林海象監督、鈴木清順監督「殺しの烙印」の魅力は「若さとチャレンジ精神」 リスペクトバージョン製作にも意欲
2022年11月6日 09:00
日活の創立110周年を記念した特集上映「Nikkatsu World Selection」が開催中の東京・シネスイッチ銀座で11月5日、第79回ベネチア国際映画祭クラシック部門で、アジア映画として初めて最優秀復元映画賞を受賞した鈴木清順監督の「殺しの烙印」4Kデジタル復元版が上映され、林海象監督が国立映画アーカイブ主任研究員の大澤浄氏とトークを行った。
「殺しの烙印」(67)は宍戸錠演じる敏腕スナイパーの花田が、殺し屋No.1の座に挑む様を描く異色のハードボイルド劇。大澤氏は「鈴木清順監督の日活時代最後の作品。当時の社長から不評で、鈴木監督は日活との契約が打ち切りになりましたが、清順絶頂期の1本と言えるでしょう」と公開時の背景を説明する。
今回のデジタルリマスター版を鑑賞した林監督は、「劇場で観たのは45年ぶり。改めて初めて見たような新鮮さがあった」と感想を述べる。ジャン・ルノワール、ピエル・パオロ・パゾリーニ、エドワード・ヤン、小津安二郎らの作品の中から本作が最優秀復元映画賞を受賞したことについて、「これが一番わからない映画だったからではないでしょうか(笑)。話は単純なのに、何かありそうな感じ。清順さんはジャンプ、空白、余白のカットが多く、その上説明をしないので、観る人が想像できることが観客にウケたり、今でも新鮮さを感じられるのでは」と本作の魅力を語る。
林監督は86年に手がけた自主制作の長編デビュー作「夢みるように眠りたい」で、多くの鈴木清順作品を手掛けた美術監督の木村威夫氏が参加したことから鈴木監督と交流があり、また「私立探偵 濱マイク」シリーズで宍戸を起用するなど、「殺しの烙印」をはじめ、日活映画、鈴木清順監督作に深い思い入れがあると明かす。
若き日に、深作欣二監督の「仁義なき戦い」シリーズと鈴木清順監督に大きな影響を受け、「清順さんになりたかった時期もあった」というほど心酔していたという林監督。「良い映画は期待を裏切らないパターンのものもありますが、清順さんの映画はその逆で、裏切って、新しい描写を提案してくれるのが刺激的」とその特徴を挙げ、27歳の時に「夢みるように眠りたい」で、清順監督作の美学を共に作り上げてきた木村氏に自ら台本を持って美術を依頼、木村氏も美術監督デビューが27歳だったことから引き受けてもらえたという逸話を披露した。
大澤氏は「『殺しの烙印』に木村さんのクレジットはないですが、木村さんのチーフ助手だった川原資三さんにアドバイスをされていて、木村さんのアイデアも入っているはずです」と付け加え、「清順さんも木村さんも、若い人たちに自分で映画を作ってみようという勇気を与えたり、その手伝いをされていたということが今、清順さんの作品を見直す大きな意義のひとつ」と話す。
林監督は「みなさん若い時代から映画を作っている人達だったので、若者に対する理解力が高かった。みんな僕らに親切で、権威主義なところがなく、宍戸錠さんも日活の気風がそうだった」と振り返る。そして「『殺しの烙印』は、日活の持っている若さとチャレンジ精神で、新しいものをつくりだそうと、宍戸錠さんと組んだ作品です。それが、当時の本体には受け入れられなかったかもしれない。でも、その後時間が経って、ベネチアで復元賞を受賞して。今回、ベネチアの審査員が若い人だったと聞いています。この映画は若い人たちにビビッときたということ。清順さんや日活の持っていた若さがこの映画に残っていて、それが現代においても伝承できる力がある、その証明だと思う」と持論を語る。
その後、「濱マイク」シリーズでの宍戸さんとの思い出、「殺しの烙印」での役柄、撮影所のスタッフたちの高い技術力などについて語り合い、「僕の映画ができたのは日活映画のおかげ。日活の若さや自由さを勝手ながら踏襲した」「『殺しの烙印』もいつかリメイクしたいと思っていて、今回また注目されたので、リスペクトバージョンを作ってみたい」と、鈴木清順監督と日活映画への愛を伝え、「(『殺しの烙印』の再評価は)宍戸さんもとても喜んでいるんじゃないでしょうか。もしお元気だったら、今きっと、ここにいらっしゃっていたと思います」とトークを締めた。
特集上映では、「殺しの烙印」のほか、「神々の深き欲望」(今村昌平監督)、「(秘)色情めす市場」(田中登監督)、「幕末太陽傳」(川島雄三監督)、山中貞雄監督「丹下左膳余話 百万両の壺」と「河内山宗俊」、田中絹代監督の「月は上りぬ」「乳房よ永遠なれ」の8本が上映される。11月10日まで。以降全国順次公開。
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