【インタビュー】この作品をあなたに託したい――生田斗真が受け取った「渇水」制作陣の思い
2023年6月1日 09:00

凄まじいまでの脚本の力、いや、この物語を映画にしたいという強い思いが、彼らの心を揺り動かした――。
1990年に文學界新人賞を受賞し、芥川賞候補にもなった河林満の小説「渇水」が30年以上の時を経て映画化された。監督を務めるのは、相米慎二、市川準、森田芳光、阪本順治ら錚々たる監督たちの下で助監督を務めてきた高橋正弥(※高ははしごだか)。そんな彼が原作に惚れこみ、10年以上前から脚本家の及川章太郎とともに時間をかけてつくり上げたのがこの「渇水」の脚本だった。
当初、なかなか資金が集まらず、脚本のクオリティへの評価の高さとは裏腹に映画化への道は難航していたが、紆余曲折を経てその脚本は「孤狼の血」シリーズ、「死刑にいたる病」などを手がけ、いまや日本映画界の最前線を走る白石和彌のもとへが届けられる。それを読んだ白石は、自身初となるプロデューサーという立場でこの企画の映画化に尽力することを決断。そして、白石をはじめ、制作陣が満場一致で主演を託したのが、生田斗真だった。(取材・文/黒豆直樹)
市の水道局に勤める岩切俊作は、水道料金を滞納している家庭や店舗を回り、料金徴収および水道を停止する「停水執行」の業務に就いていた。日照り続きの夏、市内に給水制限が発令される中、貧しい家庭を訪問しては忌み嫌われる日々を送る俊作。妻子との別居生活も長く続き、心の渇きは強くなるばかりだった。そんな折、業務中に育児放棄を受けている幼い姉妹と出会った彼は、その姉妹を自分の子どもと重ね合わせ、救いの手を差し伸べる。

今回のお話をいただいた長谷川(晴彦)プロデューサーとは「ひとよ」でご一緒していたのですが、当時から「プロデュース業にもチャレンジしたい」という話をしていたんです。それで長谷川さんから「読んでほしい本がある」と言われて「あ、これ知ってます」という感じでした。まわりまわって僕のところに巡ってきたので、自分にお手伝いできることならばと思いました。
顔合わせで皆さんにお会いしたとき、熱っぽくこの映画への思いを語られていて、長年温めてきたこの映画を絶対に成功させたいと。そこで「この作品をあなたに託したい」と言っていただいて、僕にとってこんなに嬉しいことはなかったです。ぜひご一緒できればと返事をしました。
そこで懐深く受け入れて「やります」と言ってくださって。毎回、映画を作るたびにどこかで作品が動き出す瞬間というのがあるのを感じるんですけれど、この作品に関しては間違いなくあの瞬間――生田さんにお会いした時でした。


磯村(=磯村勇斗/岩切の同僚・木田拓次役)君との軽バンでの移動のシーンを撮っていく中で、車中に充満するあの空気感を共有できて、一歩ずつ確かに歩みを進めているという感覚がありましたね。
ラストの在り方なんかは、原作との一番の違いであって、読後感は違うけど、そこは高橋さんがずっと温めて「こういう結末を」と作っていったところです。僕はもしかしたら、もっと違うラストもあるのかもしれないと感じる部分もあったけど、河林さんが書いた頃よりも厳しい時代だからこそ、ああいうラストがこの映画にふさわしかったのかなと今になって思います。
監督からは、あまり彼女たちとコミュニケーションを取らないでくれとオーダーされていました。だけど無邪気な子たちで「虫がいる」とかアピールしてくるわけです(笑)。「かわいいな」と思いつつ、「しゃべるな」と言われてるし(笑)、距離を取ったりして、心苦しかったんですけど、それは岩切が水道を停める際の、情が移らないように「規則だから」とやっていくのと似ていて、狭間で揺れる感覚を掴めた気がします。

「渇水」というのは、そういう意味で僕の作品でもあるけど、ライバルというか目標になる作品でもあって、ティザーの生田さんも素晴らしい表情だし、こういう表情をされてる生田さんは、これまで誰も撮れていなかったと思います。「湯道」も「土竜の唄」も素晴らしいけれど、生田さんの魅力をまた別の角度から撮れたのは誇らしくもあり、うらやましくもあります。
その白石さんが監督ではなく初めてプロデューサーいう立場で新しいことにチャレンジする――そんなワクワクすることはないなと。そのチャレンジに一緒に乗って、戦ってくれと声をかけてくださったことが本当に嬉しかったです。監督と俳優という関係で、またどこかで交わることできたらいいなと本当に思います。
「渇水」は6月2日から全国公開。
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