話題作「ブレット・トレイン」は「円安」で目標興行収入が増える?減る?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2022年9月1日 10:00

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
9月1日(木)から、ブラッド・ピット主演の「ブレット・トレイン」が公開されます。
「日本発の原作がハリウッドで実写化か?」という話は割と話題にのぼりますが、実際に作品として「完成」にまでこぎつけるケースは意外と少なく、制作途中でとん挫するケースが多くなっています。
ただ、これは「日本のコンテンツ」に限った話でもなく、ハリウッドが「常に映像化作品を探している過程」で、有力なコンテンツの「映像化の権利」を手当たり次第に押さえていく状況で生まれる結果に過ぎません。
そんな中、伊坂幸太郎による「マリアビートル」(2010年発売)がハリウッドで無事に実写化され、「ブレット・トレイン」という名前には変わったものの2022年にソニー・ピクチャーズによって世界中で大規模公開が実現しました。

私が驚いたのは、大きく2点。
1つ目は、伊坂幸太郎作品は、日本での映画化は、2006年公開の「陽気なギャングが地球を回す」からブームになり始め映像化がどんどん進んでいましたが、興行収入の面では2010年の「ゴールデンスランバー」の11.5億円がピークで、下火になっていた状況化でハリウッドが動いた点。
2つ目は、ブラッド・ピット主演という大きなスケール感で実現できた点です。
もしも本作が世界的に大ヒットを記録すれば、面白い形で日本のコンテンツが見直されるだろうと考えられます。
本作の舞台は、原作と同様に「日本」ではありますが、不幸にして新型コロナの流行により渡航制限が出たこともあり、2020年11月16日に始まった撮影はアメリカで特設スタジオを組む形で行われています。
そのため、「なんちゃって日本」になっているのが懸念材料としてあります。
しかも、「原作では登場人物が日本人」ですが、本作では、多くが外国人になっています。
タイトルからも分かるように、物語の舞台は、基本的には「日本の新幹線」なのですが、乗客がほぼ外国人になっているなど、日本人の視点から見ると違和感は残ります。
とは言え、このような超大作映画として日本が脚光を浴びる形になっているのは喜ばしいことだと私は考えます。


作品の出来については、見る人によって分かれるかもしれません。
一足先に7月15日からアメリカで公開されていますが、Rotten Tomatoesにおける批評家と一般層の評価は、それぞれ53%、76%となっています。(2022年8月31日時点)
これは、本作と同様に「R15+」指定で、割とハチャメチャだった「デッドプール2」でメガホンをとったデヴィッド・リーチ監督作品ということからも想定通りと言えるのかもしれません。


では、日本での興行収入はどのようになるのか――これは判断が難しい面があるため、ここから詳しく考察してみましょう。
まず、そもそも「日本」を舞台にしたハリウッド映画というのは、日本ではそれほど受けない面が出てしまっています。
それは、やはり「なんちゃって日本」になってしまうケースが多いため、違和感を持ちながら見ることになるからだと思います。
数少ない成功事例としては、2003年公開のトム・クルーズ主演作「ラストサムライ」、2006年公開のクリント・イーストウッド監督作「硫黄島からの手紙」あたりでしょうか。
これらは、キチンと日本人キャストを使い、違和感を持たずに見ることができた点が大きかったと考えられます。
この「日本人キャスト」というのは、私は非常に重要な要素だと考えます。

近年の興味深い作品に2021年公開の「G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ」がありました。
これは日本が主な舞台となった作品。約2カ月もの間、日本で撮影が行われています。
かなり「日本愛」を感じられる面は非常に好感を持てましたが、残念ながら、日本人キャストがそこまで多くはなかったのです。
「ブレット・トレイン」では、主役はブラッド・ピットが演じる「レディバグ」になっていますが、実は原作の「マリアビートル」では「木村」が主人公になっています。
そして、その「木村」を演じるのは、「G.I.ジョー 漆黒のスネークアイズ」では「嵐影富三郎」という日本人を演じたアンドリュー・小路となっています。
イギリス出身のアンドリュー・小路は、父親は日本人、母親はイギリス人なので、見た目には「日本人」に見えるのでしょう。
ただ、やはり日本語のイントネーションにどうしても違和感を持ってしまうのです。
もちろん、「ブレット・トレイン」では真田広之を筆頭にハリウッドで活躍している日本人キャストも登場しますが、せめて「木村」という重要な日本人役は、生粋の日本人であってほしい点が残念なところでした。

ハリウッドでは、イントネーションまで審査できる人材が乏しいのが課題としてありますが、ハリウッドにおける日本人の活躍が増える素地は出来つつあるように感じています。
このような面を踏まえると、本作を見る際には、日本語吹替版の方がいいのかもしれません。
マスコミ試写では日本語吹替版がなかったので判断はしにくい面はありますが、スムーズな日本語の方がストレスを感じないような気がします。
さらに内容面においても、字幕版よりも吹替版の方がいいのかもしれない、と思っています。
というのも、本作のウリは、「ハリウッドアクション」に加えて「ミステリー」要素もあるからです!
「ゴールデンスランバー」が象徴的ですが、伊坂幸太郎作品は、意外と内容が凝っています。そのため、邦画でも注意深く見ていないと、トリックのようなものが見えづらく混乱してしまう面があります。そのため、吹替版の方が内容が入ってきやすいのかもしれないのです。

このような面もあるため、本作の日本における興行収入は、正直、見通しにくいのです。
プラス面では、「日本発のコンテンツ」で、「設定上の舞台は日本」となっていること、「ブラッド・ピットが主演」となっていることなどがあります。
一方のマイナス面では「なんちゃって日本」な点に加え、「内容が意外と入り組んでいる」ことがマイナスに作用するのかもしれません。
本作は、8月23日にJR東海の全面協力によって「新幹線」を貸し切りにし、ブラッド・ピット、真田広之などが乗車し、(映画と同様に)東京駅から京都駅まで移動し、新幹線内で記者会見が行われたりしました。
京都でジャパンプレミアが開催されるなど、配給元は宣伝にかなり力を入れていました。
しかも、今は、異例な「円安」の状況なので、実は、本作のように「アメリカから来日イベントを行うのは、かなりコストが嵩む」ようになっているのです!
そのため、その分のコストも回収しないといけなくなるので、本作の目標興行収入はそれなりに高くなると想定されます。


個人的なイメージでは、プラス面から判断すると興行収入20億円は目指したい作品だと思いますが、意外と根深いマイナス面もあり、実際の興行収入は読みにくいのです。
しかも、ブラッド・ピット出演作は、直近では2019年の「アド・アストラ」が興行収入6億5337万円、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」はクエンティン・タランティーノ監督作で日本最高の11.8億円と、興行収入10億円というのが一つの目途になっています。
そのため、まずは興行収入10億円を無事に突破できるかどうかに注目したいと思います。
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