中島健人&松本穂香 会えない恋人を想像しながら積み重ねた、桜のような刹那の日々
2022年3月24日 09:00
「大号泣したこの小説の映画化のお話をいただいた時は、震えるような感動と同時にずっしりと重い責任を感じました。渡された映画の脚本は、僕の役者人生のなかでもっとも泣いた宝物のような脚本です。一文字一文字が桜の花びらのように、とても綺麗で……」
「僕の26年の人生の最高傑作にしたいと強く思っています」
本日3月24日から配信されるNetflix映画「桜のような僕の恋人」に主演する中島健人(「Sexy Zone」)の言葉からは、並々ならぬ覚悟と思い入れが感じられる。それもそのはず、本作はオファー前から中島が愛読していた同名小説(著:宇山佳佑氏)が原作であり、かねて映像化の際には出演したいと熱望していた。
「桜のような僕の恋人」という美しいタイトルを冠したこのNetflixオリジナル映画は、カメラマンを目指す主人公・朝倉晴人と、「人の何十倍も早く老いていく」という難病を抱える有明美咲の切ない恋を描いた物語。晴人を全身全霊で演じた中島と、非情な運命を背負った美咲という役に向き合った松本穂香に、話を聞いた。(取材・文/編集部)
美容師の美咲に恋をした晴人は、勇気を出して彼女をデートに誘う。目標に向かって頑張る美咲にふさわしい人間になるべく、諦めかけていたカメラマンの夢を叶えるため、再びカメラと向き合うことを決意する。しかし、美咲は「人の何十倍も早く老いていく」という難病を発症。好きな人と同じ速度で歳月を重ねることができない残酷な現実を前に、美咲が下した決断とは……。
中島と松本は、本作で初共演を果たした。まずは互いの印象と、共演の日々を振り返ってもらった。
続いてオファーが来たときの思いと、脚本を読んだ感想を聞くと、中島は「この1年間、この映画が控えているからこそ頑張ることができました。本当にこの作品に背中を後押しされていた1年でした」と、熱く語り出す。
そんな中島が扮する晴人は、「美咲にふさわしい男になりたい」と、一度は手放した夢に向かって奮闘する。松本が明かした通り、アイドル業、俳優業、そしてバラエティ番組など、どんな場面でも輝く天性の才能があることはもちろんだが、どんなことにも手を抜かない、努力家としても知られる中島。彼自身と晴人には、どこか重なる部分もある。
一方の松本は、本格的なラブストーリーへの出演は初めて。脚本に触れて、激しく胸を揺さぶられたという。
劇中で美咲が抱える病気は、実在する「ファストフォワード症候群」。まだ治療法は確立しておらず、発症すると食い止める術はなく、時間を早送りしているような経過から「ファストフォワード」(早送り)と呼ばれる。松本は、「私自身、大きな病気にかかったことがないので、『想像するしかないな』と思っていました。ですが、美咲として過ごす時間、一瞬一瞬を大事にして、嘘がないように作っていきたいなと思っていました」と言葉に力をこめる。
松本は、VFXも含めた特殊メイクチームのサポートで外見を変化させ、歩き方、声の出し方などで“速すぎる老い”を表現。その姿からは、心は25歳のまま、外見の変化に心がついていかない焦りや絶望、それでも晴人を思う切なさが痛切に伝わってくる。一方で、みずみずしさのなかに強さを秘める松本の演技が、絶望のなかでも人を思い、光を探す美咲の生命力を生み出している。
メガホンをとったのは、「神様のカルテ」など、繊細な心理描写に定評のある深川監督。撮影中は深川監督の提案で、中島と松本には、自分が登場しないシーンが空欄となった台本が渡された。「ともに過ごす時間」以上に、「会えない時間」が大きな意味を持つストーリーを踏まえ、「ふたりには会えない時間を想像してほしい」という深川監督の意向が反映された手法だったという。俳優たちはどのような思いを抱いたのだろうか。
今回は、中島の愛読書が映像化されたというドラマティックな経緯がある。そんな背景にちなんで、ふたりの読書スタイルや、本のなかで出会った「演じてみたい役」についても語ってもらった。
中島は、「黒崎くんの言いなりになんてならない」「ニセコイ」などのラブストーリーで主演を務めてきた。持ち前の華やかなオーラと、役に“憑依”し、撮影中はプライベートでも役を引きずることがあるというほどの徹底した役づくりで、漫画原作の濃厚なキャラクターを体現してみせた。それと同時に、「心が叫びたがってるんだ。」で見せたような、自身のオーラを封印した繊細な役を演じる豊かな表現力も持ち合わせている。サスペンス作品では、「フジテレビ開局60周年特別企画」で、何度も映像化されてきた松本清張の名作「砂の器」にも出演した。中島は「『砂の器』は自分のドラマのなかでも、上位で好きな作品です。ピアノも苦労しましたね」と振り返りつつも、重厚なミステリー作品へのさらなる意欲も見せた。
対する松本が好きなタイトルとして挙げたのは、西加奈子氏の「あおい」。
ドラマ「この世界の片隅に」で、3000人を超えるオーディションを勝ち抜き主役の座を射止めたあと、「おいしい家族」「わたしは光をにぎっている」「みをつくし料理帖」など、さまざまな時代の異なる役どころを自在に演じてきた松本。柔らかな佇まいながら、力強さを感じさせる彼女の演技は、率直で、あたたかな味わいのある西氏の作品とも相性が良さそうだ。
最後に、配信を心待ちにしているファンに向け、松本は「きっとどの世代の人にも何か響くような、優しくあたたかい映画になっていると思うので、大切な人とでも、ひとりでも、楽しんでもらえたらいいなと思います」とメッセージを託す。中島は「僕は大好きな作品が世界配信で映像化できたので、穂香さんと一緒にこの作品の花を、世界中のいろんな場所に咲かせて行けたらと思っています。ただただ、人が人を愛する作品。この春の季節に、おすすめです」と、彼らしい言葉で締めくくってくれた。