物語の始まりになっています。
つまり、このようにベースは身近な話なのです。
そもそも、なぜ「ゲームストップ」の株価が安かったのかというと、オンラインゲームの普及によって顧客流出が続き、赤字経営だった面があるからなのです。
加えて、主に富裕層から資金を集めて運用する「ヘッジファンド」という存在が重要なキーワードになっています。
その「ヘッジファンド」が「ゲームストップ」の株に対して、「こういう時代遅れの会社は遅かれ早かれダメになるだろう」と大量に「カラ売り」を仕掛けていたのです!
「カラ売り」というのは、映画の中でも簡単に説明はありますが、「ゲームストップの株を持っていないのに、株を大量に売ること」です。
では、どうしてそんな“手品のようなこと”ができるのでしょうか?
それは、単純なカラクリで、証券会社などに「借り賃」を支払って、証券会社などが持っている「ゲームストップ」の株を借りるのです。
そして、その借りた「ゲームストップ」の株を、大量に株式市場で売ってしまうのです。
売られる規模が大きければ大きいほど、株価は下がる方向に向かうので、過度に「ゲームストップ」の株価が低くなっていた面もあったわけです。
ちなみに、「カラ売り」をしている「ヘッジファンド」などは、「ゲームストップ」の株価が下がれば下がるほど儲かることになります。
なぜなら、ものすごく安くなったところで買い直して、その安く買い戻した株を、借りた証券会社に、そのまま返せばいいからです。
つまり、通常の株式投資は、「安い時に買って、高い時に売る」というのが基本ですが、応用形として「高い時に(借りた物を)売って、安い時に(借りた物を)買い戻す」という「カラ売り」という方法があるのです。
実は、ここで“主人公のような「一般人」”VS“富裕層代表のような「ヘッジファンド」”といった構図が生まれることになります。
通常であれば、前者に勝ち目はなく、後者が勝つと決まっているような資産規模の違いがあります。
ところが、今やネットで個人が情報発信をリアルタイムで流せるようになってきています。
その結果、かつてのように、必ずしも「富裕層が絶対に勝つ!」とも言えなくなってきている。そんな状況が、この映画で描かれた実話を見ることでよく分かるのです!
ちなみに、「ダム・マネー」とは、直訳すると「愚かなお金」という意味ですが、意訳すると(富裕層サイドから見る)「一般人のお金」といった意味合いです。
さらに、本作をおススメできる3つ目の理由は、「映画」としての完成度にあります。
本作の原作者は、ベン・メズリック。「Facebook」の設立とそれに伴う訴訟を描いた映画「ソーシャル・ネットワーク」(2010年/第83回アカデミー賞で作品賞を含む主要8部門ノミネート、「脚色賞」を含む3冠)の原作も手掛けています。
そして、脚本家のローレン・シューカー・ブラムとレベッカ・アンジェロは、元々は経済専門新聞「ウォール・ストリート・ジャーナル」の記者。原作とは違った人物を追加で独自にリサーチしたりと、より多様性を持たせることに成功しています。
メガホンを取ったのは、クレイグ・ギレスピー監督。第90回アカデミー賞で主演女優賞、編集賞などでノミネートされ、「助演女優賞」受賞をした「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」(2017年)、ディズニーの「101匹わんちゃん」の悪役クルエラの若き日を描いた名作「クルエラ」(エマ・ストーン主演/第94回アカデミー賞「衣裳デザイン賞」受賞)などを手掛けています。
主人公のキース役は、地味ながらも演技の振れ幅の大きい名役者・ポール・ダノが演じています。
ポール・ダノといえば、例えば「THE BATMAN ザ・バットマン」(2022年)で敵役のリドラーを不気味に演じたりするのも有名です。
ただ、本作では、アカデミー賞受賞作として有名な「リトル・ミス・サンシャイン」(2006年)の時のように等身大の主人公になりきっています。
以上が本作の大枠となりますが、最後に「知っておいた方が良い雑学」を紹介しておきます。
まず、本作の重要な登場人物として、「ロビンフッド」という「証券取引アプリ」を運営している証券会社のトップ2人が登場します。
驚くべきは、この「ロビンフッド」というアプリを使って株式投資をすると、売買手数料が無料になる、という点です。
本編でもその理由に触れるくだりはあるのですが、そこは正直にいうと、やや駆け足で描かれていて分かりにくいので補足しておきます。
厳密にいうと、表面上の「売買手数料無料」という仕組みなのです。
具体的には、「100ドルでA社の株を買いたい」という注文が入ると、「99.9ドルでA社の株を売りたい」という注文を見つけ、その差額を証券会社の儲けとする仕組みになっているわけです。
また、本作は、主人公が全財産を「ゲームストップ」の株に投資して、それをネットなどで広めるわけですが、徐々に大きな力となっていきます。
ただ、これらの行為は、「株の相場を操縦する」という行為に当たる可能性があって、証券詐欺で逮捕されるリスクもあるのです。
ここら辺を考えやすくなるように具体例を紹介しておきましょう。
例えば、私は、日経平均株価は、今年くらいに「史上最高値」になると、1年以上前から想定して語ってきています。
最近はようやく「バブル後の最高値」という報道がされるようになってきていますが、「バブル後の最高値」であるだけでなく、「史上最高値」です。
つまり、日経平均株価が、これまでの最高値である1989年末に記録した「3万8915円」を超えると思っています。
そこで、例えば、昨年の夏には書き上げていた『つけるだけで「節約力」がアップする家計ノート 2024』(2024年1月~2025年3月末用)の巻末にある10Pの解説では、それを誰にでも理解できるように書いています。
では、実際に日経平均株価が「3万8915円」を超えるとすると、私が罪に問われるのか、というと、それはならないと思います。
というのも、為替相場や日経平均株価のように、動かすのがあまりに巨額な場合では、個人がどう騒ごうが、どうにもならないからです。
それでは、本作のように1企業の場合はどうなのでしょうか?
これは本作を見ると、グレーゾーンにある気がします。
実際に主人公は影響の大きさ等も考慮され、アメリカの下院による公聴会に呼ばれます。
これまでの映画では、主人公が議会の公聴会に呼ばれるシーンでは、マスコミのフラッシュと議員に取り囲まれるような重々しいシーンとなっていました。
ところが、本作では、オンラインでの参加になっていたのです!
これは本作の舞台がコロナ禍であることからなのでしょうが、こういう方向に今後は向かう可能性もあるわけです。
ここからはネタバレにつながるので言及は避けますが、本作の事例によって、新しい経済社会が生まれつつあるのは確かなようです。今後を考える意味でも見ておきたい重要な1本だと言えるでしょう!
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