桜のような僕の恋人 : インタビュー

中島健人＆松本穂香　会えない恋人を想像しながら積み重ねた、桜のような刹那の日々

「大号泣したこの小説の映画化のお話をいただいた時は、震えるような感動と同時にずっしりと重い責任を感じました。渡された映画の脚本は、僕の役者人生のなかでもっとも泣いた宝物のような脚本です。一文字一文字が桜の花びらのように、とても綺麗で……」

「僕の26年の人生の最高傑作にしたいと強く思っています」

Netflix映画「桜のような僕の恋人」に主演する中島健人（「Sexy Zone」）の言葉からは、並々ならぬ覚悟と思い入れが感じられる。それもそのはず、本作はオファー前から中島が愛読していた同名小説（著：宇山佳佑氏）が原作であり、かねて映像化の際には出演したいと熱望していた。

「桜のような僕の恋人」という美しいタイトルを冠したこのNetflixオリジナル映画は、カメラマンを目指す主人公・朝倉晴人と、「人の何十倍も早く老いていく」という難病を抱える有明美咲の切ない恋を描いた物語。3月24日からの配信を控え、晴人を全身全霊で演じた中島と、非情な運命を背負った美咲という役に向き合った松本穂香に、話を聞いた。（取材・文／編集部）

美容師の美咲に恋をした晴人は、勇気を出して彼女をデートに誘う。目標に向かって頑張る美咲にふさわしい人間になるべく、諦めかけていたカメラマンの夢を叶えるため、再びカメラと向き合うことを決意する。しかし、美咲は「人の何十倍も早く老いていく」という難病を発症。好きな人と同じ速度で歳月を重ねることができない残酷な現実を前に、美咲が下した決断とは……。

中島と松本は、本作で初共演を果たした。まずは互いの印象と、共演の日々を振り返ってもらった。

中島「穂香さんは落ち着きがあって、清廉なイメージです。僕はこの作品に参加する前に、穂香さんの前情報を、あえてなくしました。穂香さんの演じる美咲さんの色を、別の情報で塗りつぶしたくなかったというのが大きかったです」

松本「中島さんは、とにかくプロという印象です。アイドルのときは“ザ・アイドル”という感じだし、バラエティのときはきっちり自分の役割を把握して、爪痕を残されていて。役づくりにも自分の考えを持っていらっしゃいますし、しっかりした方なんだろうなというイメージがあって、共演後も変わらなかったです。自分のなかに1本軸を持っていらっしゃる方なんだろうなという印象を、ずっと抱いています」

中島「穂香さんはクールで落ち着いたパブリックイメージがあるかもしれないですが、実際はものすごく考え方が柔軟で、物事に対しての取り組み方も実は熱くて。現場でもスタッフさんや、深川栄洋監督にも意見をおっしゃっている姿が何度も見受けられたので、ものすごくたくましい、なおかつかっこいい方なんだなと思いましたね」

松本「共演を終えて、すごく無邪気で少年みたいな面もあるし、すごく繊細な面もあるし、皆さんがイメージするような紳士な面もあるし……中島さんにはいろんな面があるなと思いました。スタッフさんのモノマネをしてふざけていたりもして（笑）」

中島「（大笑いしながら）すごい（モノマネを）やっていたよね。穂香さんもクセになってめっちゃ笑っていたよね（笑）」

松本「本番中にぶっこんできたりしました。そのシーンは使われていないですが（笑）」

中島「使われていないですけど、番外編です」

美咲を溺愛する兄・貴司を演じた永山絢斗

続いてオファーが来たときの思いと、脚本を読んだ感想を聞くと、中島は「この1年間、この映画が控えているからこそ頑張ることができました。本当にこの作品に背中を後押しされていた1年でした」と、熱く語り出す。

中島「オファーが来たときは、感動しましたね。僕はもともとこの作品のファンで、かつて（原作を）雑誌で紹介したときには、まさかこういう日が来るとは思っていなかったので、『言霊だな』と思いました。思ったことがあれば、言葉にしていくことも大切なんだなと思いました」

そんな中島が扮する晴人は、「美咲にふさわしい男になりたい」と、一度は手放した夢に向かって奮闘する。松本が明かした通り、アイドル業、俳優業、そしてバラエティ番組など、どんな場面でも輝く天性の才能があることはもちろんだが、どんなことにも手を抜かない、努力家としても知られる中島。彼自身と晴人には、どこか重なる部分もある。

貴司の婚約者で、美咲の良き相談相手でもある吉野綾乃に扮した桜井ユキ

一方の松本は、本格的なラブストーリーへの出演は初めて。脚本に触れて、激しく胸を揺さぶられたという。

松本「私はいままで、こういう本格的なラブストーリーに出演したことがなかったので、『あ、私でもこういった役のお話をいただけるんだ』という新鮮さがありました。脚本を読ませて頂いて、台本を読んですごく泣くということは多くないんですが、やっぱりすごく響くものがありました。何度読んでも泣いてしまう、あたたかい脚本だったので、新しいジャンルへのワクワク感とともに、良いものにしたいなと思いました」

劇中で美咲が抱える病気は、実在する「ファストフォワード症候群」。まだ治療法は確立しておらず、発症すると食い止める術はなく、時間を早送りしているような経過から「ファストフォワード」（早送り）と呼ばれる。松本は、「私自身、大きな病気にかかったことがないので、『想像するしかないな』と思っていました。ですが、美咲として過ごす時間、一瞬一瞬を大事にして、嘘がないように作っていきたいなと思っていました」と言葉に力をこめる。

松本は、VFXも含めた特殊メイクチームのサポートで外見を変化させ、歩き方、声の出し方などで“速すぎる老い”を表現。その姿からは、心は25歳のまま、外見の変化に心がついていかない焦りや絶望、それでも晴人を思う切なさが痛切に伝わってくる。一方で、みずみずしさのなかに強さを秘める松本の演技が、絶望のなかでも人を思い、光を探す美咲の生命力を生み出している。

晴人の先輩カメラマン・高梨健三役の柳俊太郎

メガホンをとったのは、「神様のカルテ」など、繊細な心理描写に定評のある深川監督。撮影中は深川監督の提案で、中島と松本には、自分が登場しないシーンが空欄となった台本が渡された。「ともに過ごす時間」以上に、「会えない時間」が大きな意味を持つストーリーを踏まえ、「ふたりには会えない時間を想像してほしい」という深川監督の意向が反映された手法だったという。俳優たちはどのような思いを抱いたのだろうか。

中島「演じるうえで知らないことがあるのは、とても良いことだと思いました。深川監督はずっと、『役者の仕事は忘れることだよ』と、僕に何度も何度も囁いてきたんです。実際に俳優は、脚本を読んで未来予測ができるから、その結末に対しての表情づくりをするんです。でも実際に人生を歩むうえで、未来予測なんてできるわけもなく、結末を知ることができるわけもない。俳優として役を演じるにあたり、そのリアルをどう表すかといったら、知らないふりをしないといけない。それがけっこう大変なんですよね。目の前で起こる出来事を知らないふりをする、気付かないふりをするということは、やっぱり難しいです」

中島「でもこの（空欄のある）脚本では、穂香さん演じる美咲さんが何をしているのか、全く分からなかった。逆にいうと、自分の人生をちゃんと生きられたんです。こんなに良い脚本制作があるんだ、素晴らしいなと思いましたね」

松本「私たちの気持ちを第一に考えてくれて、私たちのお芝居を見ようとしてくれる姿勢がすごく嬉しいなと思いました。『私たちじゃないとダメだ、このふたりだからこそ見たい』という姿勢でいてくださったからこそ、作品を作ることができました。私たちも新鮮で楽しかったですし、会っていない時間の大切さも改めて感じながらの撮影でした」

美咲の主治医・神谷役の要潤

今回は、中島の愛読書が映像化されたというドラマティックな経緯がある。そんな背景にちなんで、ふたりの読書スタイルや、本のなかで出会った「演じてみたい役」についても語ってもらった。

中島「僕はけっこう恋愛小説を読みます。興味のある分野はある程度読み切って、枯渇しているなかで、いろいろと書店巡りをしていました。『次はどんな世界があるのかな』と探した結果、この作品に出合えたんです。映像化されている作品を、事前に読んでいることも多いです。ミステリーやサスペンスも好きですね。最近のおすすめは、『純黒の執行者』（著：青木杏樹氏）。断罪前に必ず被疑者が亡くなり、実は担当した警察官が葬っているというサスペンス。法の下で裁かないといけないのに、その前に裁かれてしまう。裁いている人間にもちろん罪はあるんですが、裁く側にも気持ち、理由がちゃんとあるという……、面白いです」

中島は、「黒崎くんの言いなりになんてならない」「ニセコイ」などのラブストーリーで主演を務めてきた。持ち前の華やかなオーラと、役に“憑依”し、撮影中はプライベートでも役を引きずることがあるというほどの徹底した役づくりで、漫画原作の濃厚なキャラクターを体現してみせた。それと同時に、「心が叫びたがってるんだ。」で見せたような、自身のオーラを封印した繊細な役を演じる豊かな表現力も持ち合わせている。サスペンス作品では、「フジテレビ開局60周年特別企画」で、何度も映像化されてきた松本清張の名作「砂の器」にも出演した。中島は「『砂の器』は自分のドラマのなかでも、上位で好きな作品です。ピアノも苦労しましたね」と振り返りつつも、重厚なミステリー作品へのさらなる意欲も見せた。

晴人が師事する有名カメラマン・澤井恭介役の及川光博

対する松本が好きなタイトルとして挙げたのは、西加奈子氏の「あおい」。

松本「確かに『この役を演じたい』『この作品が実写化するんだったら、ちょっとで良いから関わりたいな』と思う小説はありますね。『これが好き』という特定のジャンルはあまりなくて、周りの人におすすめしてもらった作品を読んでいます。西加奈子さんの作品が多いですね。演じてみたいなと思ったのは、西さんのデビュー作『あおい』に出てくるさっちゃん。西さんの作品の登場人物は人間臭いというか、ちょっと不器用なところがあるけれど、素直なんです。そういう役をやってみたいなと思います」

ドラマ「この世界の片隅に」で、3000人を超えるオーディションを勝ち抜き主役の座を射止めたあと、「おいしい家族」「わたしは光をにぎっている」「みをつくし料理帖」など、さまざまな時代の異なる役どころを自在に演じてきた松本。柔らかな佇まいながら、力強さを感じさせる彼女の演技は、率直で、あたたかな味わいのある西氏の作品とも相性が良さそうだ。

最後に、配信を心待ちにしているファンに向け、松本は「きっとどの世代の人にも何か響くような、優しくあたたかい映画になっていると思うので、大切な人とでも、ひとりでも、楽しんでもらえたらいいなと思います」とメッセージを託す。中島は「僕は大好きな作品が世界配信で映像化できたので、穂香さんと一緒にこの作品の花を、世界中のいろんな場所に咲かせて行けたらと思っています。ただただ、人が人を愛する作品。この春の季節に、おすすめです」と、彼らしい言葉で締めくくってくれた。