【コラム/細野真宏の試写室日記】「余命10年」は、日本での“ヒットメーカー誕生”のきっかけとなるか?
2022年3月4日 10:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
3月に入った今週末3月4日は「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」と同時に「余命10年」も大規模公開されますが、「余命10年」で注目すべきは、“藤井道人監督作品”ということでしょう。
藤井監督の存在については、商業映画のデビュー作となった2014年の「オー!ファーザー」を見た時は私はスルーしていて、2019年の「新聞記者」でようやく認知するようになりました。
ただ、「新聞記者」は題材が特殊なだけに何とも評価しにくい監督という感じでした。
そして2020年の「宇宙でいちばんあかるい屋根」を見た時も未だ確信は持てませんでしたが、2021年の「ヤクザと家族 The Family」でようやく「あ~、これは凄い」と素直に才能を感じられました。
その次の長編映画で、しかも“初めての大規模公開作品”なので本作には期待していましたが、正直なところ、その期待を超えていました。
「余命10年」というタイトルだけだと、「以前に流行ったような映画だ!」と条件反射的に思ってしまいがちですが、この作品は、過去のどの作品とも違っています。
数万人に1人という確率の不治の病に罹ってしまい、10年も生きられない状況に主人公(小松菜奈)が立たされます。
ただ、主人公は、決して悲観的になり過ぎずに現実を生きようとします。家族以外の周囲には自分の境遇を知らせずに……。
藤井監督が、本作の仕事を引き受ける際に唯一出した条件は、撮影期間を1年間にして、四季を描きたいということだったようです。
確かに、桜もあれば海も雪山のシーンなどもあり、季節の移り変わりと共に月日を感じることができるようになっていました。
とは言え、これは簡単なようで、現実的には難易度の高い撮影方法だと言えます。
それは、通常の日本映画では1か月から1か月半くらいでまとめて一気に撮ってしまうもので、期間を空けると、その度にセットやスケジュールなどを組んだりしないといけなくなり、制作費は高くなってしまうからです。
それでも、手軽にCGでの処理で済ませることなく、1年という撮影期間をかけたものがキチンと出来上がったので、その価値は十分にあったと言えるのでしょう。
もちろん、それに応えるべく役者陣も頑張っています。
まず、そもそも「10年間を同一人物で演じ切るのは難しい」ということがあります。
ただ、本作では、主人公や同級生が21才からの約10年間を演じているため、たまたま「それほど大きくは見た目が変わらない時期」であったのも成功の一つのカギだったのかもしれません。
ちなみに、髪の毛の長さや髪型で時間を感じさせる手法でしたが、特に「髪の毛が目に入るくらいの長さ」だと、男性の場合は意外と判別が難しい、という発見もありました。
例えば山田裕貴は、かなり特徴的な顔立ちだと思っていましたが、最初の登場シーンでは、坂口健太郎と同様で判別しにくかったりもしていたのです。
そんな特殊技術などを駆使して、10年間という月日を、メインの小松菜奈と坂口健太郎、山田裕貴、奈緒らは見事に演じ切っていました。
また、映像表現も手慣れていて、アニメーション映画でよく使われる「桜の花びらが風に舞う印象的なシーン」があるのですが、それを見事に実写化もできていて、物凄く感慨深い良いシーンになっています。
さらには、「10年間」という月日を125分で体感できるのは、やはり冒頭から登場する“ビデオカメラ”という小道具も効いています。
そして、この映画はベースとなる実話が存在していて、それを参考にしながら作り上げている面があるので、何と言っても「物語の強さ」があります。
また本作では、時には言葉より雄弁に、劇伴と映像が語ったりもしています。
本作を見て改めて実感したのは、リアリティーの重要さです。
「奇跡」ばかりが映画ではなく、「奇跡が起こらない現実」にこそリアリティーが溢れていて、等身大の主人公らに素直に寄り添える面もあると思います。
演技×物語×演出のどれもが見事にハマった「名作」の誕生です!
さて、肝心な興行収入ですが、本作はコア層が広いはずなので、おそらく新型コロナの影響を受けにくい気がします。
そのため、まずは興行収入15億円は十分に狙えると思います。
ただ、それ以上となると、どれだけの口コミが集まるのかで広まり方が変わってくるので、大きなブームができるくらいまで広がって、藤井道人監督には大きな舞台で活躍してほしいと期待します。
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