劇場公開日 2022年3月4日

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余命10年 : インタビュー

2022年3月3日更新

小松菜奈×坂口健太郎、初共演の場で探求し続けた“本当に生きる”ということ

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1月24日、小松菜奈の瞳から涙が零れ落ちた。

映画「余命10年」のジャパンプレミアイベント。

全身全霊で生き抜いた「人生」が、多くの人々に届いた瞬間だった。

切なすぎる小説としてSNS等で反響が広がり、累計発行部数65万部を突破した小説「余命10年」。著者・小坂流加さんは、大学卒業後、難病を発症するが、長年継続してきた執筆活動に専念。文芸社に自費出版の持ち込みを行い、「余命10年」の書籍化が決定する。17年、文庫版の発売に向けて、校正を終えたが、小坂さんはその直後、この世を去ってしまう。

小坂さんの遺した想いが詰まった小説を、実写映画として再び世に送り出す――。その思いを託されたのは、藤井道人監督(「デイアンドナイト」「ヤクザと家族 The Family」)だ。オファーを引き受ける際にこだわったのは「1年を通して撮影をすること」。その1年という期間に、劇中で流れる10年の歳月を当てはめていく。

「季節の移り変わりによる暑さや寒さ、匂い、体温などとともに、それらが役者陣のお芝居にもたらすものを、しっかりとらえたいという思いがありました」

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四季になぞらえ、描き出される“楽しくも切ない時間”。そこに飛び込んだのは、初共演となった小松菜奈坂口健太郎だ。

20歳の時に、数万人にひとりという難病を発症、余命が10年であることを知り「もう恋はしない」と心に決めた茉莉。

生きることに迷い、自分の居場所を見失った和人。

今回のインタビューは、ジャパンプレミアイベントの開催直前に実施。小松と坂口が心に秘めていたのは「茉莉、和人として“生きる”」という決意だった。(取材・文/編集部 岡田寛司、写真/間庭裕基)


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――本作のタイトルは「余命10年」。映画自体の話に入る前に、まずは「余命10年」という言葉と相対した時、どのような印象を受けたのか、どのような考えを巡らせたのかを教えてください。

小松:何かをするのには時間が足りなくて、何もしていないと長く感じる――。劇中のセリフ「長いんだか短いんだか、どっちなんだって感じ」という言葉の通りかなと思いました。もちろん、状況にもよるとは思います。

――仰る通り、何かを判断して実行に移していくためには短い時間のように思います。

小松:自分に置き換えて考えたこともありました。私は生きていて(時の流れが)早かったなと感じたことはなかったんです。でも、茉莉の立場だったら……その10年の感覚というのは、きっと違うと思うんです。

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――坂口さんは、どう感じられましたか?

坂口:例えば、今日という身近な時間に関しては、自分をそこにきちんと置いて生きることができると思うんです。10年というものは、果てしないものでもありますし、その時々で捉え方が変わってきそうですよね。子どもの頃って、1日1日が長く感じたじゃないですか。そんなこともあれば、今30歳を迎えて、周囲の人達から「30代なんてあっという間」ということも聞いたりします。多分、あっという間なんだろうなと思っていますが、10年間における“それぞれの1日”の全てを、全力で生きていくことは難しいと考えてしまったり。60、70代になれば、その感覚も変わってくるのかもしれません。

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――ありがとうございます。では、藤井監督と歩んだ日々に話を移しましょう。今回のタッグはいかがでしたか?

小松:私は、とても(相性が)合っていたと思っています。撮影初日は“面接のシーン”だったんです。藤井監督とは今回初めてご一緒させていただいたのですが、茉莉の緊張感、「もうダメだ……」という気持ちを、わかりやすく表現した方がいいのかなと思っていたんです。でも、その芝居を見た監督は「そんな風にわかりやすく出そうとしなくていい。僕たちがちゃんと撮るから大丈夫です」と仰ってくださったんです。それがとても印象に残っています。

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――わかりやすく演じなくていい、僕たちがちゃんと撮る。そう仰ってくれるのは、非常に心強いですね。

小松:そうなんです。内側にあるものをきちんと出せば、しっかりと撮ってくれる。そういう部分も、見てくださっている方なんだなと。言葉ひとつひとつも、その全てを声に出して言う必要はない。「人に当てるんじゃなくて、落としてみて」。セリフを発する際も、そういう言い方をされていました。私もそう考えているタイプなんです。セリフや会話を“張って言う”のは、あまり自然じゃない――これまでも、そんなことを感じてしまう瞬間があったんです。そういうことをわかってくれる監督でした。すごく腑に落ちたんです。茉莉としてスタートがきれそうだなと思えた瞬間でした。それに、監督は結構、体育会系というか……。

――そうなんですか?

小松:明確な情熱を持っているし、それをきちんと表に出す方だと思いました。

坂口:うん、それはそう思う。

小松:内側に秘めたままにしないで「ちゃんとこうしていこう」と言ってくれる人。妥協せずに燃え尽きよう。そんなことも話していました。カラっとしているんです。言いたいことを言ってくれる。どちらかというと毒舌ですし(笑)。

坂口:(笑)

小松:本音で接してくださるので、私はすごくやりやすかったんです。なんでも言い合えますし、チャレンジをすることができる。対面というより、ちゃんと隣にいてくれるような感じです。監督と俳優という立場を超えて、ひとりの人として見てくれました。

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――坂口さんは、いかがでしたか?

坂口:振り返ってみると、レベルの高いことを要求されていたんだなと思います。ある意味、芝居を求められなかったと言いますか……和人としてカメラの前にいなければいけなかった。でも、それってすごく難しいんです。ただただ「和人として生きる」ということを撮られている。最初の打ち合わせの時「茉莉と和人の時間を、僕らが覗き見するような感覚で撮っていきたい」と仰っていたんです。最初は「そういう感じで撮るのか」と漠然とした感じで考えていたんですが、いざ撮られてみると「和人として、そこにいる」という難しさを実感しました。人の感情には、色んなパターンがありますよね。ワンテイクでOKが出る。これって格好良く聞こえるんですが、そこには怖さを感じることがあるんです。(リテイクをすれば)もしかしたら、違う方向性、異なる感情のニュアンスがあったんじゃないか。そうすれば芝居は変わります。監督は、そういう色々なパターンをすくいとってくれていました。例えば、クライマックスのシーンです。

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――桜並木を舞台にしたシーンですね。

坂口:桜並木を歩き、やがて振り返る。その時に映る表情は、いくつかのパターンを撮っていたんです。希望に満ち溢れたもの。少しわだかまりを残した切ないもの。監督は「色々撮ってみますが、(映像を)繋いでみた段階で、一番良いと感じたものを使わせてほしい」と仰っていました。人生の心の中の感情は、その時によって本当にたくさんある。監督は、そのことを理解してくれていたような気がしています。“本当に生きる”ということを求められたんです。そのことを表現していくのは大変でしたね。

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――撮影は、2020年の夏から始まり、冬を越して、21年の初夏にクランクアップとなりました。約1年という撮影期間は、なかなか経験することがないと思います。このような長期に渡る作品との関わり方は、どうでしたか?

小松:私はすごく良かったと思います。

――その期間、常に「茉莉」という存在を感じ取っていたのでしょうか?

小松:やっぱり気持ちを繋ぎ留めておくのは、大変でした。(茉莉以外の)他の役も演じますし、色々な人と会うことにもなる。役の都合上、減量もしなければなりませんでした。そんな時に支えてくれたのが、RADWIMPSさんの主題歌「うるうびと」だったんです。衣装合わせの段階から曲が出来ていたんですが、常に聴いて、気持ちを切り替えていました。撮影期間もそうですし、撮影がない時も。私と茉莉を結びつけてくれていたんです。

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小松:それに、久々に現場に入っても、皆と会うと「あ!」と思い出せたんです。家族といる茉莉。和人といる茉莉。タケル(山田裕貴)や沙苗(奈緒)も加わって、4人でいる時の茉莉。1年という期間が記憶として残っていて、しっかりと時間が流れていることを感じられました。キャストだけでなく、監督、スタッフの皆さんとの距離が縮まっていくのもわかりました。撮影が始まる前、撮影部の方々には「このように撮りたい」というプランがあったはず。例えば、茉莉と和人が訪れたゲレンデのシーン、2人が朝を迎えたシーン。ここは最初、引きの画を撮る予定だったそうです。でも、スタッフの方々は「2人を見ているうちに、寄りの画にしたくなった」と仰っていました。茉莉と和人の表情、関係性、心の繋がり方の変化に応じて、スタッフの皆さんの考えも変わっていく。現場での苦しみや楽しさも共有できていたので、皆さんとの距離はどんどん縮まっていきました。

――内覧試写会の際、上映後に登壇された藤井監督が、こんなことを仰っていました。今、お話されたゲレンデでの撮影では「“ゲレンデ・マジック”が起こった」と。小松さん、坂口さんの距離感が、グッと縮まったタイミングだったようですね。

坂口:夏の撮影では、点描的なシーンを撮ることが多かったんですよ。セリフのやり取りもあまりない。だけど、話をする時間がなかったわけではないと思うんですけどね。

小松:でも、全部が早かった気がする。このシーンを撮ったら、すぐに次の現場に移動して……みたいな感じです。

坂口:ゲレンデの撮影では、セッティングの都合で、たまたま2人きりになる時間ができたんです。その時に、色んな話をしたと思います。「クランクインしてから、しばらく経つけど、今はどんな感じ?」とか。お互いの芝居や作品に対する考えについて、話し合うことができたんです。「こんなことを考えているんだ」というものが知ることができた瞬間でした。

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――具体的にどんなことをお話されたんですか?

坂口:「感情の吐露の仕方」とかですね。例えば、涙を流すシーンがあったとします。「そういう時に泣ける?」「そんなに簡単に泣けないよねー」と話し合ったり(笑)。

小松:(笑)。そこから撮影に入る“朝のシーン”は、とても重要な場面でもあったので、私も不安だったんです。その時は、坂口君の事を表面上はわかるけど、「どんな人?」と聞かれたら「一体、どんな人なんだろう……」という状態でした。感情的なシーンであっても難なくこなしてしまう方なのか、どういう芝居をする人なのか――純粋に気になったので、そういう話に発展しました。役としてではなく、坂口君自身の事を聞けた。「そういう一面もあるんだなぁ」と知ることができたんです。だからこそ、自分自身の事も出しやすくなったんだと思います。

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――非常に良い機会だったんですね。

坂口:(プレスに掲載されたゲレンデシーンの写真を指差しながら)これだよね。

小松:そう。2人でそりに乗りながら、喋ってたよね(笑)。

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