「ONE PIECE FILM RED」は興行収入で歴代最高となれるか?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2022年8月5日 07:00
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映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末8月6日(土)から「ONE PIECE FILM RED」が公開されます。
原作者である尾田栄一郎が「総合プロデューサー」として参加する作品となっています。
そもそも劇場版シリーズは、2000年の「ONE PIECE」から毎年公開されていました。
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しかし、尾田栄一郎が製作総指揮となった2009年の「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」から入場者特典として尾田栄一郎の描き下ろしコミック「ONE PIECE 巻零」(0巻)が配られるなどして、多くの原作ファンが動き、興行収入が48億円と一気に跳ね上がりました!
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2012年の「ONE PIECE FILM Z」は尾田栄一郎が総合プロデューサーになり、指揮をとった長峯達也監督のセンスも非常に良く、興行収入68.7億円と、現時点の「ONE PIECE」関連の映画で最高興行収入となっています。
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2016年の「ONE PIECE FILM GOLD」も尾田栄一郎が総合プロデューサーを務めました。ただ、この作品については興行収入51.8億円と、前作ほどには振るわずでした。
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そして、2019年の劇場版「ONE PIECE STAMPEDE」では、尾田栄一郎が監修として参加し、興行収入55.5億円となりました。
このように見ていくと、尾田栄一郎が関わる劇場版「ONE PIECE」は、興行収入50億円規模のポテンシャルは十分にあることが分かります。
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では、ここまでのデータを押さえたうえで今回の「ONE PIECE FILM RED」について考察していきましょう。
TVアニメ「ONE PIECE」の第1000話(2021年11月21日)の放送後に「ONE PIECE FILM RED」の公開情報が告知され、すぐにネットニュースになりました。
この時点では、これまでの結果を踏まえ、直感的には「興行収入50億円規模の作品かな」と思っていました。
ただ、この作品については、何か“世の中の空気感”のようなものが、これまでの作品と違っているような気もしていたのです。
そもそも私は、原作マンガの「ONE PIECE」を1話も読んだことがないので、原作ファンの動向が見えにくい面があります。
とは言え、劇場版シリーズはずっと見ているので、「原作ファンでない人がどのように劇場版に入り込むことができるのか」は、身をもって把握できているつもりです。
その流れで言うと、この「ONE PIECE FILM RED」は、原作ファンと、そうでない人との最初のリアクションは、かなり大きく変わることが分かりました。
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まず、「ONE PIECE FILM RED」の公開情報が出てきた段階で、原作ファン層から“ざわめき”のようなものを感じたのです。
それは“RED”という言葉と“REDの文字に入っている3本傷”のマーク。これは、赤髪の「シャンクス」というキャラクターを表していて、ここに原作ファンのざわめきがあったようです。
というのも、このシャンクスというキャラクターは、「ルフィが子供の頃に出会い、ルフィのトレードマークの麦わら帽子を預けた人物」であることを私も認識していました。しかし、それ以外では、実は100巻を超える原作マンガの中でさえ、ピンポイントでしか登場しない超レアな重要人物だったようなのです!
つまり、その“100巻待っていてもほとんど出ない人物”が、「いきなり映画で大きく登場するのか?」となり、原作ファン層で話題にならないわけがないのでした。
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そして「ウタ」という、ルフィと同じ年くらいの女の子が登場し、彼女は“シャンクスの娘”らしいということが予告編で流れています。
しかも、ウタは歌姫で、主題歌と劇中歌の全7曲が作られ、そしてその全てにミュージック・ビデオが制作されYouTubeチャンネルで公開される程の力の入れようとなっています。
ウタの声優は「ダブルキャスト」になっていて、声は声優の名塚佳織が演じ、歌声はAdoが担当しているのです。これが非常に自然で 「ダブルキャスト」という情報を事前に聞かないと分からないようなレベルでした。
本作は、“「ONE PIECE」初の音楽映画”とも言え、本編でウタがそれらの7曲を歌うのですが、それには全て意味付けがしっかりしてあり、必然性があるのも作品のクオリティーを上げている点でした。
このように、これまでの過去作品と違った構成になっていて、「映画のために作るべくして作り上げた作品」という意味合いが、より強くなっています。
そのため、本作の興行は、過去のポテンシャルでは測れないものになっていると感じています。
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では、ここで直近の2020年以降の現象を振り返りましょう。日本の歴代興行収入1位の404.3億円を記録した「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は少年ジャンプ作品の「鬼滅の刃」を初映画化したものでした。
同様に少年ジャンプ作品の「呪術廻戦」を初映画化した「劇場版 呪術廻戦 0」は興行収入138億円と、いきなり100億円という大台を突破しています。
それらを踏まえると、より映画興行においてもノウハウが多い「ONE PIECE」も、本作のような勝負作で一気にシリーズ過去最高の興行収入を記録することは可能だと思われます。
私は、本作のポテンシャルとしては、興行収入100億円という大台を超えるパワーを秘めていると感じています。
とは言え、「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」が、“初の映画化”で一気に記録的な興行収入を達成した、という視点は重要だと考えています。
例えば、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」については、原作における途中の物語でしたが、そこに至る全26話がハイレベルなTVアニメ化をしていて、それを短期間で見られたりとキャッチアップしやすかった面があったのです。
「呪術廻戦」にいたっては、「劇場版 呪術廻戦 0」と、そもそもの始まりの物語を描いていたので、TVアニメ版さえ見ていなくても楽しめる利点がありました。
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「ONE PIECE FILM RED」は「原作連載25周年記念作品」となっていることが象徴的ですが、アドバンテージとしては25年にもわたる「ONE PIECE」ファン層が多くいる点があります。
その一方で、私のように「途中から入るには高いハードル」と感じ、ほぼ原作を知らず、作品を理解しきれていない層が出やすい、というのも、先ほどの2作品とは大きく異なる点なのです。
「一見さん」に近い私から見た劇場版「ONE PIECE」シリーズの特徴としては、毎回、そこまで多くのキャラクターが登場せず、比較的、一見さんにも優しい配慮がなされているということがあります。
とは言え、原作で物語自体は進んでいるので、本作でもそうでしたが、初めて見る原作キャラクターが当たり前のように出てきます。
ただ、映像を見ていれば、「これは海賊ルフィの仲間」、「これは海賊の敵の海軍」などのように区分けしやすい面があり、それほど混乱せずに見ることができています。
本作では、ウタという新キャラクターの存在が「核」になっているので、原作ファンも、一見さんも、それほど区別なく見られる点はとても良いと思います。
そんな中、「ONE PIECE FILM RED」が異色だと感じるのは、あえてキャラクターを多くしているようなところです。
そのため、原作ファンは、かなり多くの発見があるでしょうし、一見さんも見れば見るほど様々なつながりが見えてくる構造になっていると感じました。
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本作は、これまでの作品とは大きく違い“「ONE PIECE」初の音楽映画”というイメージでいると、戦闘シーンが薄いようなイメージを持つかもしれません。ただ、それも杞憂となるほど、戦闘シーンもキッチリと描き続けています。
つまり、キャラクターの関係性の発見や化学反応の面白さ、音楽シーンの面白さ、アクションシーンの面白さ、といったようなものが妥協無く描き込まれていて、見る度に発見や面白さが増してくる部類の作品になっていると思います。
特に音楽映画の大きな特徴として「音楽映画は2度目以降で沁みる」という面があるので、音響の良い映画館で体感していけば、歌の感じ方に一番変化が生じてきそうです。
さて、少年ジャンプ関連作品の映画化は、入場者特典が充実していることが特徴の1つにありますが、配給会社が同じ東映の場合で考えると、直近の「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」は、第5弾まで入場者特典がありました。
そう考えると今回の、勝負作となりそうな「ONE PIECE FILM RED」においても、そのくらいあっても不思議ではないと言えそうです。
とりあえず断言できそうなのは、5回見ても飽きないどころか、より作品に入り込めるようになっていそうなことです。
そのため今回は、リピーターの背中を押してくれる入場者特典の効果が通常よりも出そうで、この効果を大いに注目したいと思います。
「ONE PIECE」の原作マンガはクライマックスの最終章に入っていますが、「ONE PIECE」の映画でも興行収入100億円級という新時代に突入することを期待したいです!
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