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【インタビュー】叶井俊太郎氏、「同期」に語る死と向き合う覚悟と正直な思い

2023年12月26日 20:00

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取材に応じた叶井俊太郎氏
取材に応じた叶井俊太郎氏

余命半年と宣告されてから約1年半、叶井俊太郎はいつ果てるとも分からない命を燃やし続けている。ステージ4のすい臓がん。現在も月に1本、多い時には2本の映画のプロデュース、宣伝に携わり、公開予定作品は25年春まで控えている。数々の異色作を世に放ち、成功も大失敗も経験してきた映画業界の異端児は、がんが見つかってから二度目の年を越そうとしている今、何を思うのかを問うた。30年余の時間を共にしてきた「同期」として、敬称略でつづることをご了解いただきたい。(取材・文/鈴木元

「もうぶっちゃけ、未練はないんでね。本当は早く死にたいんだよ。でも、人間なかなか死なないね」

諦めとも潔さとも取れるぶっきらぼうな叶井らしい発言は健在。声に張りもある。だが、30キロ近くやせたという体から覇気は伝わってこない。トレードマークともいえた全指にしていた指輪もなく、服もダボダボだ。12月16、17日に開催された「第1回東京国際叶井俊太郎映画祭」では4回のトークショーを行い表舞台に立ったが、本来の自分ではないことに憤りを感じているようだった。

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「体に不調が出るのがイヤなんだよ。痛みはないけれど、だるくなったり集中力が切れたり、通常の自分じゃない状況になるのが凄くイヤ。だるい時にはスマホも見られないくらいだから、それだったら早く終わりたい、みたいな方が強いね」

すい臓がんが見つかったのは昨年6月。黄疸(おうだん)が出たため周囲に薦められ病院に行き、内視鏡検査を二度受けた。二度目の検査結果は、夫人で漫画家の倉田真由美さんと聞きに来るように言われ、ステージ3で余命半年と告げられた。

「8オピニオンくらい回って抗がん剤の話もいっぱい出たんだけれど、治療法としては抗がん剤で小さくして手術で取り除く。でも、半年くらいやらなければいけなくて、その間に個人差はあるけれど毛は抜けるし衰弱もする。そこまでやっても成功するのが10~20%って言われたんだよね。俺は10~20%には懸けられないと思った。もうそこで覚悟を決めて、できることをやろうと思って仕事を全部前倒しでやることにした」

倉田さんも「弱って衰弱するよりは、今は元気だからこのまま日常生活をやっていこう」と賛同。以降、通常通り会社に出勤し、業務をこなしている。体には相当こたえるはずだが、なぜそこまでのモチベーションを維持できるのか。

「基本、ステージ4の末期がんの人は病院で寝込んでいるよね。自分的には、何もしないでボーっとしていても時間が過ぎるだけで何も楽しくない。家にいても気分転換にならないし、動いていないと落ち着かないというかね。でも、しんどいよ。できることなら行きたくない。でも、今は会社に滞在できるのは1~2時間かな。疲れやすいし、夕方になってくると完全に動かなくなる」

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これまで、NKT細胞標的治療など厚生労働省が認可していない免疫治療は受けた。今年の夏には胃を半分切って食道と小腸をつなぐバイパス手術をした。食事も現在は1日1食で、おかゆやお茶漬けなど消化のいいものしか食べられなくなっている。

「がんが超でかくなって、臓器を圧迫していたから。だんだん弱ってはきているし、それが効いたかどうかも分からないけれど今1年半たっているから、もしかしたら効いているのかもしれない。7月に検査した時は年内もたないって言われたけれど、もっちゃうのかなあ」

そんな中で開催された叶井俊太郎映画祭。かつての同僚や部下が尽力して作品を集めた。中でも「ムカデ人間2」はカラー版が世界初上映となったことは僥倖(ぎょうこう)といえる。これには素直に喜びと感謝を口にした。

「皆さんのおかげだよね。監督や役者の人ならまだしも、裏方の名前で映画祭なんてあまりないから、けっこうウケたしありがたい限りですよ」

今月8日に封切られ全国順次公開中の「恐解釈 桃太郎」のエンドロールには「叶井俊太郎に捧ぐ」のクレジットが入れられた。今後、手掛けた作品には全て同じようにしていくそうで、これも叶井なりのエンディングノートなのだろう。一方で、残されることに家族への思いはどうか。

「ないです。好きに生きろと。娘も中2だけれど俺は早く死にたいんだとずっと言っているから『分かった、分かった』って感じだよ」

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叶井といえば、「いかレスラー」(2004)や「日本以外全部沈没」(2006)など河崎実監督作品のプロデュースをはじめ、「キラー・コンドーム」(1999)などいわゆる“ゲテモノ系”の宣伝に定評があった。アルバトロス・フィルム時代に手掛けた「アメリ」(2001)も、「デリカテッセン」(1991)などのジャン=ピエール・ジュネ監督の新作という資料だけで同系列の作品と思い買い付けたものだが、フタを開ければほぼ単館のスタートから拡大し興収16億円というまさかの大ヒット。いまだにその理由は分からないとしつつ、さらに意外な発言が飛び出した。

「実を言うとさあ、フランスでオリジナル版は見ているんだけれど、日本語字幕版は見ていないんだよ。試写会は混んでいるし、イベントをやっても裏方だから立ち会わなきゃいけない。いつか見たいなとは思っているんだけれど、まあ見ないだろうな」

常々、「(自身が担当する)作品に思い入れがないからね」とうそぶくが、映画を見ること自体は好きだ。今でも極力映画館には足を運び、最近では「SISU 不死身の男」がお気に入りだという。だが、そのためにつらい現実も目の当たりにしている。

「ネットでニュースを見ていると映画の宣伝をするじゃん。あれ、あまりやってほしくないんだよね。『マッドマックス』や『エイリアン』の新作とか。見たくなっちゃうから。来年の夏頃の映画になると微妙、多分生きていないだろうなって。見たい映画が多すぎるから、やめてくれと」

映画の宣伝を生業にしている人間の言葉としてはNGだが、現在の状況を鑑みればむべなるかな。ここにも目前に迫った死と向き合う覚悟と正直な思いが垣間見えた。

「もう、なるようにしかならんからね。月に1回は病院に行くけれど、治療はしないでくれって言っている。俺的には治っちゃうのがイヤだから。安楽死したいくらいだよ」

だから、「頑張って生きようよ」などと気休めのような言葉はかけられない。しかし、叶井の“ラストシーン”はしっかりと見届けたいという思いを強くした。


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